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第27話 落ち着く我が家
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私はついに戻ってきた。
「うん、やっぱりここが落ち着くのよ」
私はベッドに身を放り出す。
心地よいにおいに、私はすぐさま眠りに落ちてしまっていた。
私が選んだのは、森の中で見つけた家。
メイドとして暮らしていた屋敷はいい思い出がないし、マシュローの町では優しくされたけれど、せっかく自分の家が手に入ったのだから手放したくない。せっかく前の持ち主から引き継いだわけだもの。この家を選ぶのはごくごく自然なことだった。
「これからもよろしくね、魔導書たち」
目を覚ました私は、目の前に浮かぶ魔導書たちに優しく声を掛けた。
しかし、家に戻ったとはいってもゆっくりできる状況ではなかった。
それというのも、主を失ったオークの屋敷で新しい動きが起きているからだ。
ピゲストロさんが新たな主となるので、魔族が治めることには変わりがない。ただし、その所属が変わる。
独立した魔族領だった地域は、新しくマシュローを含めた地域を治める領主様と約束を交わし、王国に属する領地へと変化する。
私が住む家は、その新しい領主邸となる屋敷とマシュローとの間に存在するために、これから交通量が増える可能性があるのだ。
「はあ、ゆっくり隠れた生活がしたかったけれど、街道に組み込まれてしまうんじゃ仕方ないかな」
家に戻る前に領主様たちから今後についての話を聞かされていたので、正直言って私は身構えている。
ただ、私の家は最短ルートからはそこそこ外れているために、領主様たちから協力を強制されることはなかった。
しかしながら、協力を拒んだの場合でも、ポーションを定期的に卸してほしいとは頼まれはしたけどね。なんでも私のポーションは王国内では手に入らない代物なのだそうで、領地の目玉になるとのこと。
かなり悩んだけれど、製作者を秘密にしてもらうという約束で引き受けさせてもらったわ。
いろいろと決定したことをねちねちと愚痴りながら、私は朝ご飯を食べる。
家のご近所で採れる魔物の肉と野草類を使った食事も、もうずいぶんと慣れたものだ。
「はあ、おいしい。こうなってくると飲み物もちょっと変わったものが欲しくなってくるわね。水ばかりも飽きちゃった」
私のちょっとした要求に反応したのか、私の目の前に魔導書の一冊が飛んでくる。
パラパラとめくれたページには、茶葉のことが書かれていた。
「ふむふむ……。へえ、あの辺りってお茶の葉っぱも採れるのね。ありがとう、早速行ってみるわ」
私がお礼をいうと、魔導書は嬉しそうに閉じた状態でくるりと一回転していた。魔導書だというのに、ずいぶんと感情豊かだ。おかげで私も退屈しないんだけどね。
魔導書たちはいろんな知識を教えてくれるし、私が必死に頼めば家の外にまでついてきてくれる。なんだか家族みたいに感じちゃうかな。
いつもの通り薬草を摘んできて、魔物を狩って家に戻ってくる。そこで、一緒に摘んできた茶葉について、魔導書に知識を教えてもらう。過去に宿屋で働いていたとはいえ、知っているのはお茶の淹れ方だけ。茶葉の作り方なんて知らないもの。
厨房にやって来た私と魔導書は、茶葉の作り方について魔導書に教えてもらう。
相変わらず、迷いなく目的のページをめくってくれる魔導書。この子たちは、自分のどこに何が書かれているのか、そのすべてを把握しているということなんだろう。うん、私には無理だ。
何回かやってみるものの、水魔法と火魔法と風魔法を駆使して茶葉を乾燥させることがうまくいかない。乾きすぎてぼろぼろになったり、逆に湿りすぎて腐ったりと、なんともまぁ苦戦したものだった。この魔力の繊細な調整は、ポーション作りと似ている気がする。
だったらと、ポーション作りでの経験をもとに、数回の失敗を繰り返しながらもどうにか茶葉を完成させた。
「で、できたぁ~……」
単純な魔力の調整とは違い、三つの属性の魔法をバランスよくするのが大変だった。
どうにか作り上げた茶葉を使ってお茶を淹れる。
「うんうん、いい香り」
鼻をつく香りだけで満足してしまいそうになる。本当にいい香りがする。
「ありがとう、手伝ってくれて」
私が表紙を撫でると、嬉しそうに体を左右に交互に倒していた。
「これでやっとのんびり暮らせそうね。思えば、クルスさんを見つけてからというもの大変だったわ……」
やっと腰を落ち着けられたことで、私は今日までのことをついつい思い出していた。
魔族の屋敷を不当な解雇を受けて追い出されて、さまよっていた森の中でこの家を見つけてようやく助かった。
思えばそれがすべての始まりだった。
魔族になりながらも再び人間たちと一緒に暮らせる機会もあったけれど、命の恩人であるこの家のことを見捨てるなんてできるわけがない。みんなには悪いけれど、私はこの家で暮らすのよ。
「ふぅ~、お茶がおいしいわ」
自分で摘んで、自分で作ったお茶の味をゆったりと味わいながら、落ち着いた時間を私は過ごしている。
願わくば、この平和な時間がずっと続いて欲しいものだわね。
「さて、ひとまずポーションを作りましょうか」
