異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第292話 転生者、農業を始める

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 俺たちの準備がちょうど整った頃に、扉を叩く音が鳴り響く。

「魔王殿。皇帝陛下から遣わされました者でございます。お部屋に入っても大丈夫でしょうか」

「おう、大丈夫だ。入ってくれ」

「それでは失礼致します」

 やり取りを終えると、扉が開いて一人の男性と複数名の連れが入ってきた。
 どうやら彼らが、今回皇帝に遣わされてきた農業の助手たちだろう。

「私はギノと申します。皇帝陛下より、魔王殿の農業を手伝う様にと仰せつかっております。こちらの者たちは、私の部下でございます。無理のない程度にこき使って頂いて結構でございます」

「あ、ああ、よろしく頼む」

 思ったよりも大所帯だったので、俺は少々ばかり面食らってしまっていた。
 でも、農業って思ったよりも重労働だからな。このくらいいる方がちょうどいいのかもしれない。
 しっかりと準備が整った俺たちは、帝都からそう離れていない、農業に適した土地へと向かうことにしたのだった。
 ああ、もちろん朝になってからだけどな。

 そんなこんなで、帝都から離れた指定された地点まで俺たちはやって来た。
 見た感じは多少手の入った形跡はあるものの、ただの荒れ地といった感じだ。
 よく見ると、あちこちに朽ち果てた建物が見える。西側にあったあの農村と同じような状況にあったのだろう。
 まったく、先代の皇帝は何をしていたんだか。こうやって見てみると、負の遺産まみれじゃねえかよ。
 反皇帝派が発生するのもとても納得がいくってもんだよな。これだけ荒れ果ててしまえば、誰だって不安になっちまうものだからよ。食い物の恨みはマジできつい。

「魔王殿、どのくらいの規模で開拓しますか?」

 到着するなり、ギノが質問をしてくる。
 どのくらいの規模か……。
 帝国の規模とか、俺にはよく分からないからな。だから、ひとまずは現在の生産量を倍加させるべきだろうと思う。

「西側にある農村、あれくらいの規模で整備するとしよう。まずは俺たちで耕しながら、農村の住民を募ってくれ」

「分かりました。では、すぐにでも手配をします」

 ギノはそのように答えると、ついて来た作業員の一人を帝都へと向かわせた。
 距離もそう遠くないし、馬に乗れるのならそんなに心配は要らないだろう。それに、こっちの人員もそう割けるものじゃないしな。

「それじゃ早速始めるとしようか」

 少しでも早く豊かな土地を取り戻したいからな。俺はキリエと一緒に立てたプランに沿って、やって来た場所の開拓を始める。
 俺が持ってきたのは、小麦と米とポテイだ。
 ここにやってくる前の段階での話だが、ウネの力を見よう見まねで再現して、どうにかこうにか米は苗の状態にすることができた。これでは少しは育てやすくなったはずだ。
 ただ、これだけでは圧倒的に足りないものがある。
 野菜と果物だ。こればっかりは俺では用意することができなかった。正確に言うと完全に失念してたんだよ。
 果物なんてデザート系だと必須だっていうのに、なんで忘れてたんだろうな、俺は。
 自分の間抜け加減に、俺は反省するしかなかった。
 だが、予想外なことに、一部の果物は予定地の近くで見つかった。これには俺も胸を撫で下ろすばかりだったよ。
 となれば、残りは野菜だな。キャベツとか大根とか、この世界だとどんなのがあるんだろうな。戻ったらウネによく聞いておかないといけないな。

 こんな感じで一部の漏れがあるものの、農村を開拓するための作業が始まった。
 野菜系の畑は、そのための区画を空けてもらっておく。あとで調達した時に植える場所がないと困るからな。
 ギノに確認すれば、この近辺にはいろんな植物が自生しているらしい。一部は放棄された農村の畑が野生化したものもあるとかどうとか。
 いや、こうやって話を聞けば、さらに先代皇帝のやばさが浮き彫りになってくるな。どんだけ好き放題してたんだよ。
 そう思うと、今の皇帝もどことなく父親の性格を受け継いでそうだよな。忙しいにしても手がつかないあたり、その気が強くて心配になってくる。

「ギノっていったな」

「はい、魔王殿」

「帝国民の食を支えるためにも、農業のことを頼んだぞ」

「もちろんでございます。食わねば今日の活力すら得られません。帝国の民を飢えさせるなど、あってたまるものですか」

 ギノからは強い決意を感じる。

「よし、さっさと形くらいは整えないとな」

「はっ、お任せ下さい」

 俺とギノの知識を組み合わせて、農村の形を作っていく。俺のチート級の魔法があれば、さすがにエキスパートのウネには敵わないものの、それなりの体裁を整えることができた。
 キリエもさすがに専門外とあってか、作業員たちを労うことに専念していた。そのためのメイド服か。

「よし、こんなものかな。あとはこまめに草を引いて、肥料を与えていけばいいだろう」

「なんとか形になりましたね。それにしても、この米というものは変わった育て方をするのですね」

「ああ、水稲栽培っていって、水を張った場所で育てる方法なんだ。植える直前に水を張って土を掘り起こして、刈り取る前には干上がらせるんだが、実は俺も詳しくはない。農家の人がやってるのを見てたくらいだからな」

 俺が困ったように笑いながら言うと、ギノはさすがに呆れた顔をしていた。

「まあ、西側の農村でも育ててるから、そっちから分かる人を呼んでくるとするよ」

「本当に、頼みますよ?」

 この時のギノの表情がすべてを物語っている。
 不安が大きい中、帝都の東側での農村開拓が始まった。
 帝国の食料事情ははたして改善するのか。それはまだ分からない。
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