追放魔族のまったり生活

未羊

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第77話 ごちゃつく朝

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 翌日、朝起きた私は鏡を見てびっくりした。

「うわぁ、髪の毛ぐしゃぐしゃ……」

 緊張で寝苦しかったのか、激しいまでの寝癖がついていたのだ。
 自分の故郷のお城ではそんなこともなかったのに、どうしてこんなことになっているのやら。
 それにしても、これだけ酷い髪の毛じゃ人前に出られない。普通の人間だった頃にも見たことがない頭の状態に、私はすっかり焦っている。

「ど、どうしたらいいんだろ、これ……」

「にゃう?」

 鏡を見ながら困っている私のところに、ティコが近付いてくる。

「あ、ティコ。ごめん、起こしちゃったかな」

「にゃうう~ん」

「ティコ?」

 身震いをしてあくびをしたかと思うと、ティコは大きく鳴く。
 次の瞬間、ティコから風が巻き起こる。

「えっ、これは?」

 ティコがどうやら風魔法を使っているようだった。

「マンティコアって、風魔法が使えるの?!」

 驚く私を、ティコが起こした風が渦巻いて取り囲んでいく。
 どうなるのか分からない私は、ちょっと怖くて縮こまっている。
 ティコの放った風は、私の髪の毛を包み込んでいく。ティコは険しい顔をしているけれど、どうやら魔法をコントロールしようと集中しているようだった。

「にゃう!」

 大きな声でティコが鳴くと、髪を包んでいた風がざあっとかき消えていく。
 風が消えたことに驚いていると、ティコは前足をくいくいと鏡の方へと向けている。鏡を見ろと言っているみたい。
 ごくりと息を飲んで、私は鏡を覗き込んでみる。

「うわぁ……」

 そこには、しっかりいつもの髪型に戻った私の姿があった。

「ありがとう、ティコ」

 私はティコを抱え上げてぎゅっと抱き締める。
 ティコは満足そうに目を細めて笑っていた。
 なんというか、あれだけ怖かったマンティコアなのに、ティコはすっかり癒しの存在だわ。

「にゃう~」

 ティコと戯れていると、扉が叩かれる。

「はい、どちら様ですか」

「俺だ、クルスだ」

「ああ、クルスさんですか。起きてますので、すぐ準備しますね」

「そうか。俺はちょっと呼ばれているんで、迎えの使用人を寄こそう。もう少しゆっくりしていて大丈夫だからな」

「分かりました」

 会話を終えると、廊下を歩く音が響く。
 どうやら、クルスさんは本当に誰かに呼ばれているようだった。
 髪が整ったばかりの私は、すぐさま着替えていつでも出られるように準備をする。
 しばらくすると、城の使用人が呼びに来たので、その後をついて行く。
 やって来たのは食堂。どうやら、ここでまた国王と食事をすることになるらしい。お腹が痛いわ。

「アイラと申したな。どうだ、この国のお抱えとなってみる気はないかね」

 いきなりなんてことを聞いてくるんですか、この国王は。
 あまりにも唐突なので、私は食べている食事を思わず吹き出しそうになってしまった。

「こ、国王様?!」

 用意されていた布巾で口を覆ってどうにか落ち着いた私は、驚いた顔で国王の方を見る。

「聞けばポーションやおいしい茶葉を作ったりもしているそうだな。そして、マンティコアを手懐けている。放っておけば脅威になるのは目に見えている。ならば、手元に置いておきたいというものだよ」

 国王も王妃も、にこにことした表情で私を見ている。この二人、本当に私を手元に置く気満々のようである。
 私は困った顔でクルスさんの方を見る。
 私の視線に気が付いたクルスさんだったけど、首を横に振って再び食事を始めていた。ちょっと、無視するの?!
 クルスさんの反応にあっけに取られている私に、国王と王妃の熱い視線は向けられ続けていた。
 どうしたものか……。
 権力者の下で働くというと、どうしても前のオークの主の横暴さが頭の中に浮かんできてしまう。だから、私はとてもじゃないけれど、この提案に首を縦に触れなかった。
 思い悩んだ末、私は結論を出す。

「どうだ。考えは固まったかね」

 どうやら私がずっと悩んでいた姿を見ていたらしい。そんな言葉が出てくるあたり、相当期待していたと見える。

「はい。やっぱり私はどこにも所属しません。権力者の下で働くということに、もう懲りてしまっていますので」

「ふむ、それはどういうことかな?」

「私は狂暴なオークの主の下でものすごく働いていました。しっかり仕事をこなしても褒められることもなく、挙句理不尽に放り出されてしまったのです。なので、もう誰かの下で働くというのは、嫌なんですよ」

 自分の正直な気持ちを話すと、国王は黙り込んでしまった。

「それに今住んでいる家も気に入っていますし、もうのんびりと気ままに過ごしたいんです」

 私が言い切ると、国王は王妃と顔を見合わせながらなにやら相談を始めていた。
 話がすぐに終わらなさそうだったので、私は食事を再開する。
 ほとんど終わりかけたところで、国王たちが再び私の方を見る。

「分かった。抱え込むことを諦め、そなたの自由の身を保証しよう」

 国王の言葉に安心する私だったけれど、それはちょっと早いようだった。

「ただし、ポーションと茶葉を定期的に納品するように。住んでいるところの近くにはランスター男爵がいたな。彼らを通じてで構わんぞ」

「しょ、承知致しました。そのくらいでしたら、お引き受けいたします」

 納品の話が出るのは覚悟していたので、私は自由の身が確保できただけでもよしとした。
 あと、クルスさんは笑うのはやめて下さいな。
 こうやってすべての話を終えて、私たちは朝食を済ませたのであった。
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