異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第323話 転生者、次を考える

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 意外とあっさりとレーヴェンが渡してくれた種を増やすことができた。
 だが、ここで失念していた問題がふと浮かんでくる。

「将来的に食べ物が無くなってくるな。それをどうしたものか……」

 そう、食料の問題だった。
 この外の世界では、動物が一切確認できないので、肉の類を食べることは不可能だ。
 植物だけでもどうにかなるとは思うが、それでは栄養の偏りは間違いなく起きてしまう。実に由々しき問題だった。

「デザストレのうろこには、いくらか食材の元は入ってるが、育てるとしてもこの環境で育つのかが問題だな」

 俺は不安そうにデザストレのうろこを眺めている。

「大丈夫ですよ。レーヴェン様の樹が一本定着しましたので、これでこの辺りの空気は徐々に浄化されていきます。そうなれば他の植物も育つようになるでしょうから、増やすことは可能です。ただ……」

「ただ?」

 セイ太が説明を始めているが、どこか不安そうな表情をしていた。

「ただ、レーヴェン様の樹と距離が近いことですね。少し距離が欲しいですので、この島よりも大きな場所で育てた方がよいと考えます」

「ふむ、そういうことか」

 セイ太の心配をすぐに俺は理解した。
 今俺たちがいる島では、いろいろと農作物を育てるには狭すぎるというわけだ。
 ごちゃごちゃと密集して育てると、結局生育が阻害されて全部枯れちまうからな。ましてや、この辺りの空気は猛毒に侵されている。そもそも育ちにくい環境で、さらに劣悪な環境を与えては、育つものすら育たないというわけだ。
 だが、幸いこの辺りには同じような大きさの島が点在している。一か所ではだめだというのなら、島それぞれに植えればいいのではないのかということになるのだ。
 ところが、これもまたセイ太に否定される。

「今度は何なんだよ。いいアイディアだと思ったのにさ」

 俺はセイ太に怒っている。

「レーヴェンの樹は定着したばかりなんです。なので、影響範囲がそんなに広くないんですよ。この辺りで安全に生育させられるとしたら、もう一本は必要になります」

「むむむ……」

 セイ太にそんなことを言われて、俺はデイジーの方を見る。
 成長促進魔法を使ってすっかり疲れてしまっているデイジーに、そんな無茶をさせられるわけがない。
 仕方がないので、この案は今は没となってしまった。
 まあ、食料は最低ひと月分は用意してあるからな。今のところは大丈夫だろう。

「でも、完全否定するわけではありませんよ。ここでも一種類か二種類なら、育てることは可能です。植物の本来の成長速度だと、収穫できるのは早くても五か月後になりますけれどね」

「どっちにしても、デイジー頼りか……。まったく、無茶ばっかりさせてられないってのにな」

 デイジーの魔法がなければ、結局は長期戦が避けられないというわけのようだ。まったく、頭が痛くなるばかりだよ。
 ひとまずは、レーヴェンの樹を一本定着させられただけでもよしとしよう。
 今はデイジーの回復を待つばかりだ。
 俺は大の字になって寝転がっていた。

「よし、魔物も撃退したことだし、しっかりと休むぞ」

「そうね。私も久しぶりに派手に魔法を使ったものね。外の世界だと、中の時より疲れやすいのかしらね」

「かもな。いくら種を飲み込んで無毒化しているとはいっても、少なからず影響を受けるってことだろう。休める時はしっかりと休んどくものだぜ」

 デイジーに膝枕をしているピエラに、俺はそう言い聞かせておいた。

「そうね。ただ、この姿勢で膝枕はちょっと限界があるから、木に寄りかかってくるわね」

「そうだな。デイジーは俺が運ぶよ」

「悪いわね、セイ」

 俺たちはデイジーを連れて、レーヴェンの樹の根元まで移動する。
 ここなら幹があるので、座ったままでももたれ掛かることができるので、幾分姿勢が楽になるというものだ。

「今日の襲撃ではピエラが敵を撃ち落としてくれたから、本当に助かったぜ。まさか上空から来るとはな」

「うん、あれは私も驚いたわ。あんなこともできるんだってね」

「でも、それだけこの木を敵視しているということでしょうね。相手にとって、大気中の毒素を中和できるこの木は、相当嫌な相手のようです」

 俺たちはレーヴェンの樹を見上げている。
 風はないというのに、なんとなくさらさらと揺れているように見えるのは気のせいだろうか。

「レーヴェン様の樹は特別です。多少揺れていてもおかしくはありませんよ。さあ、私たちは今は休みましょう。体力と魔力を回復させないと、次には向かえませんからね」

「セイ太は休まないのか?」

 俺は立ったままでいるセイ太に尋ねる。

「私はレーヴェン様の使徒です。休まなくても大丈夫なんですよ。それに、誰かが見張っていないと、いつ次の襲撃があるか分かりませんからね」

「確かにそうだな」

 セイ太の意見に、俺も賛成だ。

「それじゃ、セイ太。見張りを頼むぞ。俺たちはちょっと休ませてもらうぜ」

「はい、ゆっくり休んで下さい」

 セイ太が頼もしく言うので、俺たちはそのままぐっすりと眠ってしまう。

 さて、俺たちの長い冒険は始まったばかりだが、これから先はどうなるんだろうかな。
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