追放魔族のまったり生活

未羊

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第56話 結局平和に終わるのです

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 それにしても、人の顔を見るなり「げっ」はないと思うのよね。
 プレアさんはマリエッタさんの後ろに隠れて、私の方をじっと見てくる。警戒し過ぎでしょうに。

「おっ、どうしたのですかな、アイラ殿」

 私の様子に気が付いたピゲストロさんが声をかけてくる。それと同時に、プレアさんのことに気が付いたようだった。

「おやおや、ここにいたのですか。探しましたよ」

 ピゲストロさんの反応を見て、プレアさんが再びマリエッタさんの後ろに隠れる。
 普通の魔族にとってオークは怖いでしょうね。

「いやはや、さすがにその反応はショックですな。本日はあなたに謝罪をしに参ったといいますのに」

「しゃ、謝罪?」

 ピゲストロさんの言葉に、プレアさんは首を傾げている。よく分からないのは仕方ないかしらね。
 男爵様に言われて、マリエッタさんとプレアさんは椅子に座る。あれ、私だけ立ってるんですけど?
 疑問には感じたけれど、立っているのには慣れているのでそのまま立った状態で様子を見守る。

「アイラも座ったらどうですか」

「ほえっ」

 マリエッタさんに声をかけられて、私はつい驚いてしまう。

「その猫を抱えたまま立っているのも疲れるでしょう。こちらに来て座りなさいな」

 マリエッタさんに言われて、私は悩んでしまう。
 宿屋で働いていた頃もずっと立ちっぱなしだったし、魔族の屋敷でメイドをしていた時もほとんど立っていたし、別に苦痛じゃないんだもの。

「一人だけ立たせているのも悪いからね、座りなさい」

 男爵様にもこう言われては、私はおとなしくお言葉に甘えることにする。
 プレアさんとの様子を見ていたこともあって、私はマリエッタさんを挟んだ反対側に座らされた。
 全員が座ったことで、改めて会議が行われる。

「プレアといったかな。我の部下が実に無礼なことをしてすまなかったな。本当は君に対して伝えたのはこの町への転属だけだったのだが、おそらくは前の主の影響なのだろう、クビを言い渡して追い出してしまったようだ」

「なんですか、それは……」

 ピゲストロさんからの説明に、プレアさんは唖然とした様子だった。気持ちは分からなくはない。
 とはいっても、何も持たされずに追い出された私に比べて、荷物と地図を渡してもらえたプレアさんはまだマシだと思うわ。
 でも、今は大事な話の真っ最中。いろいろと言いたい気持ちはあるけれど、とりあえず黙っておく。

「あっせんしようと思った仕事があったのだが、もうマリエッタ殿がいろいろとしておられるのなら、任せてしまってもよろしいですかな」

「ええ、問題ございませんわ。おかげで自警団の仕事は助かっておりますもの。最初こそごねておられましたけれどね」

「ああ、やっぱりなんだ」

 マリエッタさんの話に、思わず口に出てしまった。
 プレアさんはギロッときつい視線を送ってくる。そんなに睨まなくてもいいじゃないの。
 第一、屋敷にいた頃に迷惑をこうむっていたのは私なんだけどね。本当に困った人だわ。
 でも、マリエッタさんがこう言っているのなら、変わってきているのだろう。だって、ほとんど働こうとしなかった人なんだもの。これでいて、私より魔力が多いし、魔法だって多彩に使えるんだから不公平よね。

「いやぁ、そういうことなら安心しましたぞ」

 そういったピゲストロさんは立ち上がる。

「おや、もうお帰りですかな」

「ええ。町の視察は終わりましたし、気がかりだったメイドのことも確認できましたからな。今回予定していた用事はすべて終わりましたので、これにて失礼を致します」

 ピゲストロさんは立ち上がり、男爵様たちに一礼して町長の屋敷から去っていった。
 その後ろ姿を見送ったところで、男爵様はマリエッタさんに話し掛ける。

「さて、マリエッタたちも仕事に戻ってくれるかな。私はアイラと話をしなければならないからな」

「承知致しましたわ、お父様。さあ、プレア、参りますわよ」

 嫌がるプレアだったが、さすがに自警団として鍛えているマリエッタさんに腕力では勝てなかった。ずるずると引きずられて、町長の屋敷を去っていったのである。
 これで町長である男爵様とその奥様だけとなった。

「それではアイラ、いつもの通りにしようか」

「はい、そうですね」

 横で男爵夫人がおかしそうに笑っていた。

「とりあえず、あの取引は人目に触れさせるわけには参りませんので、中に入りましょうか」

「ああ、そうだな」

 私たちは屋敷の中に入り、いつも通りに下級ポーションと茶葉を納品する。
 茶葉を渡すと、男爵夫人は嬉しそうに手に取って笑っていた。この様子では相当にお気に入りといったところかしら。

「アイラの作った茶葉はおいしいですからね。これからもよろしくお願いしますね」

「はい、奥様」

 声をかけられた私は、快く了承をしておく。喜んでもらえるのは素直に嬉しいもの。

「それにしても、そのマンティコア……」

「男爵様、どうかなさいましたか?」

「いや、しっぽが知らない間に普通になってるなと思ってな」

 男爵様が気にしていたのは、ティコのしっぽだった。そういえば作ってもらうような話になっていたっけ。

「錬金術で作ってしまいました。幸い、毛皮が余っていましたので」

「本当に何でもありだな、錬金術は……」

「私も驚いていますよ」

 私と男爵様は、思わず大きな声で笑ってしまった。
 意外な人物に出会ったけれど、今日も平和に終わりそうで安心する私なのだった。
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