異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第326話 転生者、ひとつ提案をする

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 南の陸地に移動した俺たちは、早速デイジーの力でレーヴェンの樹を一本定着させることにする。
 そしたらまた、謎の魔物による妨害が入る。だが、さすがにここまで二度対処してきただけに、そう難しい対処ではなかった。上空からの急襲にすら対応できたからな。
 四度目の襲撃は地面の中からだったが、これもセイ太の勘からは逃げられずにあっさり撃退できたのだった。
 こうして、全部で上陸五日目でレーヴェンの樹が一本、新たな大地に根付いたのだ。

「まったく、デイジーの能力はすごいもんだな」

「ははは……、ありがとうございます」

 さすがに二本目で六回も魔法を使ったとあっては、デイジーもまだ頑張って起きていた。
 ゆっくり休んでくれとは思いたいが、眠ってばかりでは失礼とでも思ったんだろうな、デイジーは。

「無理すんな、デイジーは。ゆっくり眠るのが、一番体力を回復させられるんだから」

「は、はい……。では、今回もお言葉に甘えて、眠らせて頂きますね」

 そういったかと思えば、デイジーは寝息を立てて眠ってしまった。
 まったく、まだ幼いというのに無理をしようとするもんだ。
 東方帝国の皇帝と相性はよさそうだなと思ったが、二人揃って無茶をしたがるのではいずれ国が危険なことになりそうだ。これはやめた方がよさげだと思うぜ。

「レーヴェン様の樹がこれだけ立派に育つとは……。聖王の力、少々甘く見ておりました」

 幹を軽く叩きながら、上を見上げてセイ太は正直な気持ちを話している。

「まあ、しょうがないさ。セイ太だって、俺と同じでこの世界には詳しくはない。見た目が子どもってだけでつい判断しちまうこともあるってもんだよ」

「そうですね……。でも、これだけ立派な木を育ててもらっては、きちんと評価をせざるをえませんよ」

「……だな」

 立派に成長したレーヴェンの樹は、風もないというのにさわさわと枝が揺れている。
 その光景を見る限り、本当に不思議な神秘に満ちた木であることが分かる。

「さて、デイジーにはもう一息頑張ってもらわないといけないんだよな……」

「そうですね。さらにもう一本植えるんでしたっけか」

 ひと息ついて、腰に手を当てながら俺が話せば、セイ太がすぐさま反応してくれる。

「ああ、種の回収ができる以上、数が増やしやすくなったからな。できる限りたくさん植えて、どんどんと空気を浄化していきたいんだ」

「とはいえ、このような少女に無理をさせるのは、心苦しくありませんかね」

「確かにな。だからこそ、それ以外のことにデイジーは極力参加させてないんだよ。一番大変なことを受け持ってもらっている以上、これは当然ってもんだよ」

 適材適所と負担の平均化というものかな。
 とはいえ、レーヴェンの樹を成長させることによる負担は想像以上のものだ。デイジーの体がいつまで耐えられるか分からないし、もしかしたら種の効果が余計に消費される可能性だってある。
 そこは様子を見ながらということになるが、ひと月は少なくとも大丈夫だろう。
 ……俺たち二人の勘だがな。
 だから、ある程度の本数を育ててもらったところで、デイジーにはレーヴェンの樹の種をまた飲み込んでもらうことになる。
 レーヴェンの樹やポテイがまともに育つ理由には、多分この辺りも影響していると思われるんだよな。

 ひとまず、大陸を脱出してから前世の感覚で二週間が経った。
 現在の成果は、レーヴェンの樹が二本とポテイ畑一面と小麦畑が一面だ。
 これだけあれば、当分の食料は大丈夫だろう。料理はピエラの魔法があればなんとかなるしな。
 小麦粉だって、風魔法と土魔法を使えば余裕で挽けるってものだ。
 その小麦粉を水魔法と火魔法を使えば、パンだってこの通りなんだぜ?
 どうだ、ふわっふわだろう?
 思ったよりも良い状況が確保できているのだが、やっぱり足りないものっていうのはあるんだ。
 それが何かといったら肉。
 生命の一切が滅んだ外の世界では、どんなに頑張っても肉だけは手に入らない。
 大豆でもあればまた違うんだろうけど、ダズーの在庫が怪しいだよな。
 なにぶん、ほとんどを魔王城の中で醸造に使ってしまってるからな。大半が味噌や醤油だよ。
 とはいえ、デイジーの能力を使えば、一粒から一気に入手できる状況にはある。後はデイジーの状態次第なんだよな。

 さらに移動を重ねた俺たちは、いよいよ新たな大陸に上陸する。
 ここもやっぱり何もない荒野が広がるような場所だった。
 その北端に到着した俺たちは、ここでひとつ決断をする。

「しばらく定住するか」

「えっ?!」

 ピエラもデイジーも驚いていた。
 だが、俺にはちょっと考えがあった。

「急ぐのも重要だろうが、無計画にどんどん進むのもよくない。一度食料をしっかりと確保して、畑を定着させておきたいんだ。分かってくれるかな?」

「そっか。ここまで一度っきりで進んできていたから、本当に植物がその地に定着したか見届けてないものね」

「そういうこと。レーヴェンの樹が定着してくれているが、他のものも同じとは限らない。だから、一度経過をきちんと観察したいんだよ」

 俺がこう告げると、全員が賛成してくれた。
 というわけで、まずはひと月ほど一か所に定住することに決めたのだった。
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