追放魔族のまったり生活

未羊

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第74話 マシュローを経由して

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 翌日、やはり予想通り朝早くにクルスさんがやって来た。ただ、クルスさん一人だけだったのは予想外だったかな。

「どうしたんだ、アイラ」

 ついクルスさんのことをじっと見ていたせいで、急に声をかけられてしまう。思わずびっくりしてしまう。

「あ、いえ……。クルスさん一人で迎えに来られたので、驚いてしまっただけです」

「ああ。アイラの家に入れるのは俺くらいだし、いつもの通り納品してもらって後、俺も一緒に王都まで出向くつもりだからな」

「クルスさんも?」

 話を聞いていてびっくりだった。まさか、一緒に向かうことになるなんて思いもよらなかったもの。
 私は、一人で向かうことすらも覚悟していた。

「アイラ一人だと、いろいろと大変だと思ったからな。なので、オークたちとの和解の立役者である俺も一緒に行くことになったんだ」

「ふむふむ、そうなんですね」

 私はなんとなく納得がいってしまう。
 いろいろと話をしながら歩いていると、知らない間に町に到着してしまう。

「それじゃ、さっさと納品を済ませてしまおう。王都からの使者は既に準備を進めているし、俺たちの乗る馬車も用意されている」

「分かりました。ティコ、長旅になるけどおとなしくしててね」

「にゃーう」

 私が声をかけると、ティコはにこやかな表情で返事をしていた。

 ポーションと茶葉を納品して軽く会話をした私は、先日捕まえた兵士たちと一緒に王都に向かうことになった。
 馬車に乗り込む際、兵士たちから声をかけられる。

「なんでしょうか」

「先日は大変失礼を致しました。国王陛下からどうしても連れてこいと命令されておりましたので、動けなくできれば連れてこれるのではと、魔法使いたちにあのような道具を用意させたのです」

 同乗してきた兵士が、妙な霧を発生させた理由を説明していた。
 つまり、マンティコアが怖くて安全に話をしようとしてあんなことをしたらしい。
 結局のところ、私は家の特殊な能力で捕まらず、様子を見に来たクルスさんたちのおかげであのような結果になったというわけだった。

「もう。そんなことなら男爵様たちに話を通して頂ければよかったですのに……。犯罪者みたいな扱いをされては、話がこじれるだけと思いませんでしたか?」

「お、仰る通りで……。誠に面目ない」

 私とクルスさんの向かいに座る兵士は、深々と頭を下げて謝罪をしていた。
 事情が分かった私は、もう怒る気もなくなっていた。ひとまず、もう一度だけやり方を考えてほしいとだけ伝えて、この話は終わりにしたのだった。

 途中で久しぶりのマシュローに寄る。
 マシュローの町は、よく思えばかなり久しぶりだった。オークたちの襲撃以来の訪問である。

「ここも変わっていないようで安心しました」

「ああ、俺はこっちを拠点にしてるからな。さすがに自警団のトップが二人揃っていなくなっては問題だからね。今は俺がマシュローの自警団の団長だ」

「そうなんですね。おめでとうございます」

「いや、ありがとう。で、副団長なんだが……」

 クルスさんが話を始めた時だった。

「やっと戻って来たか、クルス。お前、しょっちゅういなくなるから、俺が大変なんだよな」

「悪いな、アーバン。だが、これは領主様からの命令だぞ。逆らうわけにはいかないだろうが」

「ぐぅ……。確かにな」

 クルスさんに言われたアーバンさんは、悔しそうな表情とともに押し黙っていた。
 みんな元気そうな様子を見て、私は笑顔を見せて安心した。

「とりあえず、王都に向かう道中だ。今日はここで一泊するから宿へとさっさと案内してくれ」

「分かった。おい、門を開けるんだ」

「はっ!」

 アーバンの指示で、町の入口の門が開かれる。

「なんだって門を閉めてたんだ?」

「魔物を連れた女がいるという噂が広がってな。それで門を閉じるようにという指示が来てたんだ」

「その魔物って、こいつのことか?」

 クルスさんは私の膝の上で眠るティコを指している。

「なんだ、この猫は。噂じゃバカでかい魔物だったらしいぜ」

 アーバンさんの表情が愉快なことになっていた。その表情のおかしさといったら、私がつい笑ってしまうくらいだった。

「お、おい。なんで笑うんだよ」

「気にするな、こっちの話だ」

 クルスさんがすました顔で返すと、アーバンさんはわけが分からないといった感じで首を捻っていた。私はそれがおかしくてますます笑ってしまっていた。

「そうです。アーバンさんたちとお久しぶりに話をしたいので、私は自警団でお泊りしてもいいでしょうか。ご用意いただく宿屋は、こちらの兵士たちにお使いいただきましょう」

「俺は構わねえが、男所帯のむさくるしいところだぞ?」

「ええ、大丈夫です。私には魔法がありますし、ティコもいますから安全ですよ」

「この猫が?」

 アーバンさんがじっとティコを見て首を傾げている。

「ええ、ティコは強いんですよ」

 私は笑顔を見せて、ティコの頭を撫でていた。
 アーバンさんは分からないといった表情のままだったけれど、私はクルスさんと一緒に自警団へと向かう。兵士を乗せた馬車は、そのまま宿屋へと向かって行った。
 その後、自警団に着いたところで事情を教えようとしたけれど、クルスさんに止められてしまった。聞けば、その方が面白いとのことだった。
 何が面白いのか、私にはまったく分からない。けど、クルスさんが強く止めてくるので、私はそれに従って黙っておいた。

 ひと晩休んだ私たちは、また帰りにも寄るという約束だけして、マシュローの町を発ったのだった。
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