異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第302話 転生者、東の農村を再訪問する

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 最近できたばかりの東の農村へと俺たちはやってきた。
 もともと農業を営んでいる人物が集まった西の農村に比べれば、集まっている人員が頼りないからな。
 農業の専門家がいるとはいえ、人員は寄せ集めなんだよな。だから、気になるといえば気になるんだよ。
 そうやって、東の農村へとやってきた俺とピエラだが、到着した時に見た光景はそんな不安を吹き飛ばすような光景だった。

「おお、すごい。農村がきちんとでき上がっていってるぞ……」

 目の前に広がっていたのは、ちゃんとした集落と畑が整備されている光景だった。
 魔王領の馬を降りてピエラに任せた俺は、村へと近付いていく。
 ピエラに任せるとか酷いとか思ったやつがいるだろうがな、魔王領の馬たちはピエラになぜか懐いているんだよ。
 だから、そこらの腕っぷしの強い奴に任せるよりは安心ってわけなんだ、分かったか。
 まっ、これもピエラのモフモフ好きっていうのが影響してるんだろうけどな。好きも極めるとこういう風になるんだな。

「ギノ」

「これは魔王殿。先日ぶりでございます」

 責任者であるギノの姿が見えたので、俺が声をかける。ギノはその声に気が付いて、丁寧に挨拶を返してくれた。

「驚いたな。立派な農村ができ上がっているじゃないか」

「はい、近隣に声をかけましたところ、希望者が殺到致しましてね。あっという間にこの状況となりました」

 くるりと振り返ったギノの向く先を見ると、多くの農民たちが農作業を楽しんでいるようだった。
 ただ、まだ先日始めたばかりなので、何もないような状況ではある。それでも、これだけ住民たちが楽しそうならば十分期待はできそうな感じではある。

「そうか。この分なら、最初の収穫はどのくらいでできそうかな」

「そうですね。早くて百十日くらいでしょうかね。農民たちは育てたくて仕方のない方々ですから、失敗をすることはないでしょう。ですが、植物は根気よく育てなければならないものです。時間がかかるのは仕方がないのです」

「まあ、そうだな。ドライアドやアルラウネが特殊ってだけだろうからな」

 ギノの話す内容に、ものすごく納得がいくというものだ。経験者が言うのだから、説得力が違うんだよ。

「ドライアドやアルラウネには、特殊な能力があるのですかな?」

 ギノは俺の呟きが気になったらしく、質問をしてきた。
 聞こえるように喋っちまったのもあるので、俺はその質問に答える。

「ああ、どちらも植物に関するエキスパートだ。あいつらがその気になれば、一瞬で植物を実りの状態まで育てることもできるんだよ。おかげで、魔王城には薬草があふれ返っちまってる」

「それは素晴らしいですね。その力があれば、どのような状況でも飢えをしのげるというものですよ」

 まあ、普通の人間からしたらそういう反応にはなるだろうな。
 ただ、あいつらはとにかく気まぐれという欠点がある。やる気にならなければ絶対に動かない。
 ウネにしたって俺に興味があるからということで手伝ってくれたからな。多分、あいつが言うことを聞く相手は少ないだろう。
 そういうところが、実に魔族らしいって感じだよな。

 ギノとの話を終えた俺は、農村の中を見て回る。
 どこへ行っても農民たちは俺とギノに対して挨拶をしてくれる。生きる糧を与えてもらったということなのだろうか、深々と頭を下げてくれている。
 うん、こういうのは実に悪くないな。
 それにしても、一周回ってみて分かったが、農民たちがみんな生き生きとしていたな。ずっと待ち焦がれていたんだろうという気持ちがよく伝わってくる。
 だからこそ、農村を作ろうとした俺に対して、あれだけ頭をしっかり下げてきたんだろう。
 なんだろうかな、誇らしくなってくるよ。

「ここの作物が十分育ちましたら、魔王殿にも振る舞わせて頂きます。その時には招待状をお送りしますので、楽しみにしていて下さい」

「お、おう。それは楽しみだな」

 ギノが笑顔で伝えてくるので、俺はちょっと戸惑いながら返事をしておいた。
 ひと通り視察を終えて入口に戻ってきた俺たちのところに、一部の農民が駆け寄ってきた。

「魔王様、食事を振る舞わせて下さい」

「私たちが仕事を再び持てたのは魔王様のおかげなんです。お礼くらいさせて下さい」

 キラキラとした目を向けてくるものの、さすがにそれは悪い気がした俺は、農民たちにこう告げる。

「気持ちだけありがたく受け取っておくよ。今はまだ大事な食糧なんだ。大事に取っておいて自分たちで食べてくれ」

 そう、今の農村の食事は、一足先に収穫できるようになった西側の農村の作物と、今の住民たちが持ち寄ったもので賄われている。
 なので、ここで俺が食事を頂いて村人たちの食い扶持を減らすわけにはいかなかった。俺一人分の食事で、一体何人分の飢えがしのげるだろうかと思うと、とてもこの申し出は受け入れられなかった。

「さすが魔王様。俺、感動しました」

「ありがたく思います。きっといつか、このお礼がを振る舞えるように、この村をしっかりと育てていきます!」

 村人たちは俄然やる気を出したようだった。
 まったく、生活はまだまだ厳しいだろうに、みんな本当に無理に明るく振る舞ってやがるな。
 こうなったら、少しくらいは差し入れをしてやりたくなってくる。
 ところが、俺の好意はギノによって止められてしまった。
 直接の施しはよろしくないというのだ。

「魔王殿、もし援助頂けるのでしたら、陛下を通して頂けると助かります」

 なるほどそういうことね。
 俺から直接じゃなくて、皇帝を通すことで皇帝のイメージを向上させようというわけか。まったく悪知恵が働くものだよ。
 ギノとの会話を終えて、俺は帝都に向けて戻ることにする。
 次に俺が来る頃には、今よりももっと反映した状態を見せてみせると、ギノはかなり入れ込んでいるようだった。
 俺はその言葉の成果を楽しみに、農村から帝都に向けて戻っていくのだった。
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