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新章 青色の智姫
最終話 長き旅路の果てに
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白い雪が集まったかと思うと、そこから現れたのはなんと時の幻獣クロノアだった。
「クロノア……、来られたのですか」
「お久しぶりです、シアン王女殿下」
バルコニーの手すりの上に立ち、ちょこんと挨拶をするクロノアである。
「おっと、ここでは失礼でしたね。下に降ります」
ぴょんとバルコニーの床に飛び降りると、シアンの前に跪いている。
「……クロノア?」
「シアン様、スミレとお呼び下さい」
シアンが戸惑っていると、クロノアは顔を上げて真面目な表情でシアンを見つめている。シアンの後ろにいるヒスイとコハクも突然のことに動揺している。
「ようやくお父様の説教が終わりまして解放されたのです。そこで、私にどうしたいのか問われました。その結果、私はシアン様のところに戻ることにしたのです」
クロノアはそう言い切ると、にこりと微笑んだ。
普段からほとんど無表情だっただけに、この時の笑顔に思わずどきりとしてしまうシアンである。
「私は、シアン様が生きていらっしゃる限り、シアン様にお仕えすると決めたのです」
「クロノア……いえ、スミレ。……お帰りなさい」
「はい。ただいまでございます、シアン様」
シアンが手を差し出すと、クロノアはそっと手を添える。
雪が降り積もる中、二人はしばらくそのまま見つめ合っていた。
こうして、シアンのもとに専属侍女であるスミレが戻ってきた。
なにぶん、時渡りの秘法とのいざこざが終わったあとからずっと行方不明だっただけに、ペシエラからお説教を食らうし、チェリシアからは泣いて抱きつかれていた。
それでも、ようやく戻ってこれたというだけあって、そのすべてがクロノアにとっては懐かしかった。
翌日には城にやって来たケットシーにもあれこれ言われる始末である。
だが、クロノアはそのすべてを甘んじて受け入れていた。今この場所こそが、自分のいるべき場所なのだと確信しているのだから。
―――
それから、五年の月日が流れた。
シアンも二十五歳となった春のこと、いよいよ、シルヴァノとペシエラから、王位を引き継ぐこととなった。
この時、シアンが選択したのは、先々代と同じ二王制だった。つまり、二人が国王と女王として国を治めるというものだった。
戴冠式を翌日に控えた日のこと、シアンは自室でなぜか思い悩んでいた。
「シアン様、いい加減に覚悟を決められてはいかがですか?」
翌日の準備をしながら、スミレがシアンにお小言を言っている。ずっと唸っているので気になって仕方がないのである。
「いえ、いざ戴冠の日を迎えるとなりますと、なんかこう、緊張が襲ってきましてね……」
難しい顔をして思い悩むシアンである。
だが、今さらなんだというのだろうか。今まで散々いろんな困難を乗り越えてきたというのに、戴冠式程度で悩むとはらしくないと、スミレはシアンを叱っている。
スミレにお説教をされると、シアンはようやく笑顔をこぼしていた。
「ふふっ、やっぱりスミレとはこういう関係がいいですね」
「まったく、シアン様ときたら……」
おかしそうに笑うシアンに、スミレはただ呆れるだけだった。
「この私、時の幻獣がついているのです。何を恐れるというのですか。こういう時こそ、どんと大きく堂々と構えていて下さい」
「そうですね。ありがとう、スミレ」
シアンはこれまでで一番の笑顔を見せていた。
翌日、いよいよ戴冠式を迎える。
きっちりとした正装に身を包んだライトとシアンが、現在の国王であるシルヴァノと王妃であるペシエラの前に姿を見せる。
二人が歩む赤絨毯の両側には、多くの貴族が新たな国王と女王の誕生をその目に焼き付けようと参列している。
その中にはフューシャやプルネ、ブランチェスカたちの姿もあった。もちろん、カーマイルとチェリシアだっている。
来賓席には、モスグリネの現国王夫妻であるペイルとロゼリア、次期国王夫妻であるモーフとダイアの姿もある。
全員が勢ぞろいという中で、思わずシアンは緊張をしてしまっているようだった。
「大丈夫だよ、シアン。私がついている。さあ、落ち着いて歩き出そうか」
「……はい、ライト様」
夫であるライトの声で落ち着きを取り戻したのか、シアンの顔から笑みがこぼれていた。
厳かな表情となった二人は、シルヴァノとペシエラの前へと進んでいく。
二人は跪くと、宣誓を行う。マント、王冠を装着し、最後に王笏を受け取ると立ち上がって貴族たちへと振り返る。
「ここに、新たな国王と女王の誕生を宣言いたします」
この言葉とともに、会場からは割れんばかりの拍手が起きる。
無事に戴冠式が終わると、その夜はハウライト中がお祭り騒ぎとなった。
きっかけは、仕えていた主の処刑だった。
主を救うために必死に探し出した禁断の魔法を発動させて、本当にここまで長かった。
その時の主は、今は自分の母親として、とても幸せそうに暮らしている。
消えるはずだった自分自身も、数々の奇跡を経て、祖国の女王となった。
「……あの時の私の判断は、間違っていませんでしたね」
苦労の果てに行きついた幸せを、今はただ、しっかりとかみしめているのだった。
