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新章 青色の智姫
第325話 三人寄れば……
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魔石を抜いたケルピーをどうするかとなったシアンたちだったが、アイリスを頼ることにした。急ぎの状況にはあったものの、このままケルピーを連れて移動することはできなかったからだ。
魔石を失ったケルピーなど、ただの珍しい毛色の馬でしかない。なので、保護の目的もあって、アイリスを訪ねた。
ハウライトのコーラル伯爵邸に到着すると、すぐさまアイリスに会う。
「アイリス様、ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、シアン様、よろしいですよ」
突然押し掛けたというのに、アイリスは優しく対応してくれていた。
「このケルピー、魔石を失ってますね。一体どうやったのですか……」
さすがは神獣使いの血を継ぐだけあって、魔石の有無をすぐに把握していた。
「ちょっと理由がありましてね」
シアンが言い渋っていると、アイリスはただ笑っている。
「スミレさんですね、だいたい分かります。ずいぶんと無茶苦茶をされたようですね」
「ま、まあ、そうですね」
なんとなく察せられてしまったせいで、スミレは目を泳がせながら返事をしていた。
「この子は私が預かりましょう。コーラル伯爵領ならいい場所がありますからね。どちらにも頼りになる人がいますから、この子にも悪いようにはならないでしょう」
「申し訳ありません、アイリス様。急に押しけかた上に、厄介を押し付けるようなことになってしまいまして」
「いえいえ、構いませんよ。魔物となると手には負えませんからね」
アイリスはそう言いながら、ケルピーを撫でている。ケルピーの方もケルピーですっかりアイリスには懐いてしまっている。さすが神獣使い。魔物も配下に置いた実績もあるので、尊敬の念しかない。
「メスのようですし、ルピーと名付けましょう」
「アイリス様、安直ですね」
「最初ですから分かりやすい方がいいのですよ」
シアンがツッコミを入れると、アイリスはただ笑っていた。
次の瞬間、ケルピーが光って少し成長したようだった。
そういえばライやルゼたちも同じようなことが起きていた。ということはこのケルピーにも同じようなことが起きているのだろうか。
「ありがとうございます、ご主人様」
「やっぱり喋り出しましたね」
「そうですね」
シアンが困ったような顔で話をすると、アイリスは笑顔を崩さずに頷いていた。
結局、このケルピーはアイリスに従属することとなり、そのまま預かってもらえることになった。
懸案だったケルピーの問題は解決したので、シアンたちは魔石を持ってすぐさまムー王国へと向かう。
学園の最終学年ではあるものの、卒業に必要な分はほとんど獲得済みなので、試験さえクリアできればどうにかなる。そのため、シアンも気兼ねなく自由にしていられる。
ただヒスイのことがあるので、一度ヴィフレアに戻ってしばらく不在にすることだけは話しておいた。詳しい理由はいろんな事情から伏せておいた。
こうやっていろいろと用事を済ませてきたシアンは、ようやくムー王国の王都に到着する。
お城を訪れた時には、ムー王国の王妃パールと、トパゼリアの女王ティールがちょうど顔を合わせたところだったようだ。
「おお、シアンよ。実にちょうどいいところに来たな」
「まったくですね。ティール陛下もちょうど先程到着されたところです。まずは私の部屋でゆっくりお話をするとしましょう」
「はい、ご一緒させて頂きます」
シアンはしっかりと淑女の挨拶をして、パールたちと一緒に移動する。スミレももちろん同行している。
パールの部屋に到着すると、ひとまずテーブルを囲んで三人は腰を落ち着かせていた。
「まさかトパゼリアとこのように同じテーブルにつくとは思ってもみませんでしたね」
「それは妾の方もぞ。ムー王国とは因縁めいたものがあったからな」
話の内容の割には二人はともに笑顔である。
「それで、今回はトパゼリア、アトランティス帝国の技術をご提供いただけるとの話でしたね」
「うむ。わが国では魔石を宝珠に加工するという特殊技能があってな。それを使えば同じ魔法でもより効力を上げられるという結果が出ておるのだ」
「それは興味深いですね」
パールは淡々と話している。
「これがその宝珠だな。隣にあるのは普通の魔石だ。見た目だけでも違いがよく分かるであろう」
「確かに、魔力の含有量が違っておりますね」
パールは宝珠を目の前にして触らずともその違いを感じ取っていた。
「今回、シアンにかけられた禁法の呪いも、うまくすれば回避できると信じておる。我が国の宝珠の加工技術と、そちらの魔道具研究を組み合わせれば、きっと可能であろうな」
「これほどのものであれば、可能かもしれませんね。ですが、これではとても魔力が足りるものとは思えませんが」
パールは改めて魔石と宝珠を比べながら、感想を述べている。
「妾もそう思っておる。それで、シアンには元となる魔石を確保するように頼んでおいた。手に入ったかな?」
「はい、こちらに」
シアンはそういうと、スミレを前に出させる。
収納魔法から取り出したのは、どうにか手に入れることのできたケルピーの魔石だった。
「ほう、これだけの大きさがあれば可能かもしれんな。早速預かってもよいか?」
ティールの問い掛けに、シアンはこくりと頷いた。
