逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第318話 抗いの決断

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 先触れを出したため、シアンたちはお城へとやって来た。
「おお、シアン王女、久しぶりですね」
「お久しぶりでございます、パール王妃様」
 きちんとした挨拶をするシアンである。
 隣ではスミレもきっちり頭を下げている。
「用件はまたゆっくり伺うとして、ムー王国を楽しんでいって下さいね」
「うむ、我々も歓迎するぞ」
 メインで喋っているパールの横から、国王も少し口を挟んでいる。
 それにしても国王だというのになんという影の薄さだろうか。

 パールたちとの謁見を終えると、シアンたちは客間へと向かう。
 部屋の中に入ると、ようやく落ち着くスミレである。
「スミレ、今回のムー王国への訪問理由を尋ねてもいいかしら」
 シアンは気になっていたらしく、スミレに改めて問いかけている。
 ところが、スミレはこの質問には答えづらそうにしていた。
 それというのも、やはりその理由だろう。とてもではないが、二年後に死ぬかもしれないなんて話を平然と口に出せるわけがないのだ。
 部屋でくつろいでいると、唐突に扉が叩かれる。
「シアン王女、スミレさん、ちょっとお邪魔してもよろしいかしら」
 なんとパールがやって来たのだ。
「はい、どうぞ」
 断る理由もないので、シアンは部屋へと招き入れる。
 いつもの通りのすました表情のパールが部屋に入ってくる。
 シアンとスミレは立ち上がって挨拶をしている。
「わざわざお越し下さるとは……。一体何のご用でしょうか」
「ふふふっ、実は今回の訪問に先立って、スミレさんから手紙を預かっていましたのよ」
「スミレから?」
 パールの言葉に、シアンは驚いている。
 ほとんど常にシアンのそばにいたスミレに、そんな暇があったのかと驚かされている。
「因果を捻じ曲げる方法について。なんという大それたことを聞いてきますのかしらね、スミレさん」
 パールは見たことのない表情を見せている。
 だが、これに素直に答えることができるわけがないので、スミレは黙り込んでしまっている。
 なにせ、現在の主であるシアンの命にかかわることなのだ。本人の前で言えるわけがなかった。
「以前の様子から察するに、シアン王女に関することですね」
「私に?」
 パールからの言葉に、思わず動揺を見せてしまうスミレ。その様子も見た上で、シアンは首を傾げてしまっている。
「時を操る幻獣、それがあなたの正体ですよね、スミレさん」
「……ケットシーからの情報ですか?」
「ええ、そうよ」
 確認してくるように尋ねてくるパールに、スミレは情報源を確認する。パールはそれをすぐに肯定していた。
 ケットシーはムー王国で誕生した人工的に生み出された幻獣だ。それゆえに、ムー王国と内通していてもまったく不思議ではないのだ。
「ですので、私は事情をすべて知っています。けれども、さすがの私も、この話をここでするのにははばかられますね」
「ちょっと申し訳ないですけれど、私は入ってはいけないようなことでしょうか?」
 気になりすぎるシアンがパールに質問をすると、パールは黙って頷いていた。
 これにはシアンもさすがに機嫌が悪くなってくる。
 自分が関われないというのは、それだけ疎外感を感じてしまうからだ。
「どうしても、お聞きになりたいですか?」
 パールはシアンに確認をしている。
「ここまで来ていて私だけが知らないというのは我慢なりません。どんなことであろうとも受け止めてみせます。お話しください」
 真剣な表情で言葉を返すシアン。その姿に並々ならぬ覚悟を感じたパールは、シアンにその話をすることにしたのだ。
「分かりました。お話しましょう」
 パールもその覚悟に応える。
 時渡りの秘法の暴走により、このままではシアンは十九歳の冬に死を迎えること。
 スミレはその因果を正すべく、責任を取ろうとして活動していること。これらのことを、パールはシアンに告げたのである。
「なんですって……。このままでは、私はあと二年の命だと仰られるのですか?」
「はい。残念ながら。時渡りの秘法が発動した時になかったことにした、ロゼリア様の処刑を再現して、時渡りの秘法はつじつまを合わせてすべてを終わらせようとしているのです」
「なんて……ことなの……」
 覚悟を決めていたはずのシアンだったが、さすがに自分の残された命について聞かされると、そのショックは大きすぎたようだ。
 思わず膝から崩れ落ちてしまうくらいだ。
「私もケットシーから聞かされて調べ始めています。スミレさんも、そのためにムー王国に行こうと仰ったのですよ」
「そう……だったのですね」
 シアンはショックを受けたまま、力なく反応している。
 ロゼリアより先に死ぬことよりも、ロゼリアと離れ離れになってしまうことの方が怖いのである。
 前世は侍女として、今世は娘としてずっと一緒にいるのだ。どうせ死ぬのなら、ロゼリアの幸せな姿を見届けてからにしたいのである。
 だが、時渡りの秘法の暴走により、それが叶えられないのではないかとなれば、シアンはすさまじいショックを受けてしまっているのである。
「ふ、ふふ……、そんなこと、許しませんわよ」
「シアン様?」
 急に笑い出したシアンに、スミレは恐怖を感じている。
「スミレ、なんとしても時渡りの秘法の魔の手から逃れますよ」
「は、はい!」
 シアンの強い言葉に、スミレは元気よく返事をする。
 自分の未来をつかむための戦いが、ここに始まったのである。
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