298 / 431
第一章 大陸編
第298話 転生者、ヨネスの戦いを見守る
しおりを挟む
訓練場の中で、ヨネスと帝国の兵士が向かい合っている。
皇帝の剣の先生としてふさわしいのか、その実力を見るためだ。
気が付いた一部の兵士たちが、その手を止めてヨネスの方を見ている。あの魔王が直々に連れてきた人物なのだから、興味が起きない方がおかしいのである。
その注目は段々と広がっていき、最終的にはケンソウですら手を止めて見守る事態となっていた。
「南方王国の騎士といったな」
「いかにも」
「ならば、東方帝国の強さというものをその身に刻み込んで帰るのだな」
ヨネスの相手をする兵士が脅しのように告げている。
だが、ヨネスがその程度でビビると思うなよ?
皇帝のような補正もなく、こいつは俺とそこそこ打ち合える人間なんだからな。
「御託はいい、さっさと始めるぞ」
さすがはヨネスだな。安い挑発なんぞに簡単には乗らないな。
さて、久しぶりにお前の剣の腕というものを見させてもらうぜ。
俺たちが見守る中、いよいよ帝国の兵士とヨネスの戦いが始まる。
しばらくは様子を見合ったまま、動かない。
「どうした、せめて来ないのか?」
帝国の兵士が挑発する。それでも微動だにしない。
「はっ! 結局、大したことないんだな。来ないというのなら、お望み通りこっちからいってやる!」
しびれを切らした帝国の兵士がヨネスへと斬りかかる。
それでも動かないヨネスに、多くの兵士は笑っている。
皇帝とケンソウ、それと一部の兵士は険しい表情のままだ。どうやら、気が付いているみたいだな。
兵士がヨネスにまさに一撃を加えようとした時だった。
「かはっ!」
斬りかかったはずの兵士が、次の瞬間には地面にうずくまっていた。
ははっ、学生の頃からさらに腕を上げやがったな、ヨネスのやつ。
「な、何が起きたんだ?」
「何も見えなかったぞ」
一般の兵士たちが騒いでいるな。一瞬でやり返されたから、分からないのも無理はないというものだぜ。
「どうしたかね、皇帝陛下、ケンソウ」
見物していたことには気が付いていたので、俺は二人へと話しかける。
「彼はまだまだ下っ端兵士ですからな、実力を見るにはちょっと足りないでしょう。ならば……」
ケンソウが歩み出てくる。
おいおい、もう動くのかよ。
「この私が見て差し上げましょう。他の兵士たちにとっては、いい刺激になるでしょうからな」
これは思ってもみない展開だな。
釣れたらラッキー程度にしか思っていなかったが、まさか本当に動いてくれるとはな。
「セイ、大丈夫なの? あの人、ずいぶんと強いみたいだけど」
「ああ、あいつはケンソウっていって、帝国の将軍だよ。でも、剣の指南役となるなら、彼と互角にやり合えないとな」
「危険そうだったら止めてね」
「その時はケンソウが止めるさ。とりあえず黙って見守ろうぜ」
俺はケンソウの判断を信じて、戦いを黙って見守ることにした。
会場では、ケンソウとヨネスが睨み合っている。
「ヨネスと申しましたな。私は帝国の将軍ケンソウと申す。その腕、試させてもらいますぞ」
「俺は南方王国の国境警備隊の隊員ヨネスだ。その胸、お借りする」
互いに名乗り合うと、ざっと剣を構える。
見るだけで伝わってくるものだ。まったくというくらいに隙がない。
これはかなりいい勝負になりそうだな。
俺はピエラに一声かけると、二人の間へと移動していく。
合図を出す者くらいは要るだろうからな。
「二人とも、準備はいいかな」
「もちろんですとも」
「もちろんだぜ」
俺が双方に確認を取ると、準備万端の声が返ってくる。
確かに、全身からやる気が感じられる。互いに強敵なのが分かっているようだ。
ならば、ますますこの戦いは俺が預かるしかあるまい。
俺は大きく息を吸う。
それと同時に、二人の踏み込みが強くなる。
「始め!」
俺が大きな声で合図を出すと、ケンソウとヨネスは同時に互いに向かって走り出す。
俺は巻き込まれないように大きく後ろに退避。その場に留まれば、二人の剣圧に巻き込まれてるからな。
俺が元々いた場所では、二人の剣が勢い良くぶつかり合っていた。
その衝撃だけで風圧が起きているくらいだ。その場にいたら本当にやばかったな。
ギリギリと剣を押し合って力比べをしている。
信じられるか? これが木剣から繰り出されているっていう現実が。
しばらく押し合いが続いたかと思うと、二人は勢いよく剣を弾いて、一度距離を取って態勢を整え直す。
大きく肩が動いているが、二人の表情は笑顔だ。
おそらく、さっきの一撃だけでお互いの実力というものを感じ取ったんだろうな。
「なかなかお強いようですな。ならば、これは本気で行かせてもらうしかないようですな」
「はん! 望むところだっていうんだ。南方王国の騎士の力、とくと見せてやるぜ!」
あーあ、完全いスイッチが入っちまったな。
ここからの戦いというものは、凄まじいの一言に尽きる。
結局ただの模擬戦だということも忘れて、二人は気の済むまで剣を打ち合っていた。
無事にヨネスが皇帝の剣の指南役として認められたのはいいんだが、あの打ち合いだけは本当に適当なところでやめてほしかったな、うん。
皇帝の剣の先生としてふさわしいのか、その実力を見るためだ。
気が付いた一部の兵士たちが、その手を止めてヨネスの方を見ている。あの魔王が直々に連れてきた人物なのだから、興味が起きない方がおかしいのである。
その注目は段々と広がっていき、最終的にはケンソウですら手を止めて見守る事態となっていた。
「南方王国の騎士といったな」
「いかにも」
「ならば、東方帝国の強さというものをその身に刻み込んで帰るのだな」
ヨネスの相手をする兵士が脅しのように告げている。
だが、ヨネスがその程度でビビると思うなよ?
