逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第339話 反応が大げさだ

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 話を聞かれてしまったので、やむなくシアンはヒスイたちにムー王国でしていることを話すことにした。どうせ話さなくてもヒスイたちから質問は飛んでくるだろうし、なにより仲が悪くなることは避けたかった。
(下手にこじらせてしまえば、それこそ時渡りの秘法の思うつぼでしょうしね。ここはすっきりさせておくのがいいでしょう)
 シアンは覚悟を決めていた。
 すべてを打ち明けてもらえたヒスイは、想像もできない話に言葉を失っていた。
「それではシアン様、去年の末に倒れられたのって……」
「はい、おそらく時渡りの秘法に捕捉されたのでしょうね。確実に仕留めるという宣戦布告でしょう」
「お、恐ろしい話ですね……」
 淡々と話すシアンに対して、ヒスイは恐怖に顔をこわばらせている。
「いくらスミレのやらかしとは言いましても、私だって簡単にやられるつもりはありませんよ。私はお母様のために、ここまで頑張ってきたのですから」
 シアンは覚悟に決めた顔で、はっきりと言ってのけている。そのあまりにも堂々とした姿に、ヒスイの体の震えはぴたりと止まってしまう。
 自分に襲い掛かる見えない敵に対して、ひるむことなく立ち向かう覚悟を決めているシアン。しかも、誰が敵になるかも分からないという状況の中でも、まったく希望を捨てていないのだ。
 シアンのこの姿は、ヒスイを奮い立たせるには十分だった。
「……私も、私もお供させて頂きます。私はどのようなことがあってもシアン様を裏切りません。強大な魔力相手であろうと、魔法一門ネフライト侯爵家の一員として抗ってみせます」
 ヒスイはドレス姿ながらも跪いてシアンの前に誓いを立てている。
「ええ、お気持ちは嬉しいですけれど、相手は目に見えない魔法です。決して無理をしすぎないようにして下さいね」
「いえ、魔法だからこそ、私は無理をしなければなりません。禁法だか知りませんが、魔法であることには変わりがないのですから」
 あまり巻き込みたくないと思うシアンではあるが、一度固まったヒスイの覚悟はひっくり返ることはなかった。
 その日からというもの、ムー王国の魔法研究所と魔道具研究所の中には、大人たちに混ざって研究を行うヒスイの姿があった。
 夏休みの間限定ということを条件に、シアンも許可を出したのだ。
 覚悟を決めたヒスイは、研究者たちと混ざってもまったく負けることはなかった。ネフライト家で鍛えてきた魔法理論でもって、立派に舌戦を繰り広げている。
 夏休みの間中、シアンとヒスイは、魔法研究所と魔道具研究所の間を精力的にいったり来たりを繰り返していた。

 そのある時、時渡りの秘法についての書物を読んでいた。
「シアン様、スミレさん、ちょっとよろしいでしょうか」
「どうかしましたか、ヒスイ様」
 急にヒスイに呼ばれたので、シアンたちはヒスイのところに駆けつける。
 ヒスイはとあるページを開きながら、シアンたちにその個所を指で指し示している。
「ここはどういうことでしょうかね」
「どれどれ……?」
 ヒスイが指し示す場所は、時渡りの秘法の効力について書かれていた場所だった。
「……これは、面白い記述ですね」
「私も知らない話ですよ。お父様ってば何も語りませんからね、基本的に」
 シアンとスミレは思わず驚いた反応をしてしまう。
 だが、それ以上に驚いていたのはヒスイだった。
「えっと、スミレさん、お父様っていうのは?」
 時渡りの秘法については聞いていたものの、そういえばスミレの正体については話した覚えがないシアンである。
 ちょうどいいからと、この際スミレの正体を明かすことにした。
「ヒスイ様、驚かずに聞いて下さいね」
「は、はい」
 急に真剣な表情をするシアンに対して、ヒスイは思わず身を引き締めてしまう。どんな話が出てくるのか、身構えてしまったのだ。
「実は、私の侍女であるスミレなのですけれど……」
「はい……」
 ごくりと息をのむ。
「実は、幻獣クロノアなのです。時の神獣クロノスの娘です」
「ふえっ?! えええええっ?!」
 部屋の中にヒスイの叫び声がこだまする。
「改めまして、ヒスイ様。時の幻獣クロノアでございます。時渡りの秘法を発動させたシアン様の補佐として、シアン様の前世の時より仕えさせて頂いております」
 驚いて大声を出したヒスイを目の前にしても、スミレは実に淡々としている。この冷静さこそが、幻獣の持ち味ともいえるのだ。
「こここ、これまでの数々のご無礼、どうかお許しください」
 椅子に座っていたはずのヒスイは、地面に座り込んで土下座を始めていた。そこまで反応するのかと、思わず引いてしまうシアンである。
「お立ち下さい、ヒスイ様。今の私はシアン様の侍女であるスミレでございます。そこまで畏まられるほどの存在ではありませんよ」
 スミレに言われてどうにか落ち着いたヒスイは、何事もなかったかのように椅子に座っていた。
「こ、これは失礼致しました」
 気を取り直したヒスイは、改めて時渡りの秘法についての話題に戻ることにする。
 はたして、ヒスイが見つけた記述とは一体何なのだろうか。
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