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第26話 戦いが終わって……
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「うん……、ここは?」
私が目を覚ますと、そこはどうやら自警団の詰所のようだった。
自分の右肩を見ると、メイド服が裂けている。
「あ、そっか。確か、自警団の団長とかいう人に傷つけられたんだったっけか……」
私は自分の右肩を左手で押さえる。
そのまましばらく動かないでいると、私のところに魔導書が飛んできた。今までどこに行っていたのかしら。
「ちょっと、痛い痛い。本の角はやめてくれないかしら」
魔導書の姿を見て安心したのも束の間、魔導書が勢いよく私にその体をこすりつけてくる。本の角が当たって痛くてたまらない。
痛さに我慢できなくなって、私は魔導書を両手でしっかりと捕まえる。
「心配なのも分かるけれど、限度というものがあるわよ。角は絶対やめてちょうだい」
私に正面から怒られた魔導書は、軽く前に傾いていた。分かったと頷いているようだ。
「アイラ、目が覚めたのか」
「目が覚めて安心しましたわよ」
「クルスさん、マリエッタさん」
魔導書の後をついてくるように、クルスさんとマリエッタさんが部屋に駆け込んできた。
「あの、ご心配をお掛けしました」
二人の顔を見て安心した私は、思わず丁寧な口調で話し掛けてしまう。
「それで、あれからどのくらい時間が経っているのでしょうか」
続けて口にした質問に、クルスさんもマリエッタさんも、ちょっと表情を曇らせたように見えた。どうしてなのだろうか。
「いや、あれから実に三日間経ってるんだ」
「えっ……」
日数を聞いて、私はつい驚いてしまう。三日間とはまたずいぶんと時間が経っているようだった。
あまりにも眠っていたようで、驚いた後の私はがっくりと落ち込んでしまった。
「そう気を落とすんじゃない。団長が持っていたあの短剣、当たりどころが悪かったら死んでいたからな」
「まったくですわね。あんな武器を隠し持っているなんて、団長は何を考えていたのかしら」
「おそらく、オークを焚き付けてマシュローを壊滅させた後、オークの主をあの短剣で倒すつもりでいたんだろう。団長は口を閉ざしたまま黙秘を続けているが、かすり傷でこれだからな……」
「なるほど、十分考えられますわね」
「えっ、私って死んでいた可能性があるんですか?!」
ひと通り話を黙って聞き終えた後、私は驚いて質問をしていた。
「ああ、そうだな。聖銀っていうのは聖水を用いて鍛えられた銀で、魔族を滅ぼす力を持ってるんだ。だから、アイラはかすり傷でも死にかけたんだよ」
「アイラの作って置いていった上級ポーションがなければ、間違いなく死んでいたでしょうね。でも、聖銀の破邪の力にも抗うなんて、ポーションってすごいですわね」
クルスさんとマリエッタさんの説明を聞いて、私は今さらながらに青ざめる。両手で肩をつかみ、がくがくと震えてしまう。肩をかすめただけで力が入らなくなった理由というのがよく理解できたからだ。
一度魔族によって殺されているというのに、二度も死の恐怖を味わうなんて身が引き裂かれるような思いしか抱けなかった。
私が震えていると、そっと私に何かが触れたような気がした。
目を開けて見てみると、マリエッタさんが私に抱きついていたのだ。
「ええっと、ま、マリエッタさん?」
思いもしなかったできごとに、私ついつい混乱して叫んでしまう。
「怖かったでしょうね。わたくしがもっとしっかりしていれば、あんな目に遭わせずに済みましたのに……」
マリエッタさんの顔は私の頭の後ろにあるけれど、今どんな表情をしているのか伝わってくる。私のために本気で心配して、しかも涙まで流してくれているのだ。
その感情が痛いくらいに伝わってくるので、気が付くと私の目からも涙があふれ出てきてしまった。
私たちの姿を見たクルスさんは、黙って部屋を出て行った。多分、私たちに気を遣ったんだと思う。
なので、私たちは気の済むまで涙を流し続けたのだった。
落ち着いた私たちは、クルスさんたちと合流する。
ただ、向かった先はなんとマシュローの町の外だった。
「おお、アイラ殿、すっかり良くなったようですな」
外へ出た私に、ピゲストロさんが声を掛けてきた。
なるほど、彼の姿を見たことで、マシュローの外へとやって来た理由に納得がいったというものだ。
ピゲストロさんの配下についたオークたちは軒並み体が大きい。そのために町の中に入ると大きな体格のせいで身動きがとりづらくなってしまうというわけ。
それに、町の人も怖がるということで、こうやって町の外で対談の場が設けられているというわけである。
「ちょうどよかった。アイラ殿の待遇についてちょうど話をしていたところです。どうでしょうか、主が倒れた今、屋敷に戻ってこられては」
「いや、アイラ殿はあの屋敷自体が心の傷になっている可能性がある。ならばまだマシュローで過ごして頂く方がよいと思うぞ」
ピゲストロさんと領主様が、正面から私に関して議論をしているようだった。
確かに、私はオークの屋敷から理不尽に追い出されたので、いい思い出もないし未練もない。
かといって、マシュローに住むのもまた何か違う気がする。
真横に浮かぶ魔導書を見ながら、私は考えを巡らせる。
「アイラ?」
私を連れてきたクルスさんとマリエッタさんが私を見ている。
しばらく考えた私は、結論を出した。
