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新章 青色の智姫
第330話 義理と人情と非情の魔法
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アイヴォリー王国に戻ったペシエラは、じっとしていられなかった。
(分かっていて放置するのは性分に合いませんわね。わたくしの方でも調べてみることにしましょう)
自分が今の幸せを手に入れるきっかけとなったシアンの最大の危機ゆえに、ペシエラは行動をすぐに起こす。
まずは瞬間移動魔法でマゼンダ侯爵領にいるファントムを訪ねる。
彼は幻影の幻獣であるので、ちょっと特殊なことでも知っているのではないかと推測したためだ。それにロゼリアの関係者でもあるので、他人事ではない。きっと知恵を貸してくれるだろうという期待があった。
結論としては無駄足だった。それでも、時渡りの秘法が神獣クロノスによって生み出された魔法であるという情報が手に入っただけでも十分な成果と言える。
ペシエラはさらに北の氷山エリアへと足を伸ばす。ファントムから神獣に話を聞いてみた方がいいと勧められたからだ。
(北の氷山エリアには神獣インフェルノがいます。彼ならば何か知ってるかもしれませんわね)
わずかな期待を胸にペシエラはインフェルノのところに向かった。
「知らんな」
現実は非情だった。
インフェルノからはこのひと言で終わってしまったのである。
「ずいぶんと即答なさいますのね」
「実際に知らぬからな。俺は魔法が使えるがまったく詳しくはない。知りたければフェンリルにでも聞けばいいだろう」
非常に迷惑だといわんばかりに、インフェルノは前脚を振ってペシエラを追い払おうとしている。
迷惑がりながらも代わりの案を提示しているあたり、インフェルノも十分ツンデレの要素を持っているようである。
ペシエラはインフェルノにお礼を言うと、すぐさま瞬間移動魔法でインフェルノの前から姿を消した。
「やれやれ、時渡りの秘法の暴走か。実に面倒なことになったものだな……」
インフェルノはそう言いながら、自分には関係ないなというようにその場で横になった。
インフェルノの元から移動したペシエラは、フェンリルがいる神獣使いの里に出向いていた。
神獣使いの里は、アイリスの母親の生まれ故郷である。かつてはフェンリルが慕っていたベルという女性が住んでいた村である。
ペシエラは護衛もなしに里を訪れたが、特に問題も起きることなく里に入ることができた。
ペシエラがアイヴォリー王国の王妃であることは知られているし、それにアイリスやその母であるアメジスタを救ってくれたことへの恩があるからだ。
里の中に入ると、門番の案内でフェンリルのところへやって来る。ペシエラの姿を見つけたフェンリルは、立ち上がってしっぽを振りながら迎えていた。
「おお、ペシエラではないか。実に久しいな」
「ええ、フェンリルもお元気そうで喜ばしいかぎりですわ」
ペシエラは実に丁寧に淑女の挨拶をする。
「それで、今回は我にどういった用なのだ?」
フェンリルが興味深そうに尋ねてくるので、ペシエラはすべての事情をフェンリルに話した。
ペシエラの話を聞いたフェンリルは、それはとても悩ましい表情で唸っている。
「インフェルノのやつはともかくとして、ファントムまでそういう反応を示したのか……」
フェンリルは首を捻りまくっている。
「まあ、ファントムは基本的に論理的に考えるからな。無駄と判断すればそういう反応になるか」
「やはり、厳しい話ですのかしら」
すがるように食らいつくペシエラである。ここまで必死なペシエラは、なかなか見られたものではない。
フェンリルも対応にものすごく困っているようだ。なにせ世話になった相手だから何とかしてやりたいというものである。
だが、今回立ち向かう相手はいくらなんでも分が悪すぎるというものだ。時の神獣が生み出した禁法というものである。こんなものが相手では、正攻法でまともに相手にできるわけがないからだ。
「うむ……、厳しいは厳しい。というか、ファントムが判断した通りに無駄というのが一番適切な結論だろう。クロノスは神獣の中でも格がかなり上だ。その神獣が作り出した魔法なのだから、我とてまともにやり合ってどうにかできるものではないのだよ」
「やはり……、諦めるしかないのですかしらね」
ギリッと歯を食いしばるペシエラ。
自分の困難にすら打ち勝ってきたペシエラが苦しむ姿に、フェンリルは心が痛む。
「ここまでするのは、一体誰のためだ?」
フェンリルは分かっているが一応聞いておく。
「もちろん、ロゼリアですわ。いえ、それだけではありませんわね。わたくしだってそうですし、シアンがいなくなることで悲しむ人たちはたくさんいますわ」
ペシエラは間髪入れずに質問に答えている。
「そうだな。我もその一人ではある。……クロノスに掛け合ってみるとしよう」
「本当ですの?」
「ああ、我は嘘は言わぬ。ペシエラは、シアンたちが計画しているという宝珠の準備を手伝ってやれ」
「分かりましたわ。では、クロノス様の説得をよろしくお願い致しますわよ」
「できるかどうかは分からぬが、できる限りはやってみようぞ」
話を終えると、ペシエラは瞬間移動魔法でフェンリルの前から消える。
ペシエラが去ったあと、フェンリルは大きくため息をついていた。
「やれやれ、言わぬといったそばから嘘をついてしまったな。我ごときであの偏屈が動くとは思えぬし、クロノアにすでに働きかけていたようだから、おそらくはな……」
