追放魔族のまったり生活

未羊

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第76話 国王にティコを紹介する

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 この国の国王……。
 人間時代に住んでいた時の国王とも会ったけれど、全体的な雰囲気は違うけれど、緊張してしまうのは一緒ね。
 じっと国王の姿を見ながら、私は緊張していた。私は知らなかったけど、この時の私はかなり難しい顔をしていたみたいだった。

「ふむ、その腕に抱えておるのが話に聞いている魔物、でいいのかな?」

「は、はい。名前はティコ、マンティコアという魔物でございます」

 ちょっと声が上ずってしまっている。
 でも、国王を目の前にしてそんな堂々と振る舞えたものじゃないわよ。

「マンティコアか。だが、その子は小さい。目撃証言ではかなり大きな個体だったそうだな?」

「はい、過去に隣国で何か所も町を滅ぼしたという恐ろしい魔物で、最近の目撃情報では、この部屋に収まるかどうかという大きな個体だそうです」

 ああ、隣国まで薬草やらマンティコアの血やら採取に行った帰りを目撃されていたのね。
 それからの期間を考えれば、国王にも報告が届いて捕獲作戦が実行されても確かにおかしくない日数だったわ。
 どことなくすべての内容に納得がいく話だった。

「ティコは、怖くないですよ。私にとても懐いてくれていますし、その気になれば他人だって背中に乗せてくれます。ただ……」

「ただ?」

「ここでは確かに狭いんですよね。特に天井が」

 話をしながら、私は天井を見上げた。
 隣国とは違って、天井が低かったのだ。これでは、ティコを元に戻すと天井を壊してしまう恐れがあったのだ。
 私が困った表情をしていると、国王はあごを触りながら考え込んでいる。

「ふむ、外に移動するとしても、王都の民にその姿をさらすのはよろしくなかろう。どうしたものかな、ライオット」

 国王は困ったように、ライオットさんへと意見を求めた。

「はっ、それでしたら騎士の訓練場がよろしいかと。あそこなら天井はありませんし、広さも十分あります。それと、騎士を慣れさせることもできますでしょう」

 思ったよりもすぐにライオットさんは答えを返していた。さすが騎士は違うと思わされる瞬間だった。
 マンティコアは恐ろしい魔物だし、見たことがないとその姿だけでも怖がることになる。私も初めて見た時には足がすくんだくらいだもの。姿を知らしめるというのは、確かにいいかもしれないわね。
 国王はライオットさんの言葉を受け入れて、揃って騎士の訓練場へと移動していく。
 突如として現れた国王に、騎士たちは揃って訓練をやめて跪いている。その一糸乱れぬ姿に、私は思わず感動してしまった。

「みなの者、訓練中にすまぬな。ちょっと見せたいものがあるのだが、しばし壁際に寄って並んで立っていてくれ」

「はっ!」

 国王の言葉に、騎士たちは一斉に壁際に移動する。

「それでは、そこな魔族。魔物を出してくれ」

「畏まりました」

 私は命令なのでおとなしく従って訓練場の真ん中へと歩み出ていく。壁際に立つ騎士たちからはいろいろと声が聞こえてくる。
 それもそうよね。私みたいな魔族が城のど真ん中に入ってきてるんだもの。よく思われてないわよね。
 私は騎士たちの態度についため息をついてしまう。

「それじゃ、ティコ。いくわよ」

「にゃう」

 ティコを地面において、私は魔法を使う。

大なれビッグ!」

 次の瞬間、ティコは本来の姿へと戻っていく。
 そこにいたのは、獅子の顔と体、サソリのしっぽ、それと真っ黒な羽を持った魔物、マンティコアだった。

「がああっ!」

 私が気分を悪そうにしていたせいか、ティコは元の姿に戻ると同時に雄たけびを上げていた。

「ティコ、怖がらせちゃダメ」

「ぐぅ……」

 私が叱ると、ティコは謝るようにしょぼくれていた。大きくなっても可愛いんだから。
 ティコの顔をにこやかに撫でていると、周りからは驚きの声が聞こえてくる。

「アイラ、国王陛下とライオット殿を近付けさせても大丈夫かな」

「問題ありませんよ。私がいる限り、ティコは暴れませんから」

「だそうです。どうぞ、ご安心して近付いて下さい」

 クルスさんがそう勧めるけれど、国王もライオットさんもものすごく怖がっていた。
 そりゃまあ、しっぽは猛毒だものね。
 そういうわけで、クルスさんが率先して私に近付いてくる。
 ティコはクルスさんにも慣れているので、特に問題なく近付いて撫でることができた。
 国王たちも覚悟を決めてティコに近付く。
 ところが、ティコは暴れない。それどころか、落ち着いたかのようにその場に座り込んでしまった。

「俺たちは一体何を見せられているんだ?」

「だよな。あれがあの凶悪な魔物であるマンティコアか?」

 騎士たちは騒然としていた。
 国王たちにその体を触れさせたことで、私たちに敵意がないことはしっかり示せたと思う。

「ティコ、マンティコアって弱いところがあるの?」

「がう!」

 ティコはしっぽで自分の背中を指している。どうやら背中が弱点らしい。
 つまり、弱点である背中に人を乗せるということは、それがすなわち信頼の証ということのようだった。

「いいのか? そんなことを教えても」

「ティコはいいって言ってるからいいんじゃないのかな」

「がうがう」

「簡単に刺されるのは弱いだけだって。刺されない自信が相当あるみたいね、ティコってば」

 私が困ったようにティコを見ると、にこにことした笑顔を見せていた。

「アイラって、マンティコアの、ティコの言葉が分かるのか?」

「なんとなくだけどね。もしかしたら、従魔契約をしたからかな」

「可能性はあるな。魔物使いは魔物と心を通わせるっていうしな」

「なるほど、実に珍しい体験をさせてもらった。今日は歓迎をさせてもらうので、泊まっていきなさい」

「え、でも、私なんて魔族ですよ。いいんですか?」

 国王に言われて私はものすごく戸惑っている。だけど、国王は構わないという顔をしていた。
 あちこち目を泳がせてしまう私だったけれど、ここまで言われてしまえば受け入れざるを得なかった。
 こうして、こちらの国でも王城に泊まるという体験をすることになってしまったのだった。
 お腹、お腹が痛いわ……。
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