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第75話 緊張の王都
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マシュローから王都までは、ほぼ真っすぐ東へ向かうことになる。それでもかなりの距離があって、馬車に揺られて二十日近くがかかってしまう。
私の今の家からマシュローまでも六日といったとところだし、おおよそその三倍ほどの距離があるみたい。
途中に野宿も交えながら、私たちはようやく王都にたどり着くことができた。
馬車から顔を覗かせると、先日見た隣国の王城にも負けず劣らず立派で大きな壁が見えてくる。
「うわぁ、すごく大きい。隣国でも見たけれど、もしかしてこれが王都ですか?」
私はクルスさんに確認を取るものの、クルスさんは反応しない。
「そうですよ。あれがこの国の王都です」
その代わり、一緒に乗っていた兵士が答えてくれた。
その姿を見て、私は改めてクルスさんを見る。クルスさんはふいっとさらに顔を背けている。
最初こそよく分からなくて首を傾げたものだけど、さすがに私もピンときてしまう。
「クルスさん、もしかして王都に来たことがない?」
「……悪いか」
私が確認をすると、非常にばつが悪そうな顔をしながら、クルスさんは小さく呟いていた。
「いえ、別に悪くないですよ。だったら、初めての王都を楽しまなくちゃ、ね」
「あのなぁ……。今回やって来た用件を忘れてないよな?」
「失礼な、もちろんですよ。終わった後に観光するくらいの余裕はあるでしょうに」
クルスさんが確認をしてくるので、甘く見るなといった気持で私は答えておく。
するとどうしたことか、クルスさんはへそを曲げたように顔を背けてしまった。わけが分からないわよ。
馬車の中がなんとも言えない雰囲気になりながらも、私たちを乗せて馬車は城へと向かって行く。私の膝の上では、ティコが大きなあくびをしていた。
王都の中は賑やかで、マシュローや家の近くにできた町とはけた違いの人の姿が見える。
あまりに慣れない光景だけに、私はすぐさま外を覗くのをやめて馬車の椅子にもたれ掛かっていた。
人々の行き交う王都の中を通り抜けて、馬車は城の中へと入っていく。
兵士たちがあれこれを話しているようだけど、ちょっと遠くてどういう会話をしているのか聞こえてこない。
話が終わると再び馬車が動き出し、しばらく進むと再び止まる。
しばらく待っていると扉が開き、兵士たちとは違った装いの男性が現れる。
「ようこそおいで下さいました。早馬にて連絡は受けております」
目の前の男性が手を差し出してきたけれど、何が何だか分からない私は戸惑っている。
「その方は城の騎士でライオット様でございます。あなたが馬車を降りるためにエスコートをされるようですので、どうぞ手をお取りください」
「わ、分かりました」
私はティコを右手に抱き、差し出された手へと左手を差し出す。
「驚きましたね、本当にメイドとは。とはいえ、あなたのエスコートをするように仰せつかっておりますので、本日ばかりはご令嬢のように扱わせて頂きます」
ライオットと呼ばれた騎士様が、にこりと笑顔を向けてくる。よくは分からないけど、とりあえず笑顔を返しておく。
ライオットさんに案内されて、私たちは城の中を歩いていく。
私は頭には何もかぶっていないので、魔族の象徴である角が丸見えになっている。そのためか、すれ違ったり遠巻きにいる人たちからやたらと見られている気がしていた。
ティコが珍しいからかなと思ったんだけど、クルスさんからの指摘で私の角だということが判明した。なんとも恥ずかしいかぎりである。
私たちのやり取りには反応することなく、ライオットさんは淡々と城の中を進んでいく。
「こちらが謁見の間となります。お呼びするまで少々お待ち下さい」
ライオットさんに言われて、入口の扉から少し離れた場所で私たちは待機する。
しばらく様子を眺めていると、話がついたのかライオットさんが戻ってきた。
「待たせてしまって申し訳ない。それでは陛下へと謁見を行います。失礼のないようにお願いしますね」
「わ、分かりました」
隣国でも国王たちに会っているとはいえ、やっぱり王族相手となると緊張してしまう。
ちらりとクルスさんを見るけど、やっぱりガチガチに固まっていた。
男爵様の前では平然としているクルスさんでも、やっぱり王様相手では私とあまり変わらないようだった。
ライオットさんが扉を改めて叩いて、入室のために声をかける。
許可が下りているので、ライオットさんは扉を開けて中へと入る。そして、振り返って私たちを呼ぶ。
ライオットさんの招きに従って、私たちも謁見の間の中へと入っていく。近衛兵の視線が向けられる中、私たちは国王の前まで進んでいく。
国王を前にして、ライオットさんとクルスさんが跪いたので、私もティコを抱いたまま同じように跪く。
「国王陛下、例の魔物とその使い手を連れてまいりました」
「ふむ、ご苦労だな」
ライオットさんからの報告を受けて、国王が私たちに声をかける。
「よくここまで来てくれたな。みなの者、面を上げい」
国王の言葉を受けて、私たちは顔を上げる。
私たちが顔を上げた先に立つ人物。その人物こそが、私が今住んでいる国の国王陛下なのであった。
私の今の家からマシュローまでも六日といったとところだし、おおよそその三倍ほどの距離があるみたい。
途中に野宿も交えながら、私たちはようやく王都にたどり着くことができた。
馬車から顔を覗かせると、先日見た隣国の王城にも負けず劣らず立派で大きな壁が見えてくる。
「うわぁ、すごく大きい。隣国でも見たけれど、もしかしてこれが王都ですか?」
私はクルスさんに確認を取るものの、クルスさんは反応しない。
「そうですよ。あれがこの国の王都です」
その代わり、一緒に乗っていた兵士が答えてくれた。
その姿を見て、私は改めてクルスさんを見る。クルスさんはふいっとさらに顔を背けている。
最初こそよく分からなくて首を傾げたものだけど、さすがに私もピンときてしまう。
「クルスさん、もしかして王都に来たことがない?」
「……悪いか」
私が確認をすると、非常にばつが悪そうな顔をしながら、クルスさんは小さく呟いていた。
「いえ、別に悪くないですよ。だったら、初めての王都を楽しまなくちゃ、ね」
「あのなぁ……。今回やって来た用件を忘れてないよな?」
「失礼な、もちろんですよ。終わった後に観光するくらいの余裕はあるでしょうに」
クルスさんが確認をしてくるので、甘く見るなといった気持で私は答えておく。
するとどうしたことか、クルスさんはへそを曲げたように顔を背けてしまった。わけが分からないわよ。
馬車の中がなんとも言えない雰囲気になりながらも、私たちを乗せて馬車は城へと向かって行く。私の膝の上では、ティコが大きなあくびをしていた。
王都の中は賑やかで、マシュローや家の近くにできた町とはけた違いの人の姿が見える。
あまりに慣れない光景だけに、私はすぐさま外を覗くのをやめて馬車の椅子にもたれ掛かっていた。
人々の行き交う王都の中を通り抜けて、馬車は城の中へと入っていく。
兵士たちがあれこれを話しているようだけど、ちょっと遠くてどういう会話をしているのか聞こえてこない。
話が終わると再び馬車が動き出し、しばらく進むと再び止まる。
しばらく待っていると扉が開き、兵士たちとは違った装いの男性が現れる。
「ようこそおいで下さいました。早馬にて連絡は受けております」
目の前の男性が手を差し出してきたけれど、何が何だか分からない私は戸惑っている。
「その方は城の騎士でライオット様でございます。あなたが馬車を降りるためにエスコートをされるようですので、どうぞ手をお取りください」
「わ、分かりました」
私はティコを右手に抱き、差し出された手へと左手を差し出す。
「驚きましたね、本当にメイドとは。とはいえ、あなたのエスコートをするように仰せつかっておりますので、本日ばかりはご令嬢のように扱わせて頂きます」
ライオットと呼ばれた騎士様が、にこりと笑顔を向けてくる。よくは分からないけど、とりあえず笑顔を返しておく。
ライオットさんに案内されて、私たちは城の中を歩いていく。
私は頭には何もかぶっていないので、魔族の象徴である角が丸見えになっている。そのためか、すれ違ったり遠巻きにいる人たちからやたらと見られている気がしていた。
ティコが珍しいからかなと思ったんだけど、クルスさんからの指摘で私の角だということが判明した。なんとも恥ずかしいかぎりである。
私たちのやり取りには反応することなく、ライオットさんは淡々と城の中を進んでいく。
「こちらが謁見の間となります。お呼びするまで少々お待ち下さい」
ライオットさんに言われて、入口の扉から少し離れた場所で私たちは待機する。
しばらく様子を眺めていると、話がついたのかライオットさんが戻ってきた。
「待たせてしまって申し訳ない。それでは陛下へと謁見を行います。失礼のないようにお願いしますね」
「わ、分かりました」
隣国でも国王たちに会っているとはいえ、やっぱり王族相手となると緊張してしまう。
ちらりとクルスさんを見るけど、やっぱりガチガチに固まっていた。
男爵様の前では平然としているクルスさんでも、やっぱり王様相手では私とあまり変わらないようだった。
ライオットさんが扉を改めて叩いて、入室のために声をかける。
許可が下りているので、ライオットさんは扉を開けて中へと入る。そして、振り返って私たちを呼ぶ。
ライオットさんの招きに従って、私たちも謁見の間の中へと入っていく。近衛兵の視線が向けられる中、私たちは国王の前まで進んでいく。
国王を前にして、ライオットさんとクルスさんが跪いたので、私もティコを抱いたまま同じように跪く。
「国王陛下、例の魔物とその使い手を連れてまいりました」
「ふむ、ご苦労だな」
ライオットさんからの報告を受けて、国王が私たちに声をかける。
「よくここまで来てくれたな。みなの者、面を上げい」
国王の言葉を受けて、私たちは顔を上げる。
私たちが顔を上げた先に立つ人物。その人物こそが、私が今住んでいる国の国王陛下なのであった。
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