皇帝のような補正もなく、こいつは俺とそこそこ打ち合える人間なんだからな。
「御託はいい、さっさと始めるぞ」
さすがはヨネスだな。安い挑発なんぞに簡単には乗らないな。
さて、久しぶりにお前の剣の腕というものを見させてもらうぜ。
俺たちが見守る中、いよいよ帝国の兵士とヨネスの戦いが始まる。
しばらくは様子を見合ったまま、動かない。
「どうした、せめて来ないのか?」
帝国の兵士が挑発する。それでも微動だにしない。
「はっ! 結局、大したことないんだな。来ないというのなら、お望み通りこっちからいってやる!」
しびれを切らした帝国の兵士がヨネスへと斬りかかる。
それでも動かないヨネスに、多くの兵士は笑っている。
皇帝とケンソウ、それと一部の兵士は険しい表情のままだ。どうやら、気が付いているみたいだな。
兵士がヨネスにまさに一撃を加えようとした時だった。
「かはっ!」
斬りかかったはずの兵士が、次の瞬間には地面にうずくまっていた。
ははっ、学生の頃からさらに腕を上げやがったな、ヨネスのやつ。
「な、何が起きたんだ?」
「何も見えなかったぞ」
一般の兵士たちが騒いでいるな。一瞬でやり返されたから、分からないのも無理はないというものだぜ。
「どうしたかね、皇帝陛下、ケンソウ」
見物していたことには気が付いていたので、俺は二人へと話しかける。
「彼はまだまだ下っ端兵士ですからな、実力を見るにはちょっと足りないでしょう。ならば……」
ケンソウが歩み出てくる。
おいおい、もう動くのかよ。
「この私が見て差し上げましょう。他の兵士たちにとっては、いい刺激になるでしょうからな」
これは思ってもみない展開だな。
釣れたらラッキー程度にしか思っていなかったが、まさか本当に動いてくれるとはな。
「セイ、大丈夫なの? あの人、ずいぶんと強いみたいだけど」
「ああ、あいつはケンソウっていって、帝国の将軍だよ。でも、剣の指南役となるなら、彼と互角にやり合えないとな」
「危険そうだったら止めてね」
「その時はケンソウが止めるさ。とりあえず黙って見守ろうぜ」
俺はケンソウの判断を信じて、戦いを黙って見守ることにした。
会場では、ケンソウとヨネスが睨み合っている。
「ヨネスと申しましたな。私は帝国の将軍ケンソウと申す。その腕、試させてもらいますぞ」
「俺は南方王国の国境警備隊の隊員ヨネスだ。その胸、お借りする」
互いに名乗り合うと、ざっと剣を構える。
見るだけで伝わってくるものだ。まったくというくらいに隙がない。
これはかなりいい勝負になりそうだな。
俺はピエラに一声かけると、二人の間へと移動していく。
合図を出す者くらいは要るだろうからな。
「二人とも、準備はいいかな」
「もちろんですとも」
「もちろんだぜ」
俺が双方に確認を取ると、準備万端の声が返ってくる。
確かに、全身からやる気が感じられる。互いに強敵なのが分かっているようだ。
ならば、ますますこの戦いは俺が預かるしかあるまい。
俺は大きく息を吸う。
それと同時に、二人の踏み込みが強くなる。
「始め!」
俺が大きな声で合図を出すと、ケンソウとヨネスは同時に互いに向かって走り出す。
俺は巻き込まれないように大きく後ろに退避。その場に留まれば、二人の剣圧に巻き込まれてるからな。
俺が元々いた場所では、二人の剣が勢い良くぶつかり合っていた。
その衝撃だけで風圧が起きているくらいだ。その場にいたら本当にやばかったな。
ギリギリと剣を押し合って力比べをしている。
信じられるか? これが木剣から繰り出されているっていう現実が。
しばらく押し合いが続いたかと思うと、二人は勢いよく剣を弾いて、一度距離を取って態勢を整え直す。
大きく肩が動いているが、二人の表情は笑顔だ。
おそらく、さっきの一撃だけでお互いの実力というものを感じ取ったんだろうな。
「なかなかお強いようですな。ならば、これは本気で行かせてもらうしかないようですな」
「はん! 望むところだっていうんだ。南方王国の騎士の力、とくと見せてやるぜ!」
あーあ、完全いスイッチが入っちまったな。
ここからの戦いというものは、凄まじいの一言に尽きる。
結局ただの模擬戦だということも忘れて、二人は気の済むまで剣を打ち合っていた。
無事にヨネスが皇帝の剣の指南役として認められたのはいいんだが、あの打ち合いだけは本当に適当なところでやめてほしかったな、うん。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる