708 / 731
新章 青色の智姫
第339話 反応が大げさだ
しおりを挟む
話を聞かれてしまったので、やむなくシアンはヒスイたちにムー王国でしていることを話すことにした。どうせ話さなくてもヒスイたちから質問は飛んでくるだろうし、なにより仲が悪くなることは避けたかった。
(下手にこじらせてしまえば、それこそ時渡りの秘法の思うつぼでしょうしね。ここはすっきりさせておくのがいいでしょう)
シアンは覚悟を決めていた。
すべてを打ち明けてもらえたヒスイは、想像もできない話に言葉を失っていた。
「それではシアン様、去年の末に倒れられたのって……」
「はい、おそらく時渡りの秘法に捕捉されたのでしょうね。確実に仕留めるという宣戦布告でしょう」
「お、恐ろしい話ですね……」
淡々と話すシアンに対して、ヒスイは恐怖に顔をこわばらせている。
「いくらスミレのやらかしとは言いましても、私だって簡単にやられるつもりはありませんよ。私はお母様のために、ここまで頑張ってきたのですから」
シアンは覚悟に決めた顔で、はっきりと言ってのけている。そのあまりにも堂々とした姿に、ヒスイの体の震えはぴたりと止まってしまう。
自分に襲い掛かる見えない敵に対して、ひるむことなく立ち向かう覚悟を決めているシアン。しかも、誰が敵になるかも分からないという状況の中でも、まったく希望を捨てていないのだ。
シアンのこの姿は、ヒスイを奮い立たせるには十分だった。
「……私も、私もお供させて頂きます。私はどのようなことがあってもシアン様を裏切りません。強大な魔力相手であろうと、魔法一門ネフライト侯爵家の一員として抗ってみせます」
ヒスイはドレス姿ながらも跪いてシアンの前に誓いを立てている。
「ええ、お気持ちは嬉しいですけれど、相手は目に見えない魔法です。決して無理をしすぎないようにして下さいね」
「いえ、魔法だからこそ、私は無理をしなければなりません。禁法だか知りませんが、魔法であることには変わりがないのですから」
あまり巻き込みたくないと思うシアンではあるが、一度固まったヒスイの覚悟はひっくり返ることはなかった。
その日からというもの、ムー王国の魔法研究所と魔道具研究所の中には、大人たちに混ざって研究を行うヒスイの姿があった。
夏休みの間限定ということを条件に、シアンも許可を出したのだ。
覚悟を決めたヒスイは、研究者たちと混ざってもまったく負けることはなかった。ネフライト家で鍛えてきた魔法理論でもって、立派に舌戦を繰り広げている。
夏休みの間中、シアンとヒスイは、魔法研究所と魔道具研究所の間を精力的にいったり来たりを繰り返していた。
そのある時、時渡りの秘法についての書物を読んでいた。
「シアン様、スミレさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうかしましたか、ヒスイ様」
急にヒスイに呼ばれたので、シアンたちはヒスイのところに駆けつける。
ヒスイはとあるページを開きながら、シアンたちにその個所を指で指し示している。
「ここはどういうことでしょうかね」
「どれどれ……?」
ヒスイが指し示す場所は、時渡りの秘法の効力について書かれていた場所だった。
「……これは、面白い記述ですね」
「私も知らない話ですよ。お父様ってば何も語りませんからね、基本的に」
シアンとスミレは思わず驚いた反応をしてしまう。
だが、それ以上に驚いていたのはヒスイだった。
「えっと、スミレさん、お父様っていうのは?」
時渡りの秘法については聞いていたものの、そういえばスミレの正体については話した覚えがないシアンである。
ちょうどいいからと、この際スミレの正体を明かすことにした。
「ヒスイ様、驚かずに聞いて下さいね」
「は、はい」
急に真剣な表情をするシアンに対して、ヒスイは思わず身を引き締めてしまう。どんな話が出てくるのか、身構えてしまったのだ。
「実は、私の侍女であるスミレなのですけれど……」
「はい……」
ごくりと息をのむ。
「実は、幻獣クロノアなのです。時の神獣クロノスの娘です」
「ふえっ?! えええええっ?!」
部屋の中にヒスイの叫び声がこだまする。
「改めまして、ヒスイ様。時の幻獣クロノアでございます。時渡りの秘法を発動させたシアン様の補佐として、シアン様の前世の時より仕えさせて頂いております」
驚いて大声を出したヒスイを目の前にしても、スミレは実に淡々としている。この冷静さこそが、幻獣の持ち味ともいえるのだ。
「こここ、これまでの数々のご無礼、どうかお許しください」
椅子に座っていたはずのヒスイは、地面に座り込んで土下座を始めていた。そこまで反応するのかと、思わず引いてしまうシアンである。
「お立ち下さい、ヒスイ様。今の私はシアン様の侍女であるスミレでございます。そこまで畏まられるほどの存在ではありませんよ」
スミレに言われてどうにか落ち着いたヒスイは、何事もなかったかのように椅子に座っていた。
「こ、これは失礼致しました」
気を取り直したヒスイは、改めて時渡りの秘法についての話題に戻ることにする。
はたして、ヒスイが見つけた記述とは一体何なのだろうか。
(下手にこじらせてしまえば、それこそ時渡りの秘法の思うつぼでしょうしね。ここはすっきりさせておくのがいいでしょう)
シアンは覚悟を決めていた。
すべてを打ち明けてもらえたヒスイは、想像もできない話に言葉を失っていた。
「それではシアン様、去年の末に倒れられたのって……」
「はい、おそらく時渡りの秘法に捕捉されたのでしょうね。確実に仕留めるという宣戦布告でしょう」
「お、恐ろしい話ですね……」
淡々と話すシアンに対して、ヒスイは恐怖に顔をこわばらせている。
「いくらスミレのやらかしとは言いましても、私だって簡単にやられるつもりはありませんよ。私はお母様のために、ここまで頑張ってきたのですから」
シアンは覚悟に決めた顔で、はっきりと言ってのけている。そのあまりにも堂々とした姿に、ヒスイの体の震えはぴたりと止まってしまう。
自分に襲い掛かる見えない敵に対して、ひるむことなく立ち向かう覚悟を決めているシアン。しかも、誰が敵になるかも分からないという状況の中でも、まったく希望を捨てていないのだ。
シアンのこの姿は、ヒスイを奮い立たせるには十分だった。
「……私も、私もお供させて頂きます。私はどのようなことがあってもシアン様を裏切りません。強大な魔力相手であろうと、魔法一門ネフライト侯爵家の一員として抗ってみせます」
ヒスイはドレス姿ながらも跪いてシアンの前に誓いを立てている。
「ええ、お気持ちは嬉しいですけれど、相手は目に見えない魔法です。決して無理をしすぎないようにして下さいね」
「いえ、魔法だからこそ、私は無理をしなければなりません。禁法だか知りませんが、魔法であることには変わりがないのですから」
あまり巻き込みたくないと思うシアンではあるが、一度固まったヒスイの覚悟はひっくり返ることはなかった。
その日からというもの、ムー王国の魔法研究所と魔道具研究所の中には、大人たちに混ざって研究を行うヒスイの姿があった。
夏休みの間限定ということを条件に、シアンも許可を出したのだ。
覚悟を決めたヒスイは、研究者たちと混ざってもまったく負けることはなかった。ネフライト家で鍛えてきた魔法理論でもって、立派に舌戦を繰り広げている。
夏休みの間中、シアンとヒスイは、魔法研究所と魔道具研究所の間を精力的にいったり来たりを繰り返していた。
そのある時、時渡りの秘法についての書物を読んでいた。
「シアン様、スミレさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうかしましたか、ヒスイ様」
急にヒスイに呼ばれたので、シアンたちはヒスイのところに駆けつける。
ヒスイはとあるページを開きながら、シアンたちにその個所を指で指し示している。
「ここはどういうことでしょうかね」
「どれどれ……?」
ヒスイが指し示す場所は、時渡りの秘法の効力について書かれていた場所だった。
「……これは、面白い記述ですね」
「私も知らない話ですよ。お父様ってば何も語りませんからね、基本的に」
シアンとスミレは思わず驚いた反応をしてしまう。
だが、それ以上に驚いていたのはヒスイだった。
「えっと、スミレさん、お父様っていうのは?」
時渡りの秘法については聞いていたものの、そういえばスミレの正体については話した覚えがないシアンである。
ちょうどいいからと、この際スミレの正体を明かすことにした。
「ヒスイ様、驚かずに聞いて下さいね」
「は、はい」
急に真剣な表情をするシアンに対して、ヒスイは思わず身を引き締めてしまう。どんな話が出てくるのか、身構えてしまったのだ。
「実は、私の侍女であるスミレなのですけれど……」
「はい……」
ごくりと息をのむ。
「実は、幻獣クロノアなのです。時の神獣クロノスの娘です」
「ふえっ?! えええええっ?!」
部屋の中にヒスイの叫び声がこだまする。
「改めまして、ヒスイ様。時の幻獣クロノアでございます。時渡りの秘法を発動させたシアン様の補佐として、シアン様の前世の時より仕えさせて頂いております」
驚いて大声を出したヒスイを目の前にしても、スミレは実に淡々としている。この冷静さこそが、幻獣の持ち味ともいえるのだ。
「こここ、これまでの数々のご無礼、どうかお許しください」
椅子に座っていたはずのヒスイは、地面に座り込んで土下座を始めていた。そこまで反応するのかと、思わず引いてしまうシアンである。
「お立ち下さい、ヒスイ様。今の私はシアン様の侍女であるスミレでございます。そこまで畏まられるほどの存在ではありませんよ」
スミレに言われてどうにか落ち着いたヒスイは、何事もなかったかのように椅子に座っていた。
「こ、これは失礼致しました」
気を取り直したヒスイは、改めて時渡りの秘法についての話題に戻ることにする。
はたして、ヒスイが見つけた記述とは一体何なのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる