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第64話 男爵たちと顔合わせ
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私がまず男爵様と顔を合わせる。
「お久しぶりでございます。ちょっと事情ありまして、しばらく来れなかったことをお詫びします」
ひとまずはちゃんと謝罪をしておく。どういう事情があれ、しばらく取引に顔を見せなかったのは事実だもの。私の非でしかないわ。
私が謝罪をすると、男爵様たちはどういうわけか驚いた顔をしていた。いや、なんでそんな顔をされているのだろうか。
「いや、事情は聞いているからね。来れないことは分かっていたんだ」
「ええ、そうですよ。本当にあなたは律儀で謙虚な方なのですね」
思わぬ反応をされてしまい、私は戸惑うばかりだった。
「なんでも強襲を受けたそうですね。みなさんはご無事でしたか?」
男爵様の質問に、私は目を伏せて首を横に振った。助けられなかった人たちがいるからだ。
私の反応を見て、男爵様も状況を察したらしい。それ以上聞いてくることはなかった。
「アイラ殿がここに来られているということは、無事に解決したようですね。本当によかったですぞ」
「はい……」
私は目を伏せたまま返事をしていた。
「それで、外にいるのは誰かな」
「えっ」
続けてかけられた言葉に、私は大きく驚いてしまう。
「何も驚くことはないよ。先程部屋に入ってくるまでのやり取りは聞こえていたからね」
「は、はあ……」
全部筒抜けだったらしい。
私は抱えたティコに一度目を向ける。
ティコは無邪気な視線を向けて「にゃあ」と鳴いていた。
「それでは、男爵様におひとり紹介致します。お兄ちゃん、入ってきて」
私が扉の外に声をかけると、扉が開いて一人の男性が入ってきた。私の人間時代のお兄ちゃんだ。
私は入ってきたお兄ちゃんを自分の隣に立たせると、男爵様へと紹介を始める。
「男爵様。こちら、私の人間時代のお兄ちゃんでアイザックといいます。今回の騒動は、お兄ちゃんが引き起こしたんです」
「ほう、それは……」
男爵様はじっとお兄ちゃんを見る。でも、お兄ちゃんにはまったく動揺する様子は見られなかった。
「俺は、国王陛下から命を受けて、マンティコアを連れた女を探しに来ただけだ。それに、俺は妹を魔族と魔物に襲われて亡くしている。だから、魔族を許せねえんだよ……」
「なるほどな。だが、探していた女性が妹だったので今は思いとどまっている、そういうわけだな」
男爵様に言われると、お兄ちゃんはぐっと黙り込んでしまった。
「どうも私がティコで昔住んでいた町に移動したところを見られていたみたいで、それが原因で足跡をたどられてしまったみたいです。お兄ちゃんって冒険家として優秀ですから」
続けて私が話すと、お兄ちゃんの顔がどんどんと複雑になっていく。
多分、私に褒められて嬉しいのと、魔族から褒められて不快だという感情が入り乱れているんだと思われる。お兄ちゃんの中だと、私の立ち位置ってまだ不安定みたいね。
私たちが話をしていると、外が賑やかになってくる。どうしたんだろうと、私は扉の外へと視線を向ける。
「おや、アイラ、来ていたのか」
「クルスさん。それとマリエッタさんも」
「アイラ、お久しぶりですわね」
二人と挨拶を交わした私は、ハッとあることに気が付いてお兄ちゃんにしがみつく。
「魔族だからって勝手に斬りかかるのはやめてね、お兄ちゃん」
必死に押さえる私だけど、お兄ちゃんの力が強い。
そう、マリエッタさんにはプレアさんが付き添っているからだ。今ではマリエッタさんの侍女を務めているので、彼女のそばには必ずいる。
そのプレアさんも魔族だ。となれば、お兄ちゃんの攻撃対象になってしまうというわけなのよ。
マリエッタさんと一緒にいる様子を見ると、彼女もかなり改心したと思われるし、ここで下手に襲わせてはいろいろと問題なるわ。
「どけ、アイラ。魔族は、滅ぼさなければならないだ!」
「やめてって言ってるでしょう。ここはお兄ちゃんの住んでいる国とは別の国よ。ここで下手なことをすれば国家間の争いになるわ。頼むからこらえて!」
「なっ……!」
私が必死に訴えると、やっとお兄ちゃんの手が止まった。本当に、私たちが殺されたことを未だに引きずっているのね。
「うむ、そうだな。あのオークたちはこちらの国の国王陛下にも認められている。そのオークたちとそれに関わる魔族たちにこれ以上手を出すと、こちらの国から抗議が行くことになる。君はそれに対して責任を持てるかい?」
「く……」
国家の後ろ盾があるとなると、さすがのお兄ちゃんも剣を収めていた。
「魔族と手を組むなど、絶対に後悔するぞ……」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。私が、それをさせないわ」
「アイラ……」
悔しそうにするお兄ちゃんに向けて、私は強く言い切る。
私たちの本気の表情に、お兄ちゃんはそれ以上口を開かなかった。
お互いの自己紹介が終わった後、私はクルスさんやマリエッタさんにもティコを紹介する。
しっぽにつけたカバーを外すとサソリの尾が出てくるし、背中からも黒い羽が出てきて、二人に加えてプレアさんもとても驚いていたようだった。
「ななな、なんでマンティコアがここにいるのよ。おかしいでしょ。隣国の高地にしか住んでいないはずよ」
意外にもプレアさんはマンティコアの生息地を知っていたようだった。人は見かけによらないということなのね。
私がティコに懐かれた経緯を説明すると、これはこれで驚かれていた。普通はそう思うわよね。
