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新章 青色の智姫
第332話 運命を捻じ曲げろ
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クロノスに会ったフェンリルは、その足でペシエラのもとを訪れる。
「ペシエラ、今は大丈夫か?」
バルコニーに降り立ったフェンリルは部屋の中に呼び掛ける。
声に気が付いたペシエラがバルコニーに近付いて窓を開けると、フェンリルはするりと部屋の中に入ってきた。
「もう戻ってきましたのね」
「そなたの使う瞬間移動魔法とまではいかぬがな。神獣たちの住む世界はこちらとは時間が切り離されている。ましてやクロノスの周りは時間が止まっているも同然だ。したがって、どれだけいようとも時間はあまり経過しないのだよ」
「そうなのですわね」
フェンリルの言葉に思わず興味を持ってしまうペシエラである。だが、フェンリルはそれをさっさと切り替えさせる。
「そんなことよりも、クロノスからこれを預かることができた。そなたならうまく扱うことができると思うから、ひとまず授けておこう」
「なんなのですの」
フェンリルが体毛の中から取り出した一冊の本。それをペシエラは受け取る。
タイトルも何も書かれていない本を見て、ペシエラは複雑そうな表情を浮かべている。
「何かしら、この本は」
「シアン・モスグリネの運命について書かれた本らしい。クロノスが言っていたのだから、その通りだろうな」
「……そんなものを見てもよろしいのかしら」
「構わん。クロノスがつけた条件は、『シアンとクロノアには見せるな』ということだけだったからな」
フェンリルが告げた条件を聞いて、ペシエラは納得した。
ソファーに腰を掛けると、早速中身を確認し始める。
「あまりショックを受けるではないぞ。今のシアンの運命がどのような状態にあるのか、そなたもよく知っているはずだらな」
「分かっていますわよ。わたくしだって、本来なら消えていた身。運命の捻じ曲げでしたら、何度も経験してきましたもの。シアンの運命だって、きっと捻じ曲げて差し上げますわ」
「そうか……」
フェンリルはそう言うと、部屋から出ていこうとする。
「もう戻られますの?」
フェンリルの動きに気が付いて、ペシエラは声をかける。
声をかけられて、フェンリルはぴたりと動きを止める。
「ああ、あまりベルのそばを離れたくないのでな。クロノスからその本をもらえただけで十分役目は果たしただろう。神獣は本来、この世界にあまり干渉しないものだからな」
そうとだけ言い残すと、フェンリルはペシエラの元から去っていった。
一人になったペシエラは、改めてフェンリルから預かった本にじっくり目を通していく。
そこに書かれていたのは、自分が経験したよりもかなり凄惨な運命だった。
(逆行前のロゼリアが体験したような最期がほとんどですわね。しかも、手を下す相手がたくさんいますわ。もちろん、わたくしも……)
本の前半部分は、逆行前の自分がロゼリアに仕掛けたような卑劣な罠からの斬首刑という酷いものばかりだった。
ただその手段ときたら、自分が王妃になってからというもの、ほとんど出番のなくなったギロチンである。
(こんな手段を取るところを見ますと、時渡りの秘法は相当腹に据えかねているということなのでしょうかね。ロゼリアにとってもトラウマとなる処刑方法を選ぶあたり……)
本を読み終わった結果、生存ルートもあるにはあるものの、かなり条件が厳しいことが分かった。
(現状では、宝珠によるダミーを作り出してもほぼ無駄。万一回避ができたとしても、シアンには重い後遺症が残るときましたか……)
ペシエラは額に腕を乗せて、もたれ掛かりながら天井を見ている。
(知ってしまった以上、わたくしにはどうにかする義務が発生してしまいましたわね。しかし、これをシアンとスミレに話すわけにはいかない。さて、どうしたものでしょうかね)
フェンリルから本を受け取ってしまったことを、ペシエラは今さらながらに後悔した。知らなければよかったと心底思ってしまった。
しばらく部屋の中で一人考え込んでしまう。
(シアンはわたくしとロゼリアの間にあったわだかまりを解消してくれた恩人。なんとしても救いませんとね。このままでは、私は後悔してもしきれなくなってしまいますわ)
ペシエラは急に立ち上がると、出かける旨を侍女に伝えると、すぐに瞬間移動魔法でどこかへと移動する。
この手の類となれば頼りになるのはもうあの人物しかいない。
「それで、ボクのところに来たってわけかい? まったく、君も急なことをするものだね」
そう、モスグリネ王国の商業組合の組合長ケットシーのところである。
ムー王国の研究の一環として生み出された人工の幻獣は、神獣や幻獣たちの制約に縛られることなく、実に自由に動き回っている。
そんなケットシーなので、ペシエラも愚痴を軽く叩ける相手というわけだ。
「仕方ありませんわよ。こんなものを見せられてしまっては、誰かに相談しないわけにはまいりませんからね」
「その相手がボクってわけかい? 冗談はきついというものだよ」
ペシエラの言い分に、ケットシーは困ったように笑っている。
