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第二章 ロゼリアとチェリシア
第6話 マゼンダ侯爵
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ロゼリアとチェリシアが茶会を楽しんでいる頃、ロゼリアの父、ヴァミリオ・マゼンダは執務室で書類と戦っていた。領地からの陳情書が後を絶たないのだ。
侯爵領は王都からほど近い場所にあり、その上交通の要所でここから各地へと街道が分岐している。そのために、住民からの要望や相談は多く、その結果、時々山積みの書類となってしまうのだった。
「まったく、どうしてこうも陳情として送ってくるのか。私が出る幕もないものまであるではないか」
半ば悩み相談な陳情まであって、マゼンダ侯爵はため息をつく。
そこに、扉を叩く音が響く。
「シアンか、入れ」
「失礼致します」
扉を開けて入ってきたのは、ロゼリア付きの侍女のシアンだった。
「扉を叩く音だけでお分かりになるとは、さすが旦那様ですね」
「世辞はいい。この時間に私のところに来るとは、何があった?」
無表情でお互いに言葉を放つ。ヴァミリオの質問に、シアンは答える。
「はい、お嬢様の事でございます」
ヴァミリオの眉がピクリと動く。
「娘がどうかしたのか?」
「……最近、以前とはすっかりお変わりになって、勉学にまじめに取り組んでおられます。それと、どことなく年相応に見えない態度を取る事が増えたと思います」
「勉学に打ち込む事は良い事だ。それと、年相応に見えないとはどういう事だ?」
シアンの言い分に、ヴァミリオは顔をしかめて問いただす。
「はい、まずわがままの質が変わったように思います。以前は自分本位のわがままでしたが、最近の分は意図が分かりかねます」
小さい頃からロゼリアを見てきたシアンが分からないと言う。それがどれだけ不可解な事か、ヴァミリオにはすぐ分かった。
「それから、やけにチェリシア様、コーラル子爵令嬢と親しくされています。本日も訪問されてまして、一緒に家庭教師の指導を受けておられました」
続けての報告に、ヴァミリオは耳と眉がピクリと動く。
「コーラル子爵家か。なるほど、ロゼリアは面白いところに目をつけたものだな」
「と、申されますと?」
ヴァミリオが顎に手を当てて考え込むような仕草を見せると、シアンがすかさず尋ねた。
「コーラル子爵領は、周りを海と山に囲まれた未開の地だ。王都への街道こそ平坦な場所を通ってはいるが、なかなか険しい場所でな。そのせいもあって、交通は不便だが、いろいろ未知な部分が多い」
どうやら、ヴァミリオ自身も、コーラル子爵領の眠れる資源に目をつけているようだ。
「私もいずれは手を出す予定だった場所だ。となれば、娘同士が仲が良いのは好都合」
「……お嬢様を利用なさると?」
ヴァミリオの言葉に、シアンの顔が少し歪む。ヴァミリオを構わず言葉を続ける。
「形式的にはな。今度、娘が向こうに出向く日を利用して、私もコーラル子爵と面会しようと思う。ロゼリアにも伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
シアンは頭を下げて、ヴァミリオの私室から出ていった。
しばらくして、今度は執事長のリモスがやって来た。
「お呼びでございましょうか、旦那様」
実に美しい直立から繰り出されるお辞儀は、さすが執事長と言わんばかりに完璧なものだった。どうやら彼は、シアンから言伝されて部屋に来たようだ。
「リモス、コーラル子爵に手紙を出してくれないか」
「コーラル子爵に、でございますか?」
辺鄙な場所の領主への手紙と聞いて、リモスは首を傾げた。これに対して、ヴァミリオを理由を説明する。
「娘同士が仲が良いと聞いてな、これは好機だと考えたのだ。すぐに筆を執る」
「なるほど、かしこまりました。すぐに手配致します」
リモスは一礼すると、すぐに部屋を出ていき、配達の人足を手配した。待つ間にヴァミリオは、コーラル子爵に出す手紙を認める。再びリモスがやって来た時には、既に封までし終えていた。
「では、旦那様。確かにお預かりしました」
リモスは手紙を預かり、再び部屋を出ていった。
