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第62話 兄妹の再会
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「その声、アイザックお兄ちゃんなの?」
私は衝撃を受けた。
オークたちを前に一人で戦っていた男性は、私の実の兄だったのだ。
アイザックというのは、私の五つ年上のお兄ちゃんだ。
家が貧乏だったこともあって、小さい頃から私たち家族のために苦労していた。
魔法の力を持っていることが分かってからは、魔物を倒す冒険家になって家を空けがちになっていたけれど、この声を忘れるわけがなかった。
「やっぱり、アイラなのか? いや、なぜここにいるんだ。それにその姿……」
私を見て、お兄ちゃんは激しく動揺している。
もちろん私だって驚いているけれど、今はじっとしているわけにはいかない。
「ティコ、今助けるから!」
私は傷ついたティコに駆け寄って、ポーションを飲ませようとする。
しかし、それよりも早く私の首筋にひんやりとした冷たい感触が走った。
私の首筋に剣が当てられたのだ。
「アイラ……。いや、アイラの姿をした魔族か。その魔物はお前の手下なんだな」
「そ、そうよ。私の可愛い従魔よ」
「そうか、ならば……!」
何をされるのか分かっているために、私は怖くて振り向けなかった。
「やめるのだ! アイラ殿を殺させはせぬ!」
私が怖くて目を閉じると、ピゲストロさんの声が聞こえてくる。
次の瞬間、金属がぶつかり合う音がその場に響き渡った。
「魔族風情が!」
「なぜそこまで、魔族を目の敵にする!」
「なぜかって? 大事な妹が殺されたというだけで十分だろう!」
キンという音が響き、ピゲストロさんの持っていた斧が弾き飛ばされる。
体格では圧倒的に大きなオークであるピゲストロさんが力負けするなんて、お兄ちゃんって本当に人間なの?!
「死ね、魔族が!」
「やめて、お兄ちゃん!」
ピゲストロさんに攻撃を仕掛けようとするお兄ちゃんを、私は必死に止める。
「放せ、妹のふりをした魔族め。先に死にたいのか?」
「私はアイラだよ。お兄ちゃんのことならすぐに分かるもん。私の誕生日にはいつもプレゼントくれてたじゃない」
私が必死に訴えると、ぴたりとお兄ちゃんの動きが止まる。
やはり、本人しか知りえない話には反応せざるを得ないわね。
「本当にアイラなのか……?」
「そうよ。魔族によって私は生き返らされたの。だから、お兄ちゃん、これ以上はやめて!」
私が必死に訴えるものの、お兄ちゃんは振り上げた剣を下ろそうとしなかった。それだけ魔族への恨みが大きいということだろう。
だけど、ここにいるオークたちは、私の知り合いであるピゲストロさんの部下たちだ。赤の他人とはいえ、知り合いの関係者が死ねば私だって悲しくなってしまう。だから、私はお兄ちゃんを止めざるを得ないのよ。
「くっ、お前はそれでいいのか?」
お兄ちゃんが念を押すように確認をしてくるので、私はこくりと力強く頷いた。
「だって、私が魔族なのは、もうどうしようもないことだもの。受け入れるしかないわ」
私はお兄ちゃんにしがみつきながら、涙を流して訴える。
私の涙には、さすがのお兄ちゃんも弱かったようだ。
「……分かった。お前がそこまで言うのなら、これ以上はやめておこう」
剣を収めて、ピゲストロさんたちをじっと見る。
「運がよかったな。妹に免じてこれ以上はやめておいてやる。だが、もしアイラを泣かせるようなことをしてみろ、その時は遠慮はしないぞ……」
「お兄ちゃんったら……」
兄バカっぷりを見せられて、私はつい恥ずかしくなってしまう。
「ぎゃうう……」
「はっ、ティコ!」
弱々しい声に私は思い出したかのように反応する。
「待ってて、今すぐ傷を治すからね」
「ぎゃうん……」
私はすぐさま上級ポーションをティコの口に流し込む。
ごくりとポーションを飲み込んだティコの体の傷が、見る見るうちに治っていく。
「がうにゃう」
すっかり傷の治ったティコは、私に対して顔をすり寄せてくる。
「もう、ティコったら、くすぐったいわよ」
本当に体が大きくても可愛いわね、ティコってば。
「ピゲストロさん、ポーションをお渡ししますので、みなさんの傷を治してあげて下さい。私はお兄ちゃんと話をしますので」
「分かりました。助かりますぞ、アイラ殿」
収納魔法から取り出したポーションをピゲストロさんに渡すと、ピゲストロさんは傷ついた体のまま仲間のところへと向かっていった。自分は後回しなのね。
ピゲストロさんを見送った私は、改めてお兄ちゃんと向かい合う。
私の後ろでは、ティコがぐるると唸っている。さすがにあれだけ傷をつけられればこうなるのも仕方ないわよね。
怒り心頭のティコをどうにか落ち着かせながら、私はお兄ちゃんにこれまでの経緯を話すことにした。
「というわけで、私は今はこの辺りでのんびり暮らしているの。だから、お兄ちゃんも安心して」
「いや、安心しろと言われても、そのマンティコアを見て落ち着けというのも無理だ。お前が死んだのも、マンティコアの襲撃が原因だろうが」
「うん、まぁ、そうだけど……」
お兄ちゃんに改めて言われて、私はティコを見る。ティコはそんなことはしないといわんばかりに、再び鼻を私にこすりつけていた。
ああもう、本当に可愛いわね。
この後どうしようかと迷った私は、ピゲストロさんに相談を持ち掛ける。