ー 逆行令嬢と転生ヒロイン~青色の智姫・完 ー
―――
番外編が少し続きます。
もうしばらくお付き合い下さいませ。
「クロノア……、来られたのですか」
「お久しぶりです、シアン王女殿下」
バルコニーの手すりの上に立ち、ちょこんと挨拶をするクロノアである。
「おっと、ここでは失礼でしたね。下に降ります」
ぴょんとバルコニーの床に飛び降りると、シアンの前に跪いている。
「……クロノア?」
「シアン様、スミレとお呼び下さい」
シアンが戸惑っていると、クロノアは顔を上げて真面目な表情でシアンを見つめている。シアンの後ろにいるヒスイとコハクも突然のことに動揺している。
「ようやくお父様の説教が終わりまして解放されたのです。そこで、私にどうしたいのか問われました。その結果、私はシアン様のところに戻ることにしたのです」
クロノアはそう言い切ると、にこりと微笑んだ。
普段からほとんど無表情だっただけに、この時の笑顔に思わずどきりとしてしまうシアンである。
「私は、シアン様が生きていらっしゃる限り、シアン様にお仕えすると決めたのです」
「クロノア……いえ、スミレ。……お帰りなさい」
「はい。ただいまでございます、シアン様」
シアンが手を差し出すと、クロノアはそっと手を添える。
雪が降り積もる中、二人はしばらくそのまま見つめ合っていた。
こうして、シアンのもとに専属侍女であるスミレが戻ってきた。
なにぶん、時渡りの秘法とのいざこざが終わったあとからずっと行方不明だっただけに、ペシエラからお説教を食らうし、チェリシアからは泣いて抱きつかれていた。
それでも、ようやく戻ってこれたというだけあって、そのすべてがクロノアにとっては懐かしかった。
翌日には城にやって来たケットシーにもあれこれ言われる始末である。
だが、クロノアはそのすべてを甘んじて受け入れていた。今この場所こそが、自分のいるべき場所なのだと確信しているのだから。
―――
それから、五年の月日が流れた。
シアンも二十五歳となった春のこと、いよいよ、シルヴァノとペシエラから、王位を引き継ぐこととなった。
この時、シアンが選択したのは、先々代と同じ二王制だった。つまり、二人が国王と女王として国を治めるというものだった。
戴冠式を翌日に控えた日のこと、シアンは自室でなぜか思い悩んでいた。
「シアン様、いい加減に覚悟を決められてはいかがですか?」
翌日の準備をしながら、スミレがシアンにお小言を言っている。ずっと唸っているので気になって仕方がないのである。
「いえ、いざ戴冠の日を迎えるとなりますと、なんかこう、緊張が襲ってきましてね……」
難しい顔をして思い悩むシアンである。
だが、今さらなんだというのだろうか。今まで散々いろんな困難を乗り越えてきたというのに、戴冠式程度で悩むとはらしくないと、スミレはシアンを叱っている。
スミレにお説教をされると、シアンはようやく笑顔をこぼしていた。
「ふふっ、やっぱりスミレとはこういう関係がいいですね」
「まったく、シアン様ときたら……」
おかしそうに笑うシアンに、スミレはただ呆れるだけだった。
「この私、時の幻獣がついているのです。何を恐れるというのですか。こういう時こそ、どんと大きく堂々と構えていて下さい」
「そうですね。ありがとう、スミレ」
シアンはこれまでで一番の笑顔を見せていた。
翌日、いよいよ戴冠式を迎える。
きっちりとした正装に身を包んだライトとシアンが、現在の国王であるシルヴァノと王妃であるペシエラの前に姿を見せる。
二人が歩む赤絨毯の両側には、多くの貴族が新たな国王と女王の誕生をその目に焼き付けようと参列している。
その中にはフューシャやプルネ、ブランチェスカたちの姿もあった。もちろん、カーマイルとチェリシアだっている。
来賓席には、モスグリネの現国王夫妻であるペイルとロゼリア、次期国王夫妻であるモーフとダイアの姿もある。
全員が勢ぞろいという中で、思わずシアンは緊張をしてしまっているようだった。
「大丈夫だよ、シアン。私がついている。さあ、落ち着いて歩き出そうか」
「……はい、ライト様」
夫であるライトの声で落ち着きを取り戻したのか、シアンの顔から笑みがこぼれていた。
厳かな表情となった二人は、シルヴァノとペシエラの前へと進んでいく。
二人は跪くと、宣誓を行う。マント、王冠を装着し、最後に王笏を受け取ると立ち上がって貴族たちへと振り返る。
「ここに、新たな国王と女王の誕生を宣言いたします」
この言葉とともに、会場からは割れんばかりの拍手が起きる。
無事に戴冠式が終わると、その夜はハウライト中がお祭り騒ぎとなった。
きっかけは、仕えていた主の処刑だった。
主を救うために必死に探し出した禁断の魔法を発動させて、本当にここまで長かった。
その時の主は、今は自分の母親として、とても幸せそうに暮らしている。
消えるはずだった自分自身も、数々の奇跡を経て、祖国の女王となった。
「……あの時の私の判断は、間違っていませんでしたね」
苦労の果てに行きついた幸せを、今はただ、しっかりとかみしめているのだった。
ー 逆行令嬢と転生ヒロイン~青色の智姫・完 ー
―――
番外編が少し続きます。
もうしばらくお付き合い下さいませ。
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