無事にお互いの紹介が終わると、私はいつものように男爵様にポーションと茶葉を納める。
どうなるかと思ったけど、すべてが無事に済んでようやく私はひと安心したのだった。
「お久しぶりでございます。ちょっと事情ありまして、しばらく来れなかったことをお詫びします」
ひとまずはちゃんと謝罪をしておく。どういう事情があれ、しばらく取引に顔を見せなかったのは事実だもの。私の非でしかないわ。
私が謝罪をすると、男爵様たちはどういうわけか驚いた顔をしていた。いや、なんでそんな顔をされているのだろうか。
「いや、事情は聞いているからね。来れないことは分かっていたんだ」
「ええ、そうですよ。本当にあなたは律儀で謙虚な方なのですね」
思わぬ反応をされてしまい、私は戸惑うばかりだった。
「なんでも強襲を受けたそうですね。みなさんはご無事でしたか?」
男爵様の質問に、私は目を伏せて首を横に振った。助けられなかった人たちがいるからだ。
私の反応を見て、男爵様も状況を察したらしい。それ以上聞いてくることはなかった。
「アイラ殿がここに来られているということは、無事に解決したようですね。本当によかったですぞ」
「はい……」
私は目を伏せたまま返事をしていた。
「それで、外にいるのは誰かな」
「えっ」
続けてかけられた言葉に、私は大きく驚いてしまう。
「何も驚くことはないよ。先程部屋に入ってくるまでのやり取りは聞こえていたからね」
「は、はあ……」
全部筒抜けだったらしい。
私は抱えたティコに一度目を向ける。
ティコは無邪気な視線を向けて「にゃあ」と鳴いていた。
「それでは、男爵様におひとり紹介致します。お兄ちゃん、入ってきて」
私が扉の外に声をかけると、扉が開いて一人の男性が入ってきた。私の人間時代のお兄ちゃんだ。
私は入ってきたお兄ちゃんを自分の隣に立たせると、男爵様へと紹介を始める。
「男爵様。こちら、私の人間時代のお兄ちゃんでアイザックといいます。今回の騒動は、お兄ちゃんが引き起こしたんです」
「ほう、それは……」
男爵様はじっとお兄ちゃんを見る。でも、お兄ちゃんにはまったく動揺する様子は見られなかった。
「俺は、国王陛下から命を受けて、マンティコアを連れた女を探しに来ただけだ。それに、俺は妹を魔族と魔物に襲われて亡くしている。だから、魔族を許せねえんだよ……」
「なるほどな。だが、探していた女性が妹だったので今は思いとどまっている、そういうわけだな」
男爵様に言われると、お兄ちゃんはぐっと黙り込んでしまった。
「どうも私がティコで昔住んでいた町に移動したところを見られていたみたいで、それが原因で足跡をたどられてしまったみたいです。お兄ちゃんって冒険家として優秀ですから」
続けて私が話すと、お兄ちゃんの顔がどんどんと複雑になっていく。
多分、私に褒められて嬉しいのと、魔族から褒められて不快だという感情が入り乱れているんだと思われる。お兄ちゃんの中だと、私の立ち位置ってまだ不安定みたいね。
私たちが話をしていると、外が賑やかになってくる。どうしたんだろうと、私は扉の外へと視線を向ける。
「おや、アイラ、来ていたのか」
「クルスさん。それとマリエッタさんも」
「アイラ、お久しぶりですわね」
二人と挨拶を交わした私は、ハッとあることに気が付いてお兄ちゃんにしがみつく。
「魔族だからって勝手に斬りかかるのはやめてね、お兄ちゃん」
必死に押さえる私だけど、お兄ちゃんの力が強い。
そう、マリエッタさんにはプレアさんが付き添っているからだ。今ではマリエッタさんの侍女を務めているので、彼女のそばには必ずいる。
そのプレアさんも魔族だ。となれば、お兄ちゃんの攻撃対象になってしまうというわけなのよ。
マリエッタさんと一緒にいる様子を見ると、彼女もかなり改心したと思われるし、ここで下手に襲わせてはいろいろと問題なるわ。
「どけ、アイラ。魔族は、滅ぼさなければならないだ!」
「やめてって言ってるでしょう。ここはお兄ちゃんの住んでいる国とは別の国よ。ここで下手なことをすれば国家間の争いになるわ。頼むからこらえて!」
「なっ……!」
私が必死に訴えると、やっとお兄ちゃんの手が止まった。本当に、私たちが殺されたことを未だに引きずっているのね。
「うむ、そうだな。あのオークたちはこちらの国の国王陛下にも認められている。そのオークたちとそれに関わる魔族たちにこれ以上手を出すと、こちらの国から抗議が行くことになる。君はそれに対して責任を持てるかい?」
「く……」
国家の後ろ盾があるとなると、さすがのお兄ちゃんも剣を収めていた。
「魔族と手を組むなど、絶対に後悔するぞ……」
「大丈夫よ、お兄ちゃん。私が、それをさせないわ」
「アイラ……」
悔しそうにするお兄ちゃんに向けて、私は強く言い切る。
私たちの本気の表情に、お兄ちゃんはそれ以上口を開かなかった。
お互いの自己紹介が終わった後、私はクルスさんやマリエッタさんにもティコを紹介する。
しっぽにつけたカバーを外すとサソリの尾が出てくるし、背中からも黒い羽が出てきて、二人に加えてプレアさんもとても驚いていたようだった。
「ななな、なんでマンティコアがここにいるのよ。おかしいでしょ。隣国の高地にしか住んでいないはずよ」
意外にもプレアさんはマンティコアの生息地を知っていたようだった。人は見かけによらないということなのね。
私がティコに懐かれた経緯を説明すると、これはこれで驚かれていた。普通はそう思うわよね。
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