「たまには人に迷惑をかけられる気持ちも理解しますことね」
「まったくしょうがないな。ボクでよければ相談には乗るよ」
断り切れないと思ったらしく、ケットシーは結局ペシエラの相談に乗ることにしたのだった。
「ペシエラ、今は大丈夫か?」
バルコニーに降り立ったフェンリルは部屋の中に呼び掛ける。
声に気が付いたペシエラがバルコニーに近付いて窓を開けると、フェンリルはするりと部屋の中に入ってきた。
「もう戻ってきましたのね」
「そなたの使う瞬間移動魔法とまではいかぬがな。神獣たちの住む世界はこちらとは時間が切り離されている。ましてやクロノスの周りは時間が止まっているも同然だ。したがって、どれだけいようとも時間はあまり経過しないのだよ」
「そうなのですわね」
フェンリルの言葉に思わず興味を持ってしまうペシエラである。だが、フェンリルはそれをさっさと切り替えさせる。
「そんなことよりも、クロノスからこれを預かることができた。そなたならうまく扱うことができると思うから、ひとまず授けておこう」
「なんなのですの」
フェンリルが体毛の中から取り出した一冊の本。それをペシエラは受け取る。
タイトルも何も書かれていない本を見て、ペシエラは複雑そうな表情を浮かべている。
「何かしら、この本は」
「シアン・モスグリネの運命について書かれた本らしい。クロノスが言っていたのだから、その通りだろうな」
「……そんなものを見てもよろしいのかしら」
「構わん。クロノスがつけた条件は、『シアンとクロノアには見せるな』ということだけだったからな」
フェンリルが告げた条件を聞いて、ペシエラは納得した。
ソファーに腰を掛けると、早速中身を確認し始める。
「あまりショックを受けるではないぞ。今のシアンの運命がどのような状態にあるのか、そなたもよく知っているはずだらな」
「分かっていますわよ。わたくしだって、本来なら消えていた身。運命の捻じ曲げでしたら、何度も経験してきましたもの。シアンの運命だって、きっと捻じ曲げて差し上げますわ」
「そうか……」
フェンリルはそう言うと、部屋から出ていこうとする。
「もう戻られますの?」
フェンリルの動きに気が付いて、ペシエラは声をかける。
声をかけられて、フェンリルはぴたりと動きを止める。
「ああ、あまりベルのそばを離れたくないのでな。クロノスからその本をもらえただけで十分役目は果たしただろう。神獣は本来、この世界にあまり干渉しないものだからな」
そうとだけ言い残すと、フェンリルはペシエラの元から去っていった。
一人になったペシエラは、改めてフェンリルから預かった本にじっくり目を通していく。
そこに書かれていたのは、自分が経験したよりもかなり凄惨な運命だった。
(逆行前のロゼリアが体験したような最期がほとんどですわね。しかも、手を下す相手がたくさんいますわ。もちろん、わたくしも……)
本の前半部分は、逆行前の自分がロゼリアに仕掛けたような卑劣な罠からの斬首刑という酷いものばかりだった。
ただその手段ときたら、自分が王妃になってからというもの、ほとんど出番のなくなったギロチンである。
(こんな手段を取るところを見ますと、時渡りの秘法は相当腹に据えかねているということなのでしょうかね。ロゼリアにとってもトラウマとなる処刑方法を選ぶあたり……)
本を読み終わった結果、生存ルートもあるにはあるものの、かなり条件が厳しいことが分かった。
(現状では、宝珠によるダミーを作り出してもほぼ無駄。万一回避ができたとしても、シアンには重い後遺症が残るときましたか……)
ペシエラは額に腕を乗せて、もたれ掛かりながら天井を見ている。
(知ってしまった以上、わたくしにはどうにかする義務が発生してしまいましたわね。しかし、これをシアンとスミレに話すわけにはいかない。さて、どうしたものでしょうかね)
フェンリルから本を受け取ってしまったことを、ペシエラは今さらながらに後悔した。知らなければよかったと心底思ってしまった。
しばらく部屋の中で一人考え込んでしまう。
(シアンはわたくしとロゼリアの間にあったわだかまりを解消してくれた恩人。なんとしても救いませんとね。このままでは、私は後悔してもしきれなくなってしまいますわ)
ペシエラは急に立ち上がると、出かける旨を侍女に伝えると、すぐに瞬間移動魔法でどこかへと移動する。
この手の類となれば頼りになるのはもうあの人物しかいない。
「それで、ボクのところに来たってわけかい? まったく、君も急なことをするものだね」
そう、モスグリネ王国の商業組合の組合長ケットシーのところである。
ムー王国の研究の一環として生み出された人工の幻獣は、神獣や幻獣たちの制約に縛られることなく、実に自由に動き回っている。
そんなケットシーなので、ペシエラも愚痴を軽く叩ける相手というわけだ。
「仕方ありませんわよ。こんなものを見せられてしまっては、誰かに相談しないわけにはまいりませんからね」
「その相手がボクってわけかい? 冗談はきついというものだよ」
ペシエラの言い分に、ケットシーは困ったように笑っている。
「たまには人に迷惑をかけられる気持ちも理解しますことね」
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