三国の知恵が一堂に会し、いよいよシアンを蝕む禁法の呪いを解除するための計画が実行に移される。
はたしてこの計画はうまくいくのだろうか。
ケルピーの魔石は、まずは第一段階となる宝珠の加工へと回されたのだった。
魔石を失ったケルピーなど、ただの珍しい毛色の馬でしかない。なので、保護の目的もあって、アイリスを訪ねた。
ハウライトのコーラル伯爵邸に到着すると、すぐさまアイリスに会う。
「アイリス様、ちょっとよろしいでしょうか」
「はい、シアン様、よろしいですよ」
突然押し掛けたというのに、アイリスは優しく対応してくれていた。
「このケルピー、魔石を失ってますね。一体どうやったのですか……」
さすがは神獣使いの血を継ぐだけあって、魔石の有無をすぐに把握していた。
「ちょっと理由がありましてね」
シアンが言い渋っていると、アイリスはただ笑っている。
「スミレさんですね、だいたい分かります。ずいぶんと無茶苦茶をされたようですね」
「ま、まあ、そうですね」
なんとなく察せられてしまったせいで、スミレは目を泳がせながら返事をしていた。
「この子は私が預かりましょう。コーラル伯爵領ならいい場所がありますからね。どちらにも頼りになる人がいますから、この子にも悪いようにはならないでしょう」
「申し訳ありません、アイリス様。急に押しけかた上に、厄介を押し付けるようなことになってしまいまして」
「いえいえ、構いませんよ。魔物となると手には負えませんからね」
アイリスはそう言いながら、ケルピーを撫でている。ケルピーの方もケルピーですっかりアイリスには懐いてしまっている。さすが神獣使い。魔物も配下に置いた実績もあるので、尊敬の念しかない。
「メスのようですし、ルピーと名付けましょう」
「アイリス様、安直ですね」
「最初ですから分かりやすい方がいいのですよ」
シアンがツッコミを入れると、アイリスはただ笑っていた。
次の瞬間、ケルピーが光って少し成長したようだった。
そういえばライやルゼたちも同じようなことが起きていた。ということはこのケルピーにも同じようなことが起きているのだろうか。
「ありがとうございます、ご主人様」
「やっぱり喋り出しましたね」
「そうですね」
シアンが困ったような顔で話をすると、アイリスは笑顔を崩さずに頷いていた。
結局、このケルピーはアイリスに従属することとなり、そのまま預かってもらえることになった。
懸案だったケルピーの問題は解決したので、シアンたちは魔石を持ってすぐさまムー王国へと向かう。
学園の最終学年ではあるものの、卒業に必要な分はほとんど獲得済みなので、試験さえクリアできればどうにかなる。そのため、シアンも気兼ねなく自由にしていられる。
ただヒスイのことがあるので、一度ヴィフレアに戻ってしばらく不在にすることだけは話しておいた。詳しい理由はいろんな事情から伏せておいた。
こうやっていろいろと用事を済ませてきたシアンは、ようやくムー王国の王都に到着する。
お城を訪れた時には、ムー王国の王妃パールと、トパゼリアの女王ティールがちょうど顔を合わせたところだったようだ。
「おお、シアンよ。実にちょうどいいところに来たな」
「まったくですね。ティール陛下もちょうど先程到着されたところです。まずは私の部屋でゆっくりお話をするとしましょう」
「はい、ご一緒させて頂きます」
シアンはしっかりと淑女の挨拶をして、パールたちと一緒に移動する。スミレももちろん同行している。
パールの部屋に到着すると、ひとまずテーブルを囲んで三人は腰を落ち着かせていた。
「まさかトパゼリアとこのように同じテーブルにつくとは思ってもみませんでしたね」
「それは妾の方もぞ。ムー王国とは因縁めいたものがあったからな」
話の内容の割には二人はともに笑顔である。
「それで、今回はトパゼリア、アトランティス帝国の技術をご提供いただけるとの話でしたね」
「うむ。わが国では魔石を宝珠に加工するという特殊技能があってな。それを使えば同じ魔法でもより効力を上げられるという結果が出ておるのだ」
「それは興味深いですね」
パールは淡々と話している。
「これがその宝珠だな。隣にあるのは普通の魔石だ。見た目だけでも違いがよく分かるであろう」
「確かに、魔力の含有量が違っておりますね」
パールは宝珠を目の前にして触らずともその違いを感じ取っていた。
「今回、シアンにかけられた禁法の呪いも、うまくすれば回避できると信じておる。我が国の宝珠の加工技術と、そちらの魔道具研究を組み合わせれば、きっと可能であろうな」
「これほどのものであれば、可能かもしれませんね。ですが、これではとても魔力が足りるものとは思えませんが」
パールは改めて魔石と宝珠を比べながら、感想を述べている。
「妾もそう思っておる。それで、シアンには元となる魔石を確保するように頼んでおいた。手に入ったかな?」
「はい、こちらに」
シアンはそういうと、スミレを前に出させる。
収納魔法から取り出したのは、どうにか手に入れることのできたケルピーの魔石だった。
「ほう、これだけの大きさがあれば可能かもしれんな。早速預かってもよいか?」
ティールの問い掛けに、シアンはこくりと頷いた。
三国の知恵が一堂に会し、いよいよシアンを蝕む禁法の呪いを解除するための計画が実行に移される。
はたしてこの計画はうまくいくのだろうか。
ケルピーの魔石は、まずは第一段階となる宝珠の加工へと回されたのだった。
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