逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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新章 青色の智姫

第347話 忙しい中の呼び出し

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 シアンたちがアイヴォリー王国に到着する。
 今はちょうど年末祭のための準備で忙しい時期だ。そのため、そこへやって来たシアンはのんびりとした様子で過ごしている。なにぶんお祭りに関して関われることがないからだ。
 それに、関係各所が忙しいために、城の中を歩き回ることもままならない。部屋の中でおとなしく過ごすしかなかった。

「相変わらず、このお祭りの時期となると忙しいですね」
「そうですね。サンフレア学園に通っている間にも経験しましたからね。シアン・アクアマリンだった頃に比べれば、明らかに規模の違う賑わいですからね」
「それだけ、チェリシア様の影響が大きいのでしょうね。なんでしたっけ、クリスマスっていうものでしたっけ」
 そう、アイヴォリー王国の年末祭が今のような規模になったのは、チェリシアのせいだった。
 転生前の世界で経験していたクリスマスとお正月の文化をちょっとずつ放り込んだ結果、年末七日間という大規模なお祭りへと発展したのである。
 その初日にはケーキや鶏肉の丸焼きが振る舞われたり、プレゼントを贈り合ったりする。それはもう本当にただのクリスマスと化していた。
「プレゼントですか……」
 クリスマスという単語を聞いて、ふぅっとため息をつくシアンである。
 ちょうどそこへ、扉を叩く音が響いてくる。
「シアン様、ヒスイです。お話をよろしいでしょうか」
「どうぞ、開いていますよ」
 特にやることもないシアンは、ヒスイを部屋に招き入れた。
 どうやらヒスイは城の中の忙しさに驚いて避難しに来たようなのだ。書庫くらいなら見に行けるかと思ったらしいが、使用人も兵士もバタバタと走り回っていて、とても書庫に行けるような状態ではなかった。
 そこで、自分と隣同士になったシアンの部屋にやって来たというわけらしい。
「まったく、城のどこもかしこも忙しく動いていて、とても落ち着けそうにありません。結局部屋にいるのが一番みたいですね」
 不満そうに愚痴をこぼしている。
「仕方ありませんよ。今はちょうど年末祭の準備中ですからね」
「ああ、なんだかそのようなことを言っていましたね。なんなんですか、年末祭というのは」
 詳しい内容を教えてもらえなかったらしく、ヒスイはやむなくシアンに教えてもらおうとしているようだった。状況的に仕方ないということで、シアンはヒスイと侍女であるコハクに年末祭について教えることにした。

 シアンから説明を聞いたヒスイは、さっきまでの不機嫌そうな表情がすっかり消え去っていた。むしろ興味津々といったところである。
「アイヴォリー王国って、そんなに長い期間のお祭りを行うのですね。へえ、それは楽しそうですね」
「ええ、だから、今はそのための準備のためで忙しいのですよ。だから、誰もヒスイ様の相手をなさらなかったのです。しなかったというよりはできなかったという方がいい状態ですもの」
「話しすら聞いてくれませんでしたね、確かに」
 シアンの話す内容を聞いて、ヒスイは先程までの兵士や使用人たちの反応を思い出していた。
「まったく、シアン王女殿下の付き人だと知ったら処罰されますでしょうに……」
「仕方ありませんよ。ヒスイ様の顔をご存じな方はほとんどいらっしゃいませんもの。そんな対応になってしまうのも無理はありません」
「……覚えて頂けるように頑張ります」
 さすがに悔しかったのか、ヒスイは力強く誓っていた。
「とは言いましても、当面は厳しいでしょう。こちらに来てから、なかなかタイミングが合わずに食事が別になっていましたから、今日から一緒に食べるようにしましょう。そうすれば、きっと覚えて頂けます」
「はい、承知致しました」
 ヒスイは深く頭を下げて、シアンの食事に同席することを約束したのだった。

 ヒスイと少し話をしていたところに、また誰かが扉を叩く音がする。
「シアン王女殿下、王妃様がお呼びでございます」
「分かりました。すぐに伺います」
 シアンは返事をすると同時に立ち上がっていた。
「それではヒスイ様、ご一緒に参りましょうか」
「はい、シアン様」
 シアンはすぐに扉から出ていき、ペシエラの待つ部屋へと移動する。もちろん、侍女のスミレ、付き人のヒスイとその侍女コハクも一緒だ。
 王妃の部屋に到着すると、扉がゆっくりと開く。なんとも久しぶりなペシエラの私室だった。初めて王妃の私室に入室することになるヒスイとコハクが、ガッチガチに緊張で固まっている。
「あら、ヒスイもいらしていたのですね。これはかえって好都合ですわね」
「お招きいただき、ありがとう存じます。シアン・モスグリネ、ペシエラ王妃陛下にご挨拶を申し上げます」
「堅苦しい挨拶は抜きですわよ、シアン」
「はい、ペシエラ様」
 実に形式ばった挨拶を咎められて、シアンはあっさりと緩い感じで名前を呼んでいる。
「ペシエラ様、お久しぶりです。シアン様の付き人でありますヒスイ・ネフライトでございます」
「ええ、久しぶりですわね。さあ、今日はちょっとゆっくり話をさせて頂きたく思いますわ」
 話があると告げたペシエラがにこりと微笑む。表情は笑顔だというのに、声のトーンですべては台無しだった。
 急にペシエラに呼ばれたシアンたち。一体どんな話をするというのか、つい身構えてしまうのだった
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