「これはなかなか忙しくなりそうだな」
そう呟くヴァミリオだったが、顔はどことなく笑っているのだった。
侯爵領は王都からほど近い場所にあり、その上交通の要所でここから各地へと街道が分岐している。そのために、住民からの要望や相談は多く、その結果、時々山積みの書類となってしまうのだった。
「まったく、どうしてこうも陳情として送ってくるのか。私が出る幕もないものまであるではないか」
半ば悩み相談な陳情まであって、マゼンダ侯爵はため息をつく。
そこに、扉を叩く音が響く。
「シアンか、入れ」
「失礼致します」
扉を開けて入ってきたのは、ロゼリア付きの侍女のシアンだった。
「扉を叩く音だけでお分かりになるとは、さすが旦那様ですね」
「世辞はいい。この時間に私のところに来るとは、何があった?」
無表情でお互いに言葉を放つ。ヴァミリオの質問に、シアンは答える。
「はい、お嬢様の事でございます」
ヴァミリオの眉がピクリと動く。
「娘がどうかしたのか?」
「……最近、以前とはすっかりお変わりになって、勉学にまじめに取り組んでおられます。それと、どことなく年相応に見えない態度を取る事が増えたと思います」
「勉学に打ち込む事は良い事だ。それと、年相応に見えないとはどういう事だ?」
シアンの言い分に、ヴァミリオは顔をしかめて問いただす。
「はい、まずわがままの質が変わったように思います。以前は自分本位のわがままでしたが、最近の分は意図が分かりかねます」
小さい頃からロゼリアを見てきたシアンが分からないと言う。それがどれだけ不可解な事か、ヴァミリオにはすぐ分かった。
「それから、やけにチェリシア様、コーラル子爵令嬢と親しくされています。本日も訪問されてまして、一緒に家庭教師の指導を受けておられました」
続けての報告に、ヴァミリオは耳と眉がピクリと動く。
「コーラル子爵家か。なるほど、ロゼリアは面白いところに目をつけたものだな」
「と、申されますと?」
ヴァミリオが顎に手を当てて考え込むような仕草を見せると、シアンがすかさず尋ねた。
「コーラル子爵領は、周りを海と山に囲まれた未開の地だ。王都への街道こそ平坦な場所を通ってはいるが、なかなか険しい場所でな。そのせいもあって、交通は不便だが、いろいろ未知な部分が多い」
どうやら、ヴァミリオ自身も、コーラル子爵領の眠れる資源に目をつけているようだ。
「私もいずれは手を出す予定だった場所だ。となれば、娘同士が仲が良いのは好都合」
「……お嬢様を利用なさると?」
ヴァミリオの言葉に、シアンの顔が少し歪む。ヴァミリオを構わず言葉を続ける。
「形式的にはな。今度、娘が向こうに出向く日を利用して、私もコーラル子爵と面会しようと思う。ロゼリアにも伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
シアンは頭を下げて、ヴァミリオの私室から出ていった。
しばらくして、今度は執事長のリモスがやって来た。
「お呼びでございましょうか、旦那様」
実に美しい直立から繰り出されるお辞儀は、さすが執事長と言わんばかりに完璧なものだった。どうやら彼は、シアンから言伝されて部屋に来たようだ。
「リモス、コーラル子爵に手紙を出してくれないか」
「コーラル子爵に、でございますか?」
辺鄙な場所の領主への手紙と聞いて、リモスは首を傾げた。これに対して、ヴァミリオを理由を説明する。
「娘同士が仲が良いと聞いてな、これは好機だと考えたのだ。すぐに筆を執る」
「なるほど、かしこまりました。すぐに手配致します」
リモスは一礼すると、すぐに部屋を出ていき、配達の人足を手配した。待つ間にヴァミリオは、コーラル子爵に出す手紙を認める。再びリモスがやって来た時には、既に封までし終えていた。
「では、旦那様。確かにお預かりしました」
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「これはなかなか忙しくなりそうだな」
そう呟くヴァミリオだったが、顔はどことなく笑っているのだった。
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