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第63話 兄と一緒に町へ
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私はティコの背に乗りながら、お兄ちゃんと一緒に町へ向けて歩いている。
戦っていた場所から町までは、昼夜問わずに歩いても四日間かかる。でも、お兄ちゃんの足は思ったより速くて、私と同じ四日間で街に着いてしまった。
「ここが、人間と魔族との共存のために造られた町だよ、お兄ちゃん」
「ここがねぇ……」
お兄ちゃんはあまり興味がないみたい。
「お兄ちゃん。これから伯爵様と会うけれど、あまり失礼のないようにね。私は伯爵様たちによくしてもらってるんだから」
「分かったよ」
私が念を押しているものの、お兄ちゃんはどうも興味が薄いようだった。
ちなみにお兄ちゃんの姿だけど、再会した時の姿がむさくるしかったので、私の魔法で髪の毛とひげはきれいに整えておいたわ。これでも魔導書のおかげで繊細な魔法の使い方を覚えたんだから。
その時に見えたお兄ちゃんの顔は、昔のそのままといった感じだった。二十年も経っているから、あちこちに年月を感じる跡はあったけどね。
「おう、誰かと思えばアイラじゃねえか」
「あはは、こんにちは」
ティコを抱きかかえて町にを歩く私に、町の人たちが挨拶をしてくれる。
時折買い物をするので、それなりに町の人たちとは顔なじみになっている。
今いる人たちは、元はマシュローの町に住んでいた人が多い。そこに新しい商機を見出した商人やその家族や親せきが集まって、この町ができ上がっている。
ちなみに、町の中にはオークの屋敷で働いていた魔族たちもそこそこ存在している。魔族と人間が共存する、一風変わった町がとなっているというわけよ。
オークと人間が普通に話をしている光景に、お兄ちゃんはかなり衝撃を受けていたみたい。
「ティコちゃんは可愛いわね。私も猫を飼いたいわ」
「あははは。この辺りで猫はちょっと厳しいと思いますよ。元々魔族の領域でしたからね」
「そうよねぇ。魔物でも飼えるのなら飼ってみたいわね」
「うーん、難しいと思いますよ。心を通わせるのが至難の業ですから」
「残念よねぇ……」
私の連れているティコもすっかり人気者だ。誰がこの子が魔物のマンティコアだと信じられるだろうか。しっぽと羽さえ見られなければ、見た目は普通の猫だもの。
仕草だって猫そのもの。この可愛さにみんな虜になってしまっている。
「嘘だろ。こいつってばマンティ……」
「はい、ストップ。アイザックさん、それ以上はダメですよ」
人前なのでお兄ちゃんと呼ばずに、私は名前を呼ぶ。その瞬間、お兄ちゃんがちょっと悲しそうな表情をした。
うん、そんな顔をしないでちょうだいよね。魔族と兄妹だなんて、お兄ちゃんまで魔族認定されちゃうからね。
私は無言の圧力をお兄ちゃんにかけておく。
「それでは、私はちょっと男爵様に用事がございますので、先を急ぎますね」
「おお、それは悪かったわね」
私は町の人に手を振ると、男爵様のお屋敷にお兄ちゃんを連れて急いだのだった。
町長である男爵様のお屋敷までやって来ると、お兄ちゃんを連れてきたこともあって、私は一度止められてしまう。
「いくらアイラ殿とはいえ、後ろの得体の知れない男性と一緒とあれば、止めさせて頂きます」
「お仕事ご苦労様。この方は怪しく見えますけれど、怪しくないですよ。そうですね、アイザックといえば、分かって頂けますでしょうか」
「なっ!」
「お前、知っているのか?」
お兄ちゃんの名前を出すと、屋敷の門番さんの反応が真っ二つに分かれた。一人は知っているらしい。
「魔族殺しの冒険家だよ。魔法の腕は大したことないんだが、剣の腕がすごくてな……。だが、引退して今はひっそり暮らしていると聞いたんだが?」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。今回は国王陛下からの直々の頼みがあって出向いたんだ。マンティコアを連れた女の調査を頼まれてな」
「げっ……」
お兄ちゃんの言葉に、私から思わず酷い言葉が漏れ出てしまった。
その私の驚き様に、門番さんたちはどうしたのだろうかと首を捻っていた。
「と、とりあえず、男爵様にお会いしてよろしいですかね」
「ああ。アイザックといえば男爵様もご存じだしな。きっとお喜びになられるよ」
門番さんの一人がそう答えたために、私はほっとひと安心といったところだった。
私は門番さんたちに頭を下げると、お屋敷の中に足を運ぶ。
「お兄ちゃん、一応言っておきますけど、本当に失礼のないようにお願いするわよ」
「分かった。分かったから二度も言うな。ホントお前ってば、魔族になっても性格は変わらないな」
私が念を押す様を見て、お兄ちゃんはくすくすと笑っていた。
「もう、お兄ちゃんってば……」
あまりにも笑うせいで、私はつい不機嫌な困り顔になってしまった。
屋敷で働く使用人たちに挨拶をしながら、私たちはいよいよ男爵様の部屋にやってきた。
扉の前に立ち、私は二度扉を叩く。
「男爵様、アイラです。中に入ってもよろしいでしょうか」
「おお、アイラか。大丈夫だよ、入りなさい」
男爵様から返事がある。それを受けて、私はお兄ちゃんに一声かける。
「それじゃ、私が合図するまで外で待っててね」
「分かった」