「あの、いいでしょうか」
私のこの声に、全員の注目が集まった。
私が目を覚ますと、そこはどうやら自警団の詰所のようだった。
自分の右肩を見ると、メイド服が裂けている。
「あ、そっか。確か、自警団の団長とかいう人に傷つけられたんだったっけか……」
私は自分の右肩を左手で押さえる。
そのまましばらく動かないでいると、私のところに魔導書が飛んできた。今までどこに行っていたのかしら。
「ちょっと、痛い痛い。本の角はやめてくれないかしら」
魔導書の姿を見て安心したのも束の間、魔導書が勢いよく私にその体をこすりつけてくる。本の角が当たって痛くてたまらない。
痛さに我慢できなくなって、私は魔導書を両手でしっかりと捕まえる。
「心配なのも分かるけれど、限度というものがあるわよ。角は絶対やめてちょうだい」
私に正面から怒られた魔導書は、軽く前に傾いていた。分かったと頷いているようだ。
「アイラ、目が覚めたのか」
「目が覚めて安心しましたわよ」
「クルスさん、マリエッタさん」
魔導書の後をついてくるように、クルスさんとマリエッタさんが部屋に駆け込んできた。
「あの、ご心配をお掛けしました」
二人の顔を見て安心した私は、思わず丁寧な口調で話し掛けてしまう。
「それで、あれからどのくらい時間が経っているのでしょうか」
続けて口にした質問に、クルスさんもマリエッタさんも、ちょっと表情を曇らせたように見えた。どうしてなのだろうか。
「いや、あれから実に三日間経ってるんだ」
「えっ……」
日数を聞いて、私はつい驚いてしまう。三日間とはまたずいぶんと時間が経っているようだった。
あまりにも眠っていたようで、驚いた後の私はがっくりと落ち込んでしまった。
「そう気を落とすんじゃない。団長が持っていたあの短剣、当たりどころが悪かったら死んでいたからな」
「まったくですわね。あんな武器を隠し持っているなんて、団長は何を考えていたのかしら」
「おそらく、オークを焚き付けてマシュローを壊滅させた後、オークの主をあの短剣で倒すつもりでいたんだろう。団長は口を閉ざしたまま黙秘を続けているが、かすり傷でこれだからな……」
「なるほど、十分考えられますわね」
「えっ、私って死んでいた可能性があるんですか?!」
ひと通り話を黙って聞き終えた後、私は驚いて質問をしていた。
「ああ、そうだな。聖銀っていうのは聖水を用いて鍛えられた銀で、魔族を滅ぼす力を持ってるんだ。だから、アイラはかすり傷でも死にかけたんだよ」
「アイラの作って置いていった上級ポーションがなければ、間違いなく死んでいたでしょうね。でも、聖銀の破邪の力にも抗うなんて、ポーションってすごいですわね」
クルスさんとマリエッタさんの説明を聞いて、私は今さらながらに青ざめる。両手で肩をつかみ、がくがくと震えてしまう。肩をかすめただけで力が入らなくなった理由というのがよく理解できたからだ。
一度魔族によって殺されているというのに、二度も死の恐怖を味わうなんて身が引き裂かれるような思いしか抱けなかった。
私が震えていると、そっと私に何かが触れたような気がした。
目を開けて見てみると、マリエッタさんが私に抱きついていたのだ。
「ええっと、ま、マリエッタさん?」
思いもしなかったできごとに、私ついつい混乱して叫んでしまう。
「怖かったでしょうね。わたくしがもっとしっかりしていれば、あんな目に遭わせずに済みましたのに……」
マリエッタさんの顔は私の頭の後ろにあるけれど、今どんな表情をしているのか伝わってくる。私のために本気で心配して、しかも涙まで流してくれているのだ。
その感情が痛いくらいに伝わってくるので、気が付くと私の目からも涙があふれ出てきてしまった。
私たちの姿を見たクルスさんは、黙って部屋を出て行った。多分、私たちに気を遣ったんだと思う。
なので、私たちは気の済むまで涙を流し続けたのだった。
落ち着いた私たちは、クルスさんたちと合流する。
ただ、向かった先はなんとマシュローの町の外だった。
「おお、アイラ殿、すっかり良くなったようですな」
外へ出た私に、ピゲストロさんが声を掛けてきた。
なるほど、彼の姿を見たことで、マシュローの外へとやって来た理由に納得がいったというものだ。
ピゲストロさんの配下についたオークたちは軒並み体が大きい。そのために町の中に入ると大きな体格のせいで身動きがとりづらくなってしまうというわけ。
それに、町の人も怖がるということで、こうやって町の外で対談の場が設けられているというわけである。
「ちょうどよかった。アイラ殿の待遇についてちょうど話をしていたところです。どうでしょうか、主が倒れた今、屋敷に戻ってこられては」
「いや、アイラ殿はあの屋敷自体が心の傷になっている可能性がある。ならばまだマシュローで過ごして頂く方がよいと思うぞ」
ピゲストロさんと領主様が、正面から私に関して議論をしているようだった。
確かに、私はオークの屋敷から理不尽に追い出されたので、いい思い出もないし未練もない。
かといって、マシュローに住むのもまた何か違う気がする。
真横に浮かぶ魔導書を見ながら、私は考えを巡らせる。
「アイラ?」
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「あの、いいでしょうか」
私のこの声に、全員の注目が集まった。
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