異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第293話 転生者、皇帝にある疑いを持つ

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 どうにかこうにか、帝国内の食料事情を改善するための一歩を踏み出すことができた。
 このまま東側の農村が定着してくれれば、西側の農村と合わせてかなりの供給量を確保できるはずだ。
 こういう時にウネでもいてくれればいいんだが、あいつは魔王城の庭園の手入れという立派な仕事があるからな。あいつがいるから、薬師たちも安心して働いていられるんだよ。つまり、そう簡単にウネを連れ出すことはできない。すでに一回連れてきてるしな。
 なので、帝国の農民たちには、自分たちで頑張ってもらうしかないというわけだった。
 必要な知識は西側の農村が持ってるわけだし、そこはどうにか融通するだろう。
 あまり魔王である俺が肩入れすると、一部の帝国民は反発しかねないしな。こればっかりは難しい話だ。

「ギノ、俺は魔王である以上、これ以上の手出しはできない。いくら俺たちが和平に向けて動いているとはいえ、国内情勢の不安定な帝国においては、俺の存在が悪い方向に働く可能性がある」

「確かに、それは十分に考えられますな。……分かりました。これまで授けて頂いた知識を元に、私どもで頑張ってみます」

「ああ、頼んだぞ。帝国の命運を握っているといっても過言じゃないからな。食は生命の根源だからな」

 俺がしっかりと言い聞かせると、ギノは深々と頭を下げていた。
 分かってくれたとみて、東の農村の指揮をギノに渡した俺は、帝都へと戻っていった。帰る前にもう一度確認しに戻るとしような。

 キリエとともに帝都の宮殿へと戻った俺は、皇帝と早速顔を合わせる。
 こっちもこっちでいろいろとやることが多いからな。
 とはいえ、あまり仕事を手伝い過ぎると内政干渉なので、加減というものが難しい。とはいえ、今さら感もあるんだがな。

「おう、エイミー。皇帝陛下と一緒じゃないのか?」

「お帰りなのにゃ、魔王。陛下ならケンソウと一緒に体を動かしに行ったのにゃ。一国の主たるもの、民を守る術も持たずして何が主かって、かなり意気込んでたにゃ」

「ああ、俺との打ち合いで完全にやる気を出しちまったようだな」

 俺は顔を天井に向けると、覆うように手を当てている。やらかしてしまったという動作だ。
 あの剣の打ち合いはただの気分転換だったんだが、戦いが好きだった前皇帝の血を完全に目覚めさせちまったようだ。

「ということは訓練場か。キリエ、エイミーを手伝ってやってくれ」

「魔王様は?」

「訓練場に行ってくる。適当なところでやめさせてくるよ」

「お気をつけて、魔王様」

 キリエはおとなしく俺を送り出してくれた。

 俺は先日やって来た訓練場へと姿を現す。
 そこでは、ケンソウと打ち合う皇帝の姿があった。

「ははっ、皇帝陛下の剣筋は素晴らしいものがあります。ですが、帝国にその人ありといわれた将軍である私には、まだまだ遠く及びませんな」

 なんてこったい。
 俺と互角の打ち合いをしていた皇帝が、ケンソウ相手にものすごく苦戦をしてやがる。
 おいおい、これじゃまるで俺が大したことないみたいに見えるじゃないか。

「まったく、皇帝陛下ときたら、なんで今日も打ち合いなんかしてるんだよ」

「これは魔王殿。お戻りになられたのですか」

「ああ、ついさっきな。それより、状況を教えてくれ。何がどうなってこうなっているのかをな」

「はっ、畏まりました」

 俺が声を掛けた兵士が、ことのいきさつを全部話してくれた。
 どうやらこの兵士、事の一部始終を見ていたらしい。
 兵士の話によれば、体を動かしたくてたまらない皇帝が、ケンソウにせがみまくったそうだ。
 その結果が今の状況なのだという。
 いや、まったく困ったもんだな。

「分かった。ちょっと責任を感じるから、俺に任せてくれ」

 俺は兵士から訓練用の木剣を受け取って、皇帝たちのところへと向かう。

「よう、元気いっぱいだな」

 俺が姿を見せると、皇帝は姿勢を正して俺の方へと向き直っていた。さっきまでそこで落ち込んでいたとは思えない態度だな。思わず笑っちまうよ。

「ちょっと確かめたいことがあるから、皇帝陛下、俺との一勝負を受けてくれ」

「ふっ、何をいうかと思ったが。……よかろう、受けてたとう」

 少し間があったものの、無事に俺との勝負を受けてくれることになった。
 ここで俺が気になっているのは、魔王である俺といい勝負をしているのに、同じ人間であるケンソウにはまったく歯が立たないという点だ。
 こうなってくると、俺の中にはひとつの仮説が浮かび上がってきたのだよ。
 結果、予想通り俺とはまったく互角の戦いをしてくれる。さっきのケンソウとの戦いと比べると、皇帝の動きが明らかに違っている。
 これはケンソウや周りの兵士たちの反応を見れば一目瞭然だ。

(やっぱり、皇帝にはとある可能性が浮かんでくるな)

 俺の中に浮かんできた疑惑。それは、特効といわれる効果だ。
 特効というのは特定の相手にだけやけに効力を発揮する力で、勇者や聖女なんていうラノベあるあるな称号の持ち主が持っていたりするものだ。
 こうやって戦ってはっきりした。
 皇帝には間違いなく魔族特効がある。
 それはすなわち、皇帝には勇者適性があるということを示していた。
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