異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第347話 転生者のメイド、初陣を飾る

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 いよいよ、魔王城で武闘大会が始まる。
 空はしっかりと晴れ渡り、なんとも戦いがいのある状況となっていた。
 武闘大会の参加者は半分ほどが魔族である。その体格差には、参加者たちは驚くばかりといったところだった。
 そんな中でも目立つのは、メイド服姿のキリエである。
 魔法軍の参謀であり、魔王付きのメイドであり、使用人を束ねるキリエの参戦は誰からも目を引いている。
 参加者の一部には、戦うことを躊躇するような動きすらも見られているようだ。
 そんなキリエの初戦の相手は、人間だった。
 どうやら西方王国の冒険者のようである。

「女性とはいえ魔族。戦いゆえに本気で行かせて頂く」

「ええ、しっかりと力を見せて下さい。魔王軍の参謀として、相手の力量を測るのも仕事ですからね」

 キリエは相変わらず淡々とした表情で相手と向かい合っている。

「まったく、なんで俺様がこんなことをせねばならんのだ」

 ここまで何試合か審判をし続けているデザストレが文句を言っている。
 この態度には、キリエはイラッとした表情を見せている。

「デザストレ、そんなことを言いますと、魔王様に言いつけますよ。あなたが審判をすることは魔王様からの命令です。つべこべ言わずにやりなさい」

「しょうがねえなぁ……。とりあえず、最後までちゃんと務めたら、約束は守ってもらうからな」

「全部は魔王様が戻られてからです。今はそういうことは考えないで下さい」

「へいへい」

 キリエに言われて渋々デザストレはキリエの指示に従っていた。
 セイたちとの共闘があったとはいえ、デザストレはキリエにも敗北している。そのために、逆らえないでいるというわけだ。
 正直、屈辱に感じているようだが、その後ろにはセイの命令がある以上は従うしかなかったのである。

 ここまでなんだかんだと審判を務めてきたのに、今になってこんなことをいうのは理由があった。
 文句を直接言える相手がそこにいたからだ。
 直接対決で敗れているということもあってか、キリエは対等な相手として文句を言えるのである。まったく面倒くさい性格である。

「それじゃ、準備はいいか?」

「おうとも!」

「いつでもいいですよ」

「始め!」

 デザストレの合図で、キリエと西方王国の冒険者の戦いが始まる。

「このような姿ではありますが、私にとってこれは戦闘服。なんの気遣いもいりません。全力で来て下さい。北方聖国の結界は張られていますし、ポーションだってたくさんありますからね」

「本当に準備万端といったところだな。ならば、いかせてもらおう!」

 冒険者が取り出した武器は槍のようだ。
 リーチはあるものの、その長さゆえに接近戦ではやや不利となる武器だ。

「槍使いですか。さあ、いらして下さい」

「参る!」

 冒険者とはいえ、こういう場では礼節を重んじるのか、わざわざ宣言のようなものを行っている。
 こういうものはキリエは嫌いではない。

 さて、この武闘大会のルールを確認しておこう。
 戦いのフィールドは正方形の土台の上だけで、そこから落ちれば負けである。飛行能力は使ってもいいが、その際に翼の先端が地面についてもアウトだ。
 あとは、降参をするか、戦闘続行不能なほどのダメージを負った時。これらが負けの判定となる。

 戦いに戻ろう。
 冒険者は鋭い突きを何度も繰り出しているものの、キリエは何の問題もなくその攻撃を躱し続けている。
 だが、回避するばかりでは勝つことができない。やがて土台の端っこまで追い詰められてしまう。

「どうした。魔王軍の参謀というのはこの程度なのかな?」

 冒険者が挑発している。
 ところが、キリエはそんな安い挑発に乗るわけがなかった。

「やれやれ。一方的に攻め込まれているふりをしていましたのに、ずいぶんと思い上がってらっしゃいますね」

「なんだと!?」

 余裕の態度で、キリエは冒険者を挑発し返している。
 ところが、相手は挑発に弱かったようである。キリエにこんな風に言われただけでかなり逆上しているようだ。

「おのれ、魔族風情が!」

 槍を大振りして、キリエに勢いのある突きを放つ。
 キリエは待っていたとばかりに構えると、手に魔力を込める。

「はあっ!」

 槍を躱すと、そのまま横へと流れるように動く。
 魔力を込めた手を槍にそっとつけると、そのまま槍を受け流すかのように土台の外へと向けて押していく。
 まるで、手に槍が吸いついたのかのように、槍は土台の外へと向けて押し出されていく。

「なっ!?」

 突きの勢いそのままに、冒険者の体は土台の外へと引っ張られていく。

「メイドたる者、その動作は常に優雅であるべきです。あなたは最初から私の手の上で踊らされていたのですよ」

「く、くそうっ!」

 冒険者が叫ぶが、時すでに遅し。
 キリエの魔力で押し出された槍に引っ張られ、そのまま外へと飛び出していく。
 トドメと言わんばかりに、キリエの右手の手刀が冒険者の首筋に入る。

「うがっ!」

 優しく叩いたかのように思えたその手刀に、冒険者が大きな声を出している。
 そのまま気を失い、上半身からそのまま土台の外へと落下していった。

「キリエの勝ちだ!」

 メイドが槍を持った冒険者を手玉に取った姿に、会場は大いに盛り上がったのである。
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