逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第321話 学園最後の一年

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 ムー王国での滞在中に解決策を見出すというのは、やはり無謀だったようである。
 しかし、まだ二年間の猶予があるため、ムー王国の魔法研究所はしっかりと研究を行ってくれることを約束した。
 まったくもって予断の許されない状況ではあるものの、わずかな望みをつなぐことはできたといえよう。
「本当に申し訳ございませんでした、シアン様」
「いいのですよ、スミレ。起こってしまったことよりも、これからのことを考えましょう」
「……はい」
 シアンは不安を抱えているものの、それを表に出さずスミレを気遣っていた。
「時に関する魔法の実演ができたのは大きかったですね。あの人たちなら、何かを成し遂げてしまいそうで期待が持てます」
 シアンは笑って見せている。
 確かに、実際に目の前で時間を止めてみせたというのは大きかった。
 止められた対象は鋼鉄のように固くなり、まったく動けなくなってしまい、しかもその間の記憶がない。
 スミレの力を見た研究所の人たちは驚いて、スミレを研究するために研究所に滞在させようとしてきた。しかし、一国の王女の侍女であるために、パールによってしっかりと止められていた。
 非常に残念そうにしていたものの、こればかりは仕方のない話である。

 モスグリネ王国に戻ってきたシアンは、いつも通りの生活を送る。
 一時的に力が抜けるようなことは、先日の一回きりでその後はまったく発生しなかった。
 いろいろと警戒をする中、学園六年次生、十八歳の一年を迎える。
 付き人として従うヒスイにも詳しい状況は隠したまま、シアンは学園生活を送る。
 ヒスイに隠すのは、余計な心配をかけさせないためだ。最初の印象こそ最悪だったものの、今ではすっかり打ち解けた仲だ。それゆえに話す決心がつかないというのも理由である。
 魔法に熱心な一門であるネフライト侯爵家であるなら、力になってくれる可能性は高いのだが、やはりシアンには巻き込むことをできなかったのである。
 とにかくまずは、この最後の一年を無事に過ごし、アイヴォリー王国へと嫁いでいくことだけを考える。学園を卒業できなければ、そもそもの意味がないからだ。
 死の運命を回避するためならば、あえて卒業しないという選択肢もありえただろう。だが、真面目なシアンにそんな選択肢が取れるわけないのである。

 ところが、時渡りの秘法の暴走による運命の捻じ曲げは、着実にシアンの周辺を蝕み始めていた。
 生まれた頃に問題になっていた、シアンの髪色の問題が今さらながらに復活してきたのである。
 ペイルは緑、ロゼリアは赤紫であるというのに、生まれたシアンは青色だという事実が、今さらながらにシアンを非難する材料として湧き出したのだ。
 だが、この問題は既に解決を見せているので、その証明をもって黙らせることは可能だった。それでもうるさく言えば国家反逆という罪に問われかねないために、簡単に制圧することができた。
「今さらながらに、両親と異なる髪色のことを言い出されるとは思ってもみませんでしたね」
 最終学年が始まって一か月。シアンは自室でため息をついていた。
「これも時渡りの秘法による暴走の一環でしょうね。シアン様に対する評判を貶めて、魂を持っていく下準備を始めたのでしょう。まったく、不愉快な魔法ですね」
 スミレもかなり怒っているようである。
「まさに自分で蒔いた種ですけれど、このような形で今さらながらに問題が噴出するとは思ってもみませんでしたね。どうにか早く解決したいですが、何かいい方法はありませんかね」
「あれば苦労は致しません。なにせ相手は目に見えない存在なのですからね」
 時を司る幻獣であるスミレにとっても、時渡りの秘法は厄介な相手のようだった。なにせこのような暴走は経験がないのだから。
 これはスミレの父親、時を司る神獣であるクロノスにとっても同じことで、彼をもってしても、現状での対応は不可能らしいことが分かっている。
 つまり、シアンとスミレでどうにか対応しなければならないのだ。
 シアンたちの苦悩の日々はまだまだ始まったばかりである。

 最終学年が始まって二か月目に入る。
 学園から戻ってきたシアンに対して、来客があるという報告がなされる。
 一体誰なのだろうかと、シアンはスミレと合流して早速会いに向かう。
 やって来た客間で待っていた人物は、思ってもみなかった人物だった。
「おお、シアンか。待っておったぞ」
「トパゼリアの、女王陛下?!」
 そう、部屋にいたのはトパゼリアの女王であるティールだった。
「うむ、その通りだ。なにやら困っていることがあるらしいと聞いてな。妾で力になれるのであれば協力させてもらおうと思った次第ぞ。さあ、悩みを打ち明けてみるといい」
 ティールは立ち上がってシアンに近付くなり、両手を広げて協力を申し出てきたのだ。
 何も話した覚えはないのに、こうやってやって来たということは、おそらく話を伝えたのはケットシーだろう。
 とはいえども、思わぬ協力者の登場である。
 シアンはスミレと顔を見合わせたのち、ティールと話をすることにしたのだった。
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