そうしたら、間に人間の仲裁を入れた方がいいというアドバイスをもらったので、男爵様たちと相談すべく近くの町に向かうことになったのだった。
私は衝撃を受けた。
オークたちを前に一人で戦っていた男性は、私の実の兄だったのだ。
アイザックというのは、私の五つ年上のお兄ちゃんだ。
家が貧乏だったこともあって、小さい頃から私たち家族のために苦労していた。
魔法の力を持っていることが分かってからは、魔物を倒す冒険家になって家を空けがちになっていたけれど、この声を忘れるわけがなかった。
「やっぱり、アイラなのか? いや、なぜここにいるんだ。それにその姿……」
私を見て、お兄ちゃんは激しく動揺している。
もちろん私だって驚いているけれど、今はじっとしているわけにはいかない。
「ティコ、今助けるから!」
私は傷ついたティコに駆け寄って、ポーションを飲ませようとする。
しかし、それよりも早く私の首筋にひんやりとした冷たい感触が走った。
私の首筋に剣が当てられたのだ。
「アイラ……。いや、アイラの姿をした魔族か。その魔物はお前の手下なんだな」
「そ、そうよ。私の可愛い従魔よ」
「そうか、ならば……!」
何をされるのか分かっているために、私は怖くて振り向けなかった。
「やめるのだ! アイラ殿を殺させはせぬ!」
私が怖くて目を閉じると、ピゲストロさんの声が聞こえてくる。
次の瞬間、金属がぶつかり合う音がその場に響き渡った。
「魔族風情が!」
「なぜそこまで、魔族を目の敵にする!」
「なぜかって? 大事な妹が殺されたというだけで十分だろう!」
キンという音が響き、ピゲストロさんの持っていた斧が弾き飛ばされる。
体格では圧倒的に大きなオークであるピゲストロさんが力負けするなんて、お兄ちゃんって本当に人間なの?!
「死ね、魔族が!」
「やめて、お兄ちゃん!」
ピゲストロさんに攻撃を仕掛けようとするお兄ちゃんを、私は必死に止める。
「放せ、妹のふりをした魔族め。先に死にたいのか?」
「私はアイラだよ。お兄ちゃんのことならすぐに分かるもん。私の誕生日にはいつもプレゼントくれてたじゃない」
私が必死に訴えると、ぴたりとお兄ちゃんの動きが止まる。
やはり、本人しか知りえない話には反応せざるを得ないわね。
「本当にアイラなのか……?」
「そうよ。魔族によって私は生き返らされたの。だから、お兄ちゃん、これ以上はやめて!」
私が必死に訴えるものの、お兄ちゃんは振り上げた剣を下ろそうとしなかった。それだけ魔族への恨みが大きいということだろう。
だけど、ここにいるオークたちは、私の知り合いであるピゲストロさんの部下たちだ。赤の他人とはいえ、知り合いの関係者が死ねば私だって悲しくなってしまう。だから、私はお兄ちゃんを止めざるを得ないのよ。
「くっ、お前はそれでいいのか?」
お兄ちゃんが念を押すように確認をしてくるので、私はこくりと力強く頷いた。
「だって、私が魔族なのは、もうどうしようもないことだもの。受け入れるしかないわ」
私はお兄ちゃんにしがみつきながら、涙を流して訴える。
私の涙には、さすがのお兄ちゃんも弱かったようだ。
「……分かった。お前がそこまで言うのなら、これ以上はやめておこう」
剣を収めて、ピゲストロさんたちをじっと見る。
「運がよかったな。妹に免じてこれ以上はやめておいてやる。だが、もしアイラを泣かせるようなことをしてみろ、その時は遠慮はしないぞ……」
「お兄ちゃんったら……」
兄バカっぷりを見せられて、私はつい恥ずかしくなってしまう。
「ぎゃうう……」
「はっ、ティコ!」
弱々しい声に私は思い出したかのように反応する。
「待ってて、今すぐ傷を治すからね」
「ぎゃうん……」
私はすぐさま上級ポーションをティコの口に流し込む。
ごくりとポーションを飲み込んだティコの体の傷が、見る見るうちに治っていく。
「がうにゃう」
すっかり傷の治ったティコは、私に対して顔をすり寄せてくる。
「もう、ティコったら、くすぐったいわよ」
本当に体が大きくても可愛いわね、ティコってば。
「ピゲストロさん、ポーションをお渡ししますので、みなさんの傷を治してあげて下さい。私はお兄ちゃんと話をしますので」
「分かりました。助かりますぞ、アイラ殿」
収納魔法から取り出したポーションをピゲストロさんに渡すと、ピゲストロさんは傷ついた体のまま仲間のところへと向かっていった。自分は後回しなのね。
ピゲストロさんを見送った私は、改めてお兄ちゃんと向かい合う。
私の後ろでは、ティコがぐるると唸っている。さすがにあれだけ傷をつけられればこうなるのも仕方ないわよね。
怒り心頭のティコをどうにか落ち着かせながら、私はお兄ちゃんにこれまでの経緯を話すことにした。
「というわけで、私は今はこの辺りでのんびり暮らしているの。だから、お兄ちゃんも安心して」
「いや、安心しろと言われても、そのマンティコアを見て落ち着けというのも無理だ。お前が死んだのも、マンティコアの襲撃が原因だろうが」
「うん、まぁ、そうだけど……」
お兄ちゃんに改めて言われて、私はティコを見る。ティコはそんなことはしないといわんばかりに、再び鼻を私にこすりつけていた。
ああもう、本当に可愛いわね。
この後どうしようかと迷った私は、ピゲストロさんに相談を持ち掛ける。
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