扉の外にお兄ちゃんを待機させて、私だけがまず部屋の中へと入っていく。
……さて、無事にお兄ちゃんを紹介できるかしらね。
私はちょっと緊張してきてしまったのだった。
戦っていた場所から町までは、昼夜問わずに歩いても四日間かかる。でも、お兄ちゃんの足は思ったより速くて、私と同じ四日間で街に着いてしまった。
「ここが、人間と魔族との共存のために造られた町だよ、お兄ちゃん」
「ここがねぇ……」
お兄ちゃんはあまり興味がないみたい。
「お兄ちゃん。これから伯爵様と会うけれど、あまり失礼のないようにね。私は伯爵様たちによくしてもらってるんだから」
「分かったよ」
私が念を押しているものの、お兄ちゃんはどうも興味が薄いようだった。
ちなみにお兄ちゃんの姿だけど、再会した時の姿がむさくるしかったので、私の魔法で髪の毛とひげはきれいに整えておいたわ。これでも魔導書のおかげで繊細な魔法の使い方を覚えたんだから。
その時に見えたお兄ちゃんの顔は、昔のそのままといった感じだった。二十年も経っているから、あちこちに年月を感じる跡はあったけどね。
「おう、誰かと思えばアイラじゃねえか」
「あはは、こんにちは」
ティコを抱きかかえて町にを歩く私に、町の人たちが挨拶をしてくれる。
時折買い物をするので、それなりに町の人たちとは顔なじみになっている。
今いる人たちは、元はマシュローの町に住んでいた人が多い。そこに新しい商機を見出した商人やその家族や親せきが集まって、この町ができ上がっている。
ちなみに、町の中にはオークの屋敷で働いていた魔族たちもそこそこ存在している。魔族と人間が共存する、一風変わった町がとなっているというわけよ。
オークと人間が普通に話をしている光景に、お兄ちゃんはかなり衝撃を受けていたみたい。
「ティコちゃんは可愛いわね。私も猫を飼いたいわ」
「あははは。この辺りで猫はちょっと厳しいと思いますよ。元々魔族の領域でしたからね」
「そうよねぇ。魔物でも飼えるのなら飼ってみたいわね」
「うーん、難しいと思いますよ。心を通わせるのが至難の業ですから」
「残念よねぇ……」
私の連れているティコもすっかり人気者だ。誰がこの子が魔物のマンティコアだと信じられるだろうか。しっぽと羽さえ見られなければ、見た目は普通の猫だもの。
仕草だって猫そのもの。この可愛さにみんな虜になってしまっている。
「嘘だろ。こいつってばマンティ……」
「はい、ストップ。アイザックさん、それ以上はダメですよ」
人前なのでお兄ちゃんと呼ばずに、私は名前を呼ぶ。その瞬間、お兄ちゃんがちょっと悲しそうな表情をした。
うん、そんな顔をしないでちょうだいよね。魔族と兄妹だなんて、お兄ちゃんまで魔族認定されちゃうからね。
私は無言の圧力をお兄ちゃんにかけておく。
「それでは、私はちょっと男爵様に用事がございますので、先を急ぎますね」
「おお、それは悪かったわね」
私は町の人に手を振ると、男爵様のお屋敷にお兄ちゃんを連れて急いだのだった。
町長である男爵様のお屋敷までやって来ると、お兄ちゃんを連れてきたこともあって、私は一度止められてしまう。
「いくらアイラ殿とはいえ、後ろの得体の知れない男性と一緒とあれば、止めさせて頂きます」
「お仕事ご苦労様。この方は怪しく見えますけれど、怪しくないですよ。そうですね、アイザックといえば、分かって頂けますでしょうか」
「なっ!」
「お前、知っているのか?」
お兄ちゃんの名前を出すと、屋敷の門番さんの反応が真っ二つに分かれた。一人は知っているらしい。
「魔族殺しの冒険家だよ。魔法の腕は大したことないんだが、剣の腕がすごくてな……。だが、引退して今はひっそり暮らしていると聞いたんだが?」
「そうなの?」
「ああ、そうだ。今回は国王陛下からの直々の頼みがあって出向いたんだ。マンティコアを連れた女の調査を頼まれてな」
「げっ……」
お兄ちゃんの言葉に、私から思わず酷い言葉が漏れ出てしまった。
その私の驚き様に、門番さんたちはどうしたのだろうかと首を捻っていた。
「と、とりあえず、男爵様にお会いしてよろしいですかね」
「ああ。アイザックといえば男爵様もご存じだしな。きっとお喜びになられるよ」
門番さんの一人がそう答えたために、私はほっとひと安心といったところだった。
私は門番さんたちに頭を下げると、お屋敷の中に足を運ぶ。
「お兄ちゃん、一応言っておきますけど、本当に失礼のないようにお願いするわよ」
「分かった。分かったから二度も言うな。ホントお前ってば、魔族になっても性格は変わらないな」
私が念を押す様を見て、お兄ちゃんはくすくすと笑っていた。
「もう、お兄ちゃんってば……」
あまりにも笑うせいで、私はつい不機嫌な困り顔になってしまった。
屋敷で働く使用人たちに挨拶をしながら、私たちはいよいよ男爵様の部屋にやってきた。
扉の前に立ち、私は二度扉を叩く。
「男爵様、アイラです。中に入ってもよろしいでしょうか」
「おお、アイラか。大丈夫だよ、入りなさい」
男爵様から返事がある。それを受けて、私はお兄ちゃんに一声かける。
「それじゃ、私が合図するまで外で待っててね」
「分かった」
扉の外にお兄ちゃんを待機させて、私だけがまず部屋の中へと入っていく。
……さて、無事にお兄ちゃんを紹介できるかしらね。
私はちょっと緊張してきてしまったのだった。
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