逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第328話 早朝の来訪者

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 しかし、ルゼを呼び寄せたのは思わぬ影響を及ぼしてしまう。
 ある日の朝、目が覚めたシアンの部屋の空気が急に歪む。これはなかなか見られた現象ではない。急激な魔力の消耗が起きた時に起こる現象だった。
「な、な、何が起きてるんですか?!」
 ぱあんと光が散ったかと思えば、そこに現れたのはなんとペシエラだった。
「ふむ、長距離瞬間移動魔法テレポートはさすがに不安定ですわね。国内ならそうでもありませんのに、国外の知らない場所だと魔力の消耗が激しいのですわね」
 唐突に現れたペシエラは辺りを見回しながら感想を呟いている。
 そもそも人間で瞬間移動魔法が使えるのは、チェリシアとペシエラの姉妹しか確認されていない。そのため、データが足りなさすぎるのだ。なので、ペシエラ自らが実践してデータを集めているのである。
「さて、ここはどこかしらね」
 部屋の中に現れたペシエラは、辺りをきょろきょろと見回している。
「あ」
 ばっちりシアンと目が合ってしまった。
「あら、シアンではありませんの」
「これは、ペシエラ様。お久しぶりです……」
 急に現れたペシエラに驚いて、シーツで顔を半分隠しながら対応している。
 ところが、ペシエラの様子がどうもおかしいようだ。
「おかしいですわね。ルゼを追って跳んできたはずですのに、モスグリネ王国ですの? いえ、それだとさっきの魔力の乱れは説明がつきませんわ……」
 シアンを見て勘違いしたのか、なにやらぶつぶつと独り言を喋り出していた。
 あまりにも思い詰めたようにも見えるので、シアンは心配になって声をかける。
「ペシエラ様」
「何かしら、シアン」
 声をかけられて、ペシエラはシアンへと顔ごと視線を向ける。
「ここはムー王国です。実はちょっとわけがございまして、学園をお休みして訪問させて頂いているのです」
「あら、そうでしたの。それでは、わたくしの魔法は成功していますのね。……座標はずれてしまいましたが」
 そう言いながら、ペシエラは部屋をもう一度見回してため息をついている。部屋の中にはルゼはいなかったからだ。
 気を取り直して、ペシエラはシアンに問いかける。
「それはそれとして、シアンはどうしてここにいますの。学園をお休みするほどの事態とはどういうことです?」
 ペシエラ化の質問攻めが始まる。
「ペシエラ様、それ以上はご勘弁下さい。あなたにも無関係ではない、こういえば想像はできますでしょうか」
「スミレ……」
 朝の支度をしていたスミレが、いつの間にかシアンとペシエラの間に割って入っていた。従者としてシアンを守るためである。その時の動きはとにかく速かった。
 ところが、そんな動きを見せられても、ペシエラはまったく動じることはなかった。むしろ感心しているように見える。
「まぁそれはさておきとしまして、今の言葉はどういう意味かしら」
 ペシエラはすごい剣幕でスミレに迫っていく。ペシエラの圧力にも動じないあたり、さすがは幻獣といったところだろう。
「あら、ペシエラ様ならこれだけで十分理解されると思われたのですが?」
 スミレもスミレでペシエラを煽り返す。
 部屋の中がなんとも険悪なムードになってきたので、シアンは二人を慌てて止める。
「もう、やめて下さいませんこと? 詳しい話は朝食の席ででも致しましょう。スミレ、すぐさま厨房にお客様が一人増えたことを伝えて下さい」
「承知致しました」
 シアンの指示に従い、スミレが部屋を出ていく。
 ようやく言い争いが止まって、シアンもほっとひと安心である。
 さっきのこともあってか、シアンはペシエラにとても声がかけづらい。そのため、とにかくスミレが戻ってくるまでの間、ただ黙って部屋の中を落ち着かない様子で過ごしていた。

 ようやくスミレが戻ってくるが、戻ってきた姿を見てぎょっとしている。
「えっと……、パール王妃様、ティール陛下。どうしてこちらに?」
「妾が魔力の歪みに気が付かぬとでも思うたか。すぐに勘づいて、パールを誘ってやって来たというわけだ。大体、この規模の魔力の歪みを生み出せる者など、妾が知るのは一人だ。のう、ペシエラよ」
 ティールが嬉しそうにペシエラに視線を向けると、ペシエラの方はこれもまた予想外だったかというような不機嫌な顔をしている。
「うふふ、こういう時は大人に任せておくものですよ。ペシエラ様、私どもの部屋へ参りましょう」
「そうですわね。それと、あの猫はいますかしら」
「残念ですけど、もう帰ってしまいました。どうかなさいましたか?」
 あれこれと話をしながら、ペシエラたちがシアンの部屋から出ていく。
 ようやく部屋の中の空気が落ち着き、シアンはスミレに着替えを指示する。
「まったく、ペシエラ様がいらっしゃるものだからびっくりしましたよ」
「本当ですね。一国の王妃だというのに軽率で困りますね」
 スミレはさっきのやり取りがまだ尾を引いているらしく、かなり不機嫌な様子で喋っている。
 それでも着替えや御髪を整える手際は、実に落ち着いて丁寧なものだった。

 ペシエラが押し掛けるという予想外なことが起きたのだが、今日も無事に一日が始まったのだった。
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