異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第331話 転生者、一時帰還を決断する

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 さらに二か月を消費して、ようやく南の大陸に十分なレーヴェンの樹を植えることに成功する。
 ただ、あとになるにつれて魔物たちの襲撃パターンが増えていき、対処は少し面倒なことになっていた。
 おかげで、最後の一本を定着させた時には、みんなはすっかり疲れ切っていた。

「ようやく終わりましたね」

「ああ、みんなお疲れ様」

 地形の関係で少し面倒な移動にもなったが、植えた数は全部で十八本。これで南の大陸はほぼすべてがカバーできる状態となっていた。
 最後のあたりともなると、デイジーの魔力量が増えたことで最初のように三回の成長促進魔法でレーヴェンの樹を定着できるようになっていた。だから、後半ほど思ったより時間がかかっていない。
 それでも最初が一本あたり八日間という状態だったので、全部で四か月少々を消費するということになってしまった。

「出発してから、感覚的にほぼ半年か」

「そうですね。でも、これでひとつの大陸をレーヴェンの樹で埋め尽くすことができましたから、時間をかけたかいがあるというものですよ」

 感慨深くなる俺に対して、セイ太はなんとも誇らしげだった。
 だが、今回の一番の功労者はデイジーで間違いはないだろう。なんといっても、レーヴェンの樹がこれだけ定着させられたのは、デイジーが習得していた成長促進魔法のおかげなのだからな。
 俺がこの事実を突きつけてやると、セイ太は残念そうな顔をしながら頷いていた。

「むぅ……。セイに昔のように褒めてもらいたかったのに……」

「悪いな、セイ太。事実は事実だからな」

「酷いです」

 セイ太が頬を膨らませて拗ねてしまった。
 まったく見た目はそこそこおとななはずなんだが、犬時代の性格がそのままなんだろうかな。

「セイ」

 ピエラがデイジーと一緒にやって来る。

「おう、どうした」

「これからはどうするつもりよ」

 ピエラは今後の予定を確認してきた。
 地図を見てみても、他の陸地はかなり遠いようだ。ならば、ここはこうするのが一番だろう。

「一度、ケオス大陸の中に戻ろう」

「えっ?!」

 俺がこう告げれば、なぜかピエラは顔を歪めていた。
 なんだ、外にまだいたいのかよ。

「私は賛成ですね。長く不在にしてしまったので、一度戻って状況を確認するべきでしょう」

「だ、そうだ。ピエラ、セイ太、それでいいか?」

「むぅ、デイジーの意見に従うわ。聖王候補なんですから、間違いはないでしょうね」

「分かりました。では一度戻りましょう」

 セイ太は犬形態に姿を変える。

「最初から泳いでいきますか?」

「いや、最初の地点に戻って、そこから木の状態を確認しつつ戻ろう」

「分かりました。では、みなさん、背中に乗って下さい」

 俺たちはしゃがみ込んだ背板の背中に乗り込んでいく。
 立ち上がったセイ太は、現在地から北西の方角の、この南の大陸の上陸地点へと駆け出した。

 ほぼ二か月前に木を植えた地点に差し掛かる。

「ずいぶんと空気が穏やかになっているな」

「そうでね。これレーヴェンの樹の力なのね」

「いえ、それだけではなさそうですね」

 ここで一泊をするらしく、セイ太はぴたりと動きを止めていた。

「どういうことだ?」

 木を見上げているセイ太に、俺は詳しく話を聞かせてもらう。
 セイ太が言うには、デイジーが聖王候補で強い浄化の力を持っているかららしい。

「つまり、デイジーの持つ浄化能力が、レーヴェンの樹の浄化能力と相互に強め合って、普通よりも強い効果を発揮しているというわけか」

「そういうことですね。考えてもみて下さい。レーヴェン様の樹が何百年とかけて浄化してきたというのに、あの毒素の強さなんです。これだけ空気が澄んでいるというのは、それだけで奇跡的なんですよ」

 セイ太はかなり強い口調で訴えている。
 とはいえ、レーヴェンの使徒であるセイ太が、主の悪口を言ってもいいのだろうかな。
 レーヴェンだって、最初から今の浄化方法を思いついたわけでもあるまいし。
 俺も擁護はしたかったが、これだけはっきりとした効果が出ている以上、到底無理だった。

 こうして、一部ではあるもののレーヴェンの木を植えてきた結果をチェックしながら、俺たちはついにケオス大陸に戻ってきた。
 思えば、よくあそこまでの遠出ができたものだ。
 普通ならば一瞬で動物は息絶えてしまう、強力毒素の渦巻く死の世界。そこを半年間生き延びて戻って来たのだ。これだけで充分自慢できる実績である。
 俺たちはレーヴェンの樹の前に立ち、レーヴェンへと呼び掛ける。
 次の瞬間、俺たちを白い光が包み込み、レーヴェンの世界へと招かれた。

「よく戻りましたね。成果は見ていました。ここまで立派な結果を出すとは思ってもみませんでした」

 レーヴェンからべた褒めである。

「かなり強力な浄化が働いていますので、この分でしたら、大した時間もかからず毒素を抜き切れると思います。一度中の世界に戻って、ゆっくりと休んで下さい」

「ありがとうございます」

 レーヴェンの言葉に、思わずお礼を言ってしまう。
 俺の態度に、レーヴェンも思わず微笑みを浮かべてしまっていた。

「念のため、毒素を抜いた後は南方王国の木のところではなく、魔王領内の湖底洞窟の神殿へと送ります。そこの神殿を訪ねて、それぞれの国へとお戻り下さい」

「分かりました。そのようにさせて頂きます」

「勇気ある者たちにしばしの安らぎを!」

 レーヴェンが叫ぶと、俺たちは突然強い眠気に襲われる。
 毒素を抜くための準備をするためなのだろう。
 そんなことも思う間もなく、俺たちの意識はまどろみ中に落ちていったのだった。
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