今日も私は、気ままにポーションを作ってのんびりと過ごすのだった。
「うん、やっぱりここが落ち着くのよ」
私はベッドに身を放り出す。
心地よいにおいに、私はすぐさま眠りに落ちてしまっていた。
私が選んだのは、森の中で見つけた家。
メイドとして暮らしていた屋敷はいい思い出がないし、マシュローの町では優しくされたけれど、せっかく自分の家が手に入ったのだから手放したくない。せっかく前の持ち主から引き継いだわけだもの。この家を選ぶのはごくごく自然なことだった。
「これからもよろしくね、魔導書たち」
目を覚ました私は、目の前に浮かぶ魔導書たちに優しく声を掛けた。
しかし、家に戻ったとはいってもゆっくりできる状況ではなかった。
それというのも、主を失ったオークの屋敷で新しい動きが起きているからだ。
ピゲストロさんが新たな主となるので、魔族が治めることには変わりがない。ただし、その所属が変わる。
独立した魔族領だった地域は、新しくマシュローを含めた地域を治める領主様と約束を交わし、王国に属する領地へと変化する。
私が住む家は、その新しい領主邸となる屋敷とマシュローとの間に存在するために、これから交通量が増える可能性があるのだ。
「はあ、ゆっくり隠れた生活がしたかったけれど、街道に組み込まれてしまうんじゃ仕方ないかな」
家に戻る前に領主様たちから今後についての話を聞かされていたので、正直言って私は身構えている。
ただ、私の家は最短ルートからはそこそこ外れているために、領主様たちから協力を強制されることはなかった。
しかしながら、協力を拒んだの場合でも、ポーションを定期的に卸してほしいとは頼まれはしたけどね。なんでも私のポーションは王国内では手に入らない代物なのだそうで、領地の目玉になるとのこと。
かなり悩んだけれど、製作者を秘密にしてもらうという約束で引き受けさせてもらったわ。
いろいろと決定したことをねちねちと愚痴りながら、私は朝ご飯を食べる。
家のご近所で採れる魔物の肉と野草類を使った食事も、もうずいぶんと慣れたものだ。
「はあ、おいしい。こうなってくると飲み物もちょっと変わったものが欲しくなってくるわね。水ばかりも飽きちゃった」
私のちょっとした要求に反応したのか、私の目の前に魔導書の一冊が飛んでくる。
パラパラとめくれたページには、茶葉のことが書かれていた。
「ふむふむ……。へえ、あの辺りってお茶の葉っぱも採れるのね。ありがとう、早速行ってみるわ」
私がお礼をいうと、魔導書は嬉しそうに閉じた状態でくるりと一回転していた。魔導書だというのに、ずいぶんと感情豊かだ。おかげで私も退屈しないんだけどね。
魔導書たちはいろんな知識を教えてくれるし、私が必死に頼めば家の外にまでついてきてくれる。なんだか家族みたいに感じちゃうかな。
いつもの通り薬草を摘んできて、魔物を狩って家に戻ってくる。そこで、一緒に摘んできた茶葉について、魔導書に知識を教えてもらう。過去に宿屋で働いていたとはいえ、知っているのはお茶の淹れ方だけ。茶葉の作り方なんて知らないもの。
厨房にやって来た私と魔導書は、茶葉の作り方について魔導書に教えてもらう。
相変わらず、迷いなく目的のページをめくってくれる魔導書。この子たちは、自分のどこに何が書かれているのか、そのすべてを把握しているということなんだろう。うん、私には無理だ。
何回かやってみるものの、水魔法と火魔法と風魔法を駆使して茶葉を乾燥させることがうまくいかない。乾きすぎてぼろぼろになったり、逆に湿りすぎて腐ったりと、なんともまぁ苦戦したものだった。この魔力の繊細な調整は、ポーション作りと似ている気がする。
だったらと、ポーション作りでの経験をもとに、数回の失敗を繰り返しながらもどうにか茶葉を完成させた。
「で、できたぁ~……」
単純な魔力の調整とは違い、三つの属性の魔法をバランスよくするのが大変だった。
どうにか作り上げた茶葉を使ってお茶を淹れる。
「うんうん、いい香り」
鼻をつく香りだけで満足してしまいそうになる。本当にいい香りがする。
「ありがとう、手伝ってくれて」
私が表紙を撫でると、嬉しそうに体を左右に交互に倒していた。
「これでやっとのんびり暮らせそうね。思えば、クルスさんを見つけてからというもの大変だったわ……」
やっと腰を落ち着けられたことで、私は今日までのことをついつい思い出していた。
魔族の屋敷を不当な解雇を受けて追い出されて、さまよっていた森の中でこの家を見つけてようやく助かった。
思えばそれがすべての始まりだった。
魔族になりながらも再び人間たちと一緒に暮らせる機会もあったけれど、命の恩人であるこの家のことを見捨てるなんてできるわけがない。みんなには悪いけれど、私はこの家で暮らすのよ。
「ふぅ~、お茶がおいしいわ」
自分で摘んで、自分で作ったお茶の味をゆったりと味わいながら、落ち着いた時間を私は過ごしている。
願わくば、この平和な時間がずっと続いて欲しいものだわね。
「さて、ひとまずポーションを作りましょうか」
今日も私は、気ままにポーションを作ってのんびりと過ごすのだった。
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