追放魔族のまったり生活

未羊

文字の大きさ
57 / 109

第57話 スローライフを満喫

しおりを挟む
 無事にポーションと茶葉を納品して、私は家に戻ってくる。男爵様たちから特に何かを言われるということもなかったので、これからものんびりと過ごせそうで安心した。

「お昼にしましょうか、ティコ」

「にゃう~ん」

 お腹が空いたので何かを食べようとすると、ティコは精一杯甘えてきていた。
 大きさとして普通の猫より少し大きいくらいなので、十分可愛い。

「お昼を食べたら、ちょっと狩りに行きましょうか。少しは遊びたいでしょう?」

「みゃう」

 この上ないにこやかな笑顔を見せるティコだった。やっぱり元々マンティコアだからか、狩りが好きなんでしょうね。
 床でがつがつと肉を食べる姿に、私はついにこにこと笑顔をこぼしてしまっていた。

 この日も先日の大雨が嘘のように晴れているので、薬草摘みにしても狩りを行うにしてもこの上ない状況だと思う。
 ティコを連れて、今日は場所を変えて薬草を摘みに行く。

「うぅ~ん、今日はいいお散歩日和だわ。ね、ティコ」

「みゃう~」

 私が話し掛けると、ティコは目を細めて返事をしていた。私の言っていることを理解しているってことかしらね。
 本当に聞き分けのいい子なので、不思議と安心できちゃうわね。
 薬草と茶葉用の葉っぱを摘み終えると、いよいよ狩りを行うことにする。

「さぁ、ティコ。狩りにいくわよ」

「にゃうん」

 やる気のある声が返ってくる。よく見ると、ものすごく表情が引き締まっていた。
 この表情にはくすっと笑ってしまう。わかりやすいったらありゃしないわね。
 目的地に着くと、私はティコに声をかける。

「今のままで大丈夫そう? 無理なら元の姿に戻すわよ」

「みゃうにゃう」

 何を言っているのか分からないけど、このままでいいっていうことかしらね。だって、首を縦に振ってから横に振ったんだもの。最初の質問に肯定して、その後を否定したっていうことよね。
 ……やだ、うちの子頭よすぎないかしら。
 ついつい褒めちぎりたくなっちゃうわね。
 まぁそれはそれとして、魔物を狩らないとご飯がすぐになくなっちゃう。
 小さい状態のままのティコを足元に座らせると、一度深呼吸をする。そして、腰に手を当てて、人差し指を伸ばした右手を前に突き出す。

「さあ、ティコ。存分に狩ってきなさい!」

「うみゃあっ!」

 私が号令をかけると、ティコは勢いよく走り始めた。
 この辺りにいる魔物はあまり強くはないから、強力な魔物であるマンティコアのティコからしたらかなり弱いでしょうね。魔法で小さくなっているとはいっても、能力は高いみたいだもの。

「にゃああっ!」

 襲い来るのは犬型の魔物。
 以前夜の時間に出くわしたウルフよりは小さく弱い魔物だ。
 犬型の魔物はティコに襲い掛かっている。小さいから自分より弱いと判断したんでしょうね。
 でも、ウルフよりも弱い魔物なら、私のティコが負けるわけないわ。
 結果、ティコは難なく襲い掛かってきた五匹の犬型の魔物を倒してしまった。
 ちなみにだけど、今のティコはしっぽのカバーを外した状態。つまり、毒の効果のあるしっぽが使える状態なのだ。
 だけど、毒を与えると肉が食べられなくなってしまうと考えたらしく、しっぽを使わず牙と爪で魔物を倒してしまったのだ。さすがは獅子といったところだろう。
 複数体が相手でも難なく魔物を撃破したティコは、私のところへとやって来る。まるで褒めてといわんばかりの笑顔だ。

「よしよし、よくやったわ、ティコ」

 私が頭を撫でてやると、すごく気持ちよさそうな顔をしている。
 こうやって接していればいるほど、本当に普通の猫とほとんど変わらない。ちらちらと視線に入るサソリのしっぽのおかげで、マンティコアなんだなと認識できる。
 十分にティコを褒めると、私は魔物の解体を行った。
 この解体も慣れたものだ。
 初めて解体した時には、その気持ち悪さに思わず吐いてしまった。でも、こうしないと食事にありつけないわけだし、気持ち悪さと戦いながらこなしたものだったわ。
 すっかり手慣れた調子で解体を終える。肉と毛皮、それと魔石を確保すると、それ以外はすべて火魔法で焼き払う。

「これでよしっと。帰るわよ、ティコ」

「にゃあ」

 元気よく返事をしたティコと一緒に、私は家へと戻っていく。
 新しいポーションを作るために遠出して以降は、本当にのんびりとした平和な日々を送れている。
 叶うのであるならば、こののんびりとした生活はずっと続いてほしいものだわね。

「ティコ、今日はカッコよかったわよ」

「みゃうん」

 私が褒めると、ティコは目を細めて得意げに鳴いている。

「今度、元の姿でのびのびさせてあげたいから、少し遠出してみる?」

「にゃあん」

「そっかそっか。それじゃまた少し多めにポーションと茶葉を作っておかなきゃね」

 私はにこにことした笑顔で、ティコの羽伸ばしのために次の計画を立てている。
 だけど、この時の私はまったく気が付いていなかった。
 私たちののんびりとしたスローライフを打ち壊そうとする存在が、ゆるりゆるりと近付いてきていることに……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処理中です...