逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第320話 今はまだ……

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 意外にも協力を取り付けることができた。
 時空を飛び越える以上、時間の魔法に関しての研究には貪欲なようなのだ。
 早速研究者たちは、シアンたちに魔法についての詳細を尋ねてくる。何がどうなってどういう風になったのか、研究や対策をする上ではどうしても必須な情報だからだ。
 かなり熱心に聞いてくるので、シアンたちは仕方なく答えるしかなかった。

「なるほどなるほど、きっかけになったのは、当時仕えていた女性の死というわけですな」
「その死を回避するために、禁法という魔法を探し出して実行するあたり、泣ける話でございますね」
 シアンのあまりにも健気な行動に、研究者たちが涙を流して感動している。
 創作劇とするなら涙を誘えそうな話ではあるものの、当事者であるシアンからすると、なんとも涙を流される姿は複雑な気持ちになってしまう。
「あなたたち、あまりシアン王女を困らせるんじゃありませんよ。何もお涙ちょうだいで話をしているわけではないのですから」
「はっ、これは失礼しました!」
 パールに咎められると、研究者たちは謝罪をしていた。
「それにしても、時を司る神獣と幻獣ですか」
「我らもこちらの世界に定着してから長く過ごしていますが、そのような存在がいるとは知りませんでした」
 研究者たちの言葉に、思わずシアンとスミレは反応してしまう。
「代々ムー大陸のことは伝えられてきていますからね」
「ご先祖の気持ちを大切に思っていなければ、このような研究に手を出すことなんてないと思いますよ」
「この世界になじみ過ぎた者たちは、時間の研究なんて馬鹿らしくなってみんな放棄しましたからね」
 研究者たちは口々にそんなことを言っている。
 どうやら受け継がれた望郷の思いの強さが、彼らの研究の原点のようだった。
「話しを伺っていると、その時渡りの秘法が暴走した理由は分かりますね」
「どういうことですか?」
 研究者の一人が告げた言葉に、シアンがかなり強い反応を示す。
「考えてもみて下さい。例えば納品の依頼を受けたとします。必要なものは順調にいけば揃うはずでした。ですが、その時に嵐に遭って、予定のものが揃わなくなってしまいました。その時、どうなさいますか?」
 研究者の一人が出したたとえ話を聞いて、シアンとスミレはあっと思ってしまう。
 そう、順調にいけば予定通り揃えて、問題なく満足して戻れるはずだった。それが突然起きたトラブルによって叶わなくなってしまった。
 つまり、時渡りの秘法が願いを成就してシアンの存在を回収して終わるはずだった状況を、スミレが横からかっさらっていったので、時渡りの秘法が怒ってしまったというわけだ。
 必要だったシアンの魂をどうしても回収するために、代替行動としてシアンをロゼリアと同じ状況に陥れて、なにがなんでも回収しようとし始めたということなのだ。
 つまり、すべての始まりは、スミレの思わぬ予想外な行動だったというわけだ。
「申し訳ございません、私のせいで苦しめるようなことになってしまって……」
 スミレは深々と頭を下げてしまう。
 元々幻獣で人間たちに興味の薄かったスミレからすると、明らかに劇的な変化というものである。
「スミレが悪いという状況ですが、私は悪いとは思っていませんよ。ロゼリア様に、侍女として娘として、こうも長くかかわってこられて幸せですから」
「シアン様……」
 笑顔を見せるシアンに、思わず涙を流しそうになってしまうスミレである。
 感動的な状況であっても、パールは冷静だった。
「では、どうすれば助けられるとお考えですか、みなさん」
 研究者たちに問いかけるが、研究者たちは一様に重い表情をしていた。
「お言葉ではございますが……」
 研究者の一人が、パールに言葉を返す。
「申してみなさい」
 許可が出たので、研究者は躊躇するようにあちこちに視線を泳がせた後、意を決して話し始める。
「今の我々では犠牲なくしての解決は不可能だと申し上げるしかございません。ですが、シアン王女殿下の魂を捧げなくても済む可能性はないとは考えません」
「……具体的に仰って下さい」
 研究者に、パールはさらに問い詰めていく。
「はい、同等の価値のある魂であるのなら、シアン王女の死を避けられるとは思われます」
「ですが、現実的に考えれば難しい話であるには変わりありません」
 研究者たちの表情が暗い。
「例えば、シアン王女の転生によって追い出されてしまった、本来のシアン王女の魔力ということも考えられます」
「ですが、それではまた別のつらい状況を生み出しかねません。大団円になるような解決策は、我々にはとてもではないですが、思いつきませんね」
 正直に話してきてくれる。
 彼らもこの話を伝えるのはつらいだろうが、王妃からの問い掛けであるために、そのすべてを話している。
「……分かりました。現状ではお手上げということで、よろしいのですね」
「はい、その通りでございます」
 研究者たちは目を伏してパールに告げている。
「分かりました。期限まではまだ二年ございます。それまでに何としても解決策を見つけるのです」
「はっ! 承知致しました」
 研究者たちは元気よく返事をしていた。

 時渡りの秘法の暴走。それは急すぎる難題なのであった。
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