追放魔族のまったり生活

未羊

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第49話 さあ帰ろう

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 町を出て半日ほど歩いたところで、マンティコアを元の大きさに戻す。

「見つかったら大騒ぎだけど、これだけ大きな魔物が見つからないわけがないわよね……」

「がう?」

 困った顔をしながら顔を撫でてやると、マンティコアはじっと私の顔を見てくる。
 いけないいけない、ご主人様として堂々としなくちゃ。

「よし、家に戻ったら入手した材料でポーションを作らなきゃ」

 ぐっと右手を握って決意する。
 いくら家の元の持ち主の知識と私が手に入れた鑑定の魔法があるとはいっても、作ったことのないものを初めて作る時は絶対失敗しまくるのは目に見えている。
 いずれは故郷の町に堂々と胸を張って入れるように、努力しなくちゃね。
 固い決意を胸に、私はマンティコアの背に乗って森の中にある家へと戻っていった。

 ほぼ休みなく移動してきた十日間の道のりが、たったの二日だった。
 空を飛んで移動するってこんなに楽だったんだと、私は呆然とするばかりだった。
 ただ、家の近くに降りようと思ったら、木々が邪魔でなかなか降りられる場所を見つけるのに手間取った。ようやく降り立ったのはよく薬草を摘んでいた場所だった。
 私の気持ちを汲み取ってくれたのか、マンティコアは極力薬草を踏み潰さないように場所を選んで足を下ろしてくれた。従魔になるとこんな風になるんだと、びっくりするほどだった。

小なれスモール!」

 私が魔法を使うと、猫よりは大きいものの、マンティコアは小さく縮んでしまった。しっぽは怖いものの、こうなると先程までの迫力は既に無くなっている。
 小さくなって可愛さが増したマンティコアを眺めながら、私はついつい何かを考えてしまう。
 そして、急に手をポンと叩いてしまった。

「そうだわ、名前を付けるのを忘れていたわ。従魔登録の時にも何も聞かれなかったもの。そうよ、この子は特別なんだから、名前が必要よね」

 大きな声で喋りながら、私はマンティコアを見る。小さくなったマンティコアは不思議そうな表情をしてこっちを見返している。
 小さくなったマンティコアを抱え上げると、私はその顔を目の高さまで持ってきた。
 そういえば、このマンティコアの性別が分かってなかったなと思ったので、鑑定魔法にかけてみる。

「あっ、あなた女の子なのね」

 意外なことが分かって、私は思い切り考え込んでしまう。

「うーん、マンティコアだから……」

 長々と考えて、私は名前をようやく決める。

「よし、あなたの名前は『ティコ』よ。改めてよろしくね、ティコ」

「にゃう」

 小さくなったせいか、鳴き声が可愛かった。名前も決まったことだし、満面の笑みでティコを眺めている。
 ティコはもう一度鳴いたかと思うと、大きなあくびをしていた。

「ここまで飛んできてくれたものね。お疲れ様」

「くあぁ……」

 私が労うと、もう一度あくびをしていた。
 その眠そうな顔を見ながら、にこにこと笑顔で家まで戻ったのだった。

 本当に久しぶりの我が家だった。
 家の中に入ると、私に同行していた魔導書が嬉しそうに家の中に飛んでいく。魔導書もやっぱり自分の家が一番落ち着くみたい。
 私は自分の部屋に移動して、洗浄魔法でシーツなどをきれいにしておく。本当は自分の手で掃除がしたんだけど、今は手が離せないからしょうがないかな。
 きれいになった自分のベッドにティコを寝かせると、まずは家の中の掃除を行う。結構な日数離れていたから、結構埃が溜まってしまっているものね。
 それが終われば湯船にお湯を貯めてきれいに体を洗う。ティコは眠そうにしていたから、起こすのは可哀想だから今は後回し。
 ご飯を作って食事を終えると、ティコの様子を見に行く。うん、よく寝ている。

「このぶんなら、まだまだ起きなさそうね。だったら、納品予定のポーションを作りましょうかね、あと茶葉も」

 家に帰ってきて落ち着いたところで、久々に納品しなきゃと考えた私は早速錬金術を使い始める。
 ああ、この久しぶりの感覚。これよ、やっぱりこれなのよ。
 外に出ている間は、人に見られては困るからと、錬金術を控えてきた。その反動が今私に襲い掛かってきていた。
 こういう感覚に襲われていると、すっかり錬金術は私の一部になっちゃったんだなと思わされる。
 時間を忘れて、錬金術に没頭してしまう。
 ある程度のストックができたと満足していると、私の足に何かが当たる感触がしている。
 なにかと思って見下ろしてみると、そこには目が覚めたティコがやって来ていた。危ない危ない、もうちょっとで足蹴にしちゃうところだったわ。
 私がしゃがんで頭を撫でてあげると、嬉しそうに目を細めていた。マンティコアという魔物ではあるけれど、こうやって見てみると猫っぽくて可愛いわよね。
 さらにあごの下を撫でてあげると、ごろごろという感じに気持ちよさそうにしている。これはまるで猫だわ。宿屋の近くにいた猫を思い出すわ。
 そのことを思い出した私は、このマンティコアにどうしてあんな感情を向けたのかがよく分かった。あのきゅるんとした瞳が、世話をしていた野良猫と重なったからだ。

「よし、お腹空いたでしょう。なにか食べましょ」

「にゃう」

 家に帰ってきた私たち。
 新たな家族マンティコアのティコを加えた生活が始まったのだった。
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