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第28話 新たなトラブルの予感
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面倒な争いの後始末に参加しなくて済むとあって、私はのんびりとポーションを作り続けている。なんだか楽しいんだもの。
ところが、あれから十日程度たった頃、家にクルスさんがやって来た。
「あれ、どうしたんですか、クルスさん」
急な訪問には驚くしかない。
それにしても、よくここにたどり着けたものだと思う。
あっ、私が一度家に運んだせいかな。
気になるところではあるものの、ひとまず私はクルスさんを家の中へと招き入れる。
「一人でいらしたんですか?」
「ああ。アイラはあまり面倒に巻き込まれたがらないと思ってな。アリエッタ嬢が来たがっていたが、この家に入れないだろうからね」
「ふむふむ、よく私のことを分かってるじゃないですか。ええ、面倒はお断りですよ」
お茶を用意しながら、私は淡々と話している。
私がお茶を差し出すと、クルスさんはひと言「いただこう」とだけ呟いて飲んでいる。
その直後の表情は、なんとも驚いた表情をしていた。何か変なものでも出してしまったのだろうかと、ちょっと心配になってくる。
「えっと、どうでしたでしょうかね」
「いや、あまりにおいしかったから、つい。すごいな、どこで手に入れたんだ?」
「薬草の近くに生えている葉っぱを、私の魔法で茶葉にしたんですよ。それを宿屋で働いていた頃の知識で淹れただけです」
私が説明すると、クルスさんはじっとカップと中身のお茶を眺めていた。なんだか恥ずかしいわね。
ようやくカップをテーブルに落ち着けたクルスさんは、今度は私の方をじっと見てきた。どうしたのだろうか。
「アイラ、このお茶を売りに出してみる気はないか?」
「商売をするつもりなんてないですよ。私はのんびりひっそり暮らせれば、もうそれでいいんですから」
空になったカップに、おかわりのお茶を注ぐ。淹れ終えると、私は一口含んで再びクルスさんを見た。
「町にいたら魔族に襲われて殺されるし、魔族に転生したと思ったらこき使われて一方的に追い出されたんですもの。せっかく見つけたこの家で、極力誰ともかかわらずにのんびり暮らしたいんです」
「そうか……」
私の固い決意に、クルスさんはそれ以上は何も言わなかった。
黙り込んだまましばらく無言の時間が続く。
「アイラ、ちょっといいか?」
「なんでしょうか、クルスさん」
沈黙を破ったクルスさんではあるけれど、何かをためらうような様子が見て取れる。一体どうしたというのかな。
何度も首を捻ったり前後に動かしたりと、非常に悩んでいるようだ。
ようやく動きが止まり、私に真剣な表情を向けてくる。
「この家の近くに町を造ってもいいだろうか」
「はい?」
私はがくっと姿勢を崩してしまう。
あまりの予想外な提案に、驚かされてしまったからだ。
「町って……。造ってどうされるんですか」
当然私は疑問を投げかける。私は静かに暮らしたいって言ったよね?
「いや、ピゲストロ殿が治めることになった地域との中継地点として、この近くがちょうどいいという話になってだね。日数的にはマシュローの方が遠いものの、今までの勢力図からいえば適切な位置だと思うんだ。どうだろうか」
「どうだろうかと申されましてもね……」
私は本気で悩んだ。
一人でのんびりまったりと暮らしたいのは事実だけれど、この辺り一帯は私の活動範囲なのだ。
街ができれば知らない人と鉢合わせすることにはなるだろうし、平穏が脅かされないかと不安になってしまう。
「こういう提案をするのにはわけがあるんだ。この家の近くには数名連れてきたんだが、俺しか近付くことができなかったんだ。これでは君からポーションを買い取るのも困難になりうる。だから、近くに町を造って、君にこっそりと卸してもらいたいんだ」
「ああ、そういうわけですか」
理由を聞いて納得した。
そういえば魔導書に見せてもらったけれど、この家は隠蔽魔法と人払いの魔法がかかっているのか、条件をクリアしないと家に入ることができない。
家の主と魔力の波長がほぼ同一であることと、家の主の手によって招かれたことがある人でないと、家に近付くことすら困難なのだ。
クルスさんが家に入れているのは、私がケガの治療のために運び込んだからというわけだった。
しばらく考え込んだ私だったけれど、事情が事情で理解できた。ゆえに、私の結論は……。
「分かりました。その案、受け入れましょう」
のんびりまったり暮らしたいのは山々だけど、困っている人を見捨てられるかというとそこまで人でなしじゃない。今は魔族だけど。
クルスさんと話をした結果、私は新しくできた町へポーションと茶葉を卸すことになってしまった。ポーションはいいとして、なんで茶葉までなのかな。
正直言うと、茶葉づくりはまだまだ安定しない。三つも属性魔法を使うし、そもそも私の魔力量は少ない。一度に作れる量なんて知れている。
(クルスさんを出迎えるのに、作ったばかりの茶葉を使ったのは失敗だったかしらね……)
今さらながらに私は後悔した。
