異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第327話 転生者、レーヴェンの樹の力を確認する

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 一か月の猶予を持てば、デイジーにもあまり負担をかけないで済むだろう。
 と思ったのだが、最初の十日間くらいはレーヴェンの樹をもう一本と数種類の植物を定着させるために無茶をさせてしまった。これは素直に反省だよ。
 いくらデイジーが俺からの頼みを断れないとはいっても、無茶をさせ過ぎたと思うぜ。
 とはいえ、デイジーに無茶を頼んだのも最初のうちだけ、そこからはゆっくりと一緒に植物の状態の観察を続けていた。
 植物はポテイと小麦の二種類。
 どちらも一度はデイジーの力で実らせておいた。
 二度目からは自然栽培というわけだな。
 定着するまでは様子を見ないといけないわけだし、だから、ひと月三十日という期間を設けたというわけだ。
 まあ、作物が育つのに必要な環境が、この外の世界にはひとつ足りないんだけどな。
 それは何かといえば、雨だ。
 作物が育つ条件のひとつにある水分。それをもたらす雨が、この外の世界では今現在の段階では一度も降ったことがない。
 今なら、ピエラやセイ太が魔法を使って水を出すことはできる。
 だが、俺たちの手から離れれば、自力で水分を得なければならなくなる。そうなった時に、植物たちが育っていくかどうかという問題があるというわけだ。
 空を見上げてみれば、雨が降りそうなどす黒い厚い雲が広がっている。
 前世の世界や、あの大陸の中なら、このくらいの雲があれば大雨は十分に期待できる。しかし、今いる場所はそんな常識から外れた死に絶えたの世界。これだけ曇っていても、まったく雨が降ることに期待ができない場所なのである。
 まったく、本当に不思議な世界だと思うよ。

「ふぅ、ひとまずはこんなものかな。だいぶん定着はしてきたけど、分からないことだらけで不安しかねえぜ」

「お疲れ様です、セイ。だいぶらしくなってきましたね」

 セイ太は目の前の光景を眺めている。

「ああ、みんなの協力があったからだよ。セイ太がいないとここまで渡ってこれなかったし、ピエラがいないと水は確保できなかったし、デイジーがいないと植物を育てることはできなかった。誰一人欠けても、この状況は作り出せなかったな」

「そうですね。本当にいい組み合わせだと思います」

 俺の考えにセイ太は全面的に同意をしていた。
 単純に俺の言葉に同意しているわけではなく、ちゃんと結果を踏まえた上で同意をしている。
 ちなみにだが、俺も全員の精神的柱として機能しているらしい。

「お姉様、今日の様子はどうでしょうか」

「ああ、デイジー。いい感じに育っているよ。ほら」

 デイジーが話し掛けてきたので、俺は応じながら目の前の光景を見せる。
 ただ、植えてから数日というだけあって、ほとんどが地面から芽を出したところだ。しかし、この芽を出すだけでも、状況的には奇跡的なんだよな。
 本当にこの外の世界の殺風景っぷりといったらありゃしないというものだ。

「しかし、レーヴェンの樹が安定すると、あの変な魔物は襲ってこなくなったな」

「はい。レーヴェン様の樹は周囲に生命力を満たす力があります。外の世界の毒素が元であるのならば、生命力が毒素にとっては解毒剤となって効果は抜群。それによって襲撃が不可能となったのでしょう」

「なるほどなぁ。育ち切るまでに攻め落とすのが、奴らの最後の抵抗ってわけか」

「そのようですね」

 ここ数日間の様子を見てみる限り、どうもそういう結論で落ち着きそうだ。
 レーヴェンの樹を育てようとして襲ってくる魔物たちは、植えた日と定着直前の二回襲い掛かってくる。しかも確定でだ。
 ただ、その戦い方自体は様々だ。
 海から襲い掛かってくる、上空から襲い掛かってくる、地面から飛び出してくるといったところだ。
 だが、どれも獣人としての勘と嗅覚を持つ俺とセイ太の前では無意味。ピエラも魔力感知力が高いのですぐに気が付いてしまう。
 連中はいくら不意を突きたくても不可能というのが現実だった。
 その結果が、地面から飛び出してくるっていう方法なんだろうがな。それまで封じられたら、今度は数を増やしてきた。これからも続けていけば、かなりの数の魔物に襲撃されることになるんだろうな。
 これから先のことはいろいろと不安があるが、必ず外の世界を蘇らせてみせるぜ。
 遅れてやってきたピエラも交えて、俺たちは改めて決意を強めていた。

 それにしても、レーヴェンの樹が育った周囲の空気は、日を追うごとに澄み切っていくのがよく分かる。
 今までは長くても一日くらいだったので、ここまでの日数滞在したのは初めてだからとても新鮮だった。

「定着してから数日でこれなんだもんな。出発する頃になったら、どこまで空気が変わってるんだか……」

「はい、実に楽しみです」

 俺が腕を組みながら真剣に考えていると、セイ太はにっこりと微笑みながら呟いていた。

 長期滞在を始めてから十日少々。あの大陸を離れてもうそろそろひと月だ。
 着実に定着するレーヴェンの樹が増えつつある。
 しかし、世界の広さを考えるとまだまだ局地的な回復に過ぎない。この調子で植え続けるとしたら、相当の年数がかかるのは間違いないだろう。
 先の見えない長い戦いだが、俺たちがやるしかない。
 今はそのための英気を養う俺たちだった。
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