フェンリルはそう呟くと、ペシエラに約束した通り、クロノスのいるである場所へと向かったのだった。
(分かっていて放置するのは性分に合いませんわね。わたくしの方でも調べてみることにしましょう)
自分が今の幸せを手に入れるきっかけとなったシアンの最大の危機ゆえに、ペシエラは行動をすぐに起こす。
まずは瞬間移動魔法でマゼンダ侯爵領にいるファントムを訪ねる。
彼は幻影の幻獣であるので、ちょっと特殊なことでも知っているのではないかと推測したためだ。それにロゼリアの関係者でもあるので、他人事ではない。きっと知恵を貸してくれるだろうという期待があった。
結論としては無駄足だった。それでも、時渡りの秘法が神獣クロノスによって生み出された魔法であるという情報が手に入っただけでも十分な成果と言える。
ペシエラはさらに北の氷山エリアへと足を伸ばす。ファントムから神獣に話を聞いてみた方がいいと勧められたからだ。
(北の氷山エリアには神獣インフェルノがいます。彼ならば何か知ってるかもしれませんわね)
わずかな期待を胸にペシエラはインフェルノのところに向かった。
「知らんな」
現実は非情だった。
インフェルノからはこのひと言で終わってしまったのである。
「ずいぶんと即答なさいますのね」
「実際に知らぬからな。俺は魔法が使えるがまったく詳しくはない。知りたければフェンリルにでも聞けばいいだろう」
非常に迷惑だといわんばかりに、インフェルノは前脚を振ってペシエラを追い払おうとしている。
迷惑がりながらも代わりの案を提示しているあたり、インフェルノも十分ツンデレの要素を持っているようである。
ペシエラはインフェルノにお礼を言うと、すぐさま瞬間移動魔法でインフェルノの前から姿を消した。
「やれやれ、時渡りの秘法の暴走か。実に面倒なことになったものだな……」
インフェルノはそう言いながら、自分には関係ないなというようにその場で横になった。
インフェルノの元から移動したペシエラは、フェンリルがいる神獣使いの里に出向いていた。
神獣使いの里は、アイリスの母親の生まれ故郷である。かつてはフェンリルが慕っていたベルという女性が住んでいた村である。
ペシエラは護衛もなしに里を訪れたが、特に問題も起きることなく里に入ることができた。
ペシエラがアイヴォリー王国の王妃であることは知られているし、それにアイリスやその母であるアメジスタを救ってくれたことへの恩があるからだ。
里の中に入ると、門番の案内でフェンリルのところへやって来る。ペシエラの姿を見つけたフェンリルは、立ち上がってしっぽを振りながら迎えていた。
「おお、ペシエラではないか。実に久しいな」
「ええ、フェンリルもお元気そうで喜ばしいかぎりですわ」
ペシエラは実に丁寧に淑女の挨拶をする。
「それで、今回は我にどういった用なのだ?」
フェンリルが興味深そうに尋ねてくるので、ペシエラはすべての事情をフェンリルに話した。
ペシエラの話を聞いたフェンリルは、それはとても悩ましい表情で唸っている。
「インフェルノのやつはともかくとして、ファントムまでそういう反応を示したのか……」
フェンリルは首を捻りまくっている。
「まあ、ファントムは基本的に論理的に考えるからな。無駄と判断すればそういう反応になるか」
「やはり、厳しい話ですのかしら」
すがるように食らいつくペシエラである。ここまで必死なペシエラは、なかなか見られたものではない。
フェンリルも対応にものすごく困っているようだ。なにせ世話になった相手だから何とかしてやりたいというものである。
だが、今回立ち向かう相手はいくらなんでも分が悪すぎるというものだ。時の神獣が生み出した禁法というものである。こんなものが相手では、正攻法でまともに相手にできるわけがないからだ。
「うむ……、厳しいは厳しい。というか、ファントムが判断した通りに無駄というのが一番適切な結論だろう。クロノスは神獣の中でも格がかなり上だ。その神獣が作り出した魔法なのだから、我とてまともにやり合ってどうにかできるものではないのだよ」
「やはり……、諦めるしかないのですかしらね」
ギリッと歯を食いしばるペシエラ。
自分の困難にすら打ち勝ってきたペシエラが苦しむ姿に、フェンリルは心が痛む。
「ここまでするのは、一体誰のためだ?」
フェンリルは分かっているが一応聞いておく。
「もちろん、ロゼリアですわ。いえ、それだけではありませんわね。わたくしだってそうですし、シアンがいなくなることで悲しむ人たちはたくさんいますわ」
ペシエラは間髪入れずに質問に答えている。
「そうだな。我もその一人ではある。……クロノスに掛け合ってみるとしよう」
「本当ですの?」
「ああ、我は嘘は言わぬ。ペシエラは、シアンたちが計画しているという宝珠の準備を手伝ってやれ」
「分かりましたわ。では、クロノス様の説得をよろしくお願い致しますわよ」
「できるかどうかは分からぬが、できる限りはやってみようぞ」
話を終えると、ペシエラは瞬間移動魔法でフェンリルの前から消える。
ペシエラが去ったあと、フェンリルは大きくため息をついていた。
「やれやれ、言わぬといったそばから嘘をついてしまったな。我ごときであの偏屈が動くとは思えぬし、クロノアにすでに働きかけていたようだから、おそらくはな……」
フェンリルはそう呟くと、ペシエラに約束した通り、クロノスのいるである場所へと向かったのだった。
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