私との間で交渉がまとまったクルスさんは、どういうわけか茶葉をお土産に家から去っていった。あげたつもりないんだけど、なんで持ってるのよ。
クルスさんが帰っていった後、私は家の中で思いきり落ち込んだのだった。これは絶対面倒事になると……。
ところが、あれから十日程度たった頃、家にクルスさんがやって来た。
「あれ、どうしたんですか、クルスさん」
急な訪問には驚くしかない。
それにしても、よくここにたどり着けたものだと思う。
あっ、私が一度家に運んだせいかな。
気になるところではあるものの、ひとまず私はクルスさんを家の中へと招き入れる。
「一人でいらしたんですか?」
「ああ。アイラはあまり面倒に巻き込まれたがらないと思ってな。アリエッタ嬢が来たがっていたが、この家に入れないだろうからね」
「ふむふむ、よく私のことを分かってるじゃないですか。ええ、面倒はお断りですよ」
お茶を用意しながら、私は淡々と話している。
私がお茶を差し出すと、クルスさんはひと言「いただこう」とだけ呟いて飲んでいる。
その直後の表情は、なんとも驚いた表情をしていた。何か変なものでも出してしまったのだろうかと、ちょっと心配になってくる。
「えっと、どうでしたでしょうかね」
「いや、あまりにおいしかったから、つい。すごいな、どこで手に入れたんだ?」
「薬草の近くに生えている葉っぱを、私の魔法で茶葉にしたんですよ。それを宿屋で働いていた頃の知識で淹れただけです」
私が説明すると、クルスさんはじっとカップと中身のお茶を眺めていた。なんだか恥ずかしいわね。
ようやくカップをテーブルに落ち着けたクルスさんは、今度は私の方をじっと見てきた。どうしたのだろうか。
「アイラ、このお茶を売りに出してみる気はないか?」
「商売をするつもりなんてないですよ。私はのんびりひっそり暮らせれば、もうそれでいいんですから」
空になったカップに、おかわりのお茶を注ぐ。淹れ終えると、私は一口含んで再びクルスさんを見た。
「町にいたら魔族に襲われて殺されるし、魔族に転生したと思ったらこき使われて一方的に追い出されたんですもの。せっかく見つけたこの家で、極力誰ともかかわらずにのんびり暮らしたいんです」
「そうか……」
私の固い決意に、クルスさんはそれ以上は何も言わなかった。
黙り込んだまましばらく無言の時間が続く。
「アイラ、ちょっといいか?」
「なんでしょうか、クルスさん」
沈黙を破ったクルスさんではあるけれど、何かをためらうような様子が見て取れる。一体どうしたというのかな。
何度も首を捻ったり前後に動かしたりと、非常に悩んでいるようだ。
ようやく動きが止まり、私に真剣な表情を向けてくる。
「この家の近くに町を造ってもいいだろうか」
「はい?」
私はがくっと姿勢を崩してしまう。
あまりの予想外な提案に、驚かされてしまったからだ。
「町って……。造ってどうされるんですか」
当然私は疑問を投げかける。私は静かに暮らしたいって言ったよね?
「いや、ピゲストロ殿が治めることになった地域との中継地点として、この近くがちょうどいいという話になってだね。日数的にはマシュローの方が遠いものの、今までの勢力図からいえば適切な位置だと思うんだ。どうだろうか」
「どうだろうかと申されましてもね……」
私は本気で悩んだ。
一人でのんびりまったりと暮らしたいのは事実だけれど、この辺り一帯は私の活動範囲なのだ。
街ができれば知らない人と鉢合わせすることにはなるだろうし、平穏が脅かされないかと不安になってしまう。
「こういう提案をするのにはわけがあるんだ。この家の近くには数名連れてきたんだが、俺しか近付くことができなかったんだ。これでは君からポーションを買い取るのも困難になりうる。だから、近くに町を造って、君にこっそりと卸してもらいたいんだ」
「ああ、そういうわけですか」
理由を聞いて納得した。
そういえば魔導書に見せてもらったけれど、この家は隠蔽魔法と人払いの魔法がかかっているのか、条件をクリアしないと家に入ることができない。
家の主と魔力の波長がほぼ同一であることと、家の主の手によって招かれたことがある人でないと、家に近付くことすら困難なのだ。
クルスさんが家に入れているのは、私がケガの治療のために運び込んだからというわけだった。
しばらく考え込んだ私だったけれど、事情が事情で理解できた。ゆえに、私の結論は……。
「分かりました。その案、受け入れましょう」
のんびりまったり暮らしたいのは山々だけど、困っている人を見捨てられるかというとそこまで人でなしじゃない。今は魔族だけど。
クルスさんと話をした結果、私は新しくできた町へポーションと茶葉を卸すことになってしまった。ポーションはいいとして、なんで茶葉までなのかな。
正直言うと、茶葉づくりはまだまだ安定しない。三つも属性魔法を使うし、そもそも私の魔力量は少ない。一度に作れる量なんて知れている。
(クルスさんを出迎えるのに、作ったばかりの茶葉を使ったのは失敗だったかしらね……)
今さらながらに私は後悔した。
私との間で交渉がまとまったクルスさんは、どういうわけか茶葉をお土産に家から去っていった。あげたつもりないんだけど、なんで持ってるのよ。
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