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第二章 ロゼリアとチェリシア
第8話 相談
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「お邪魔致します、ロゼリア様」
玄関で淑女挨拶をするチェリシア。家庭教師による教育の成果が出ているようで、その所作は整っていた。
「連絡が来てからほんの数十分。お早いですわね、チェリシア嬢」
ロゼリアは、格下相手の態度で応対する。二人きりの時は対等の対応をするが、ここはマゼンダ侯爵邸の玄関先。なので、相応の対応で出迎えたわけである。
すぐさまロゼリアの部屋に移動する。
中に入れば、お互い椅子に座って力を抜く。
「チェリシア、どうしたの。まだ交流の日ではないわよ」
「ごめんなさい。ただ、領地の事を考えると、すぐに行動した方がいいと思って……。先触れは出しましたよ?」
チェリシアは謝罪しながら、上目遣いでロゼリアを見る。あまりの健気さに、未来で自分を計略に嵌めた人物と同一人物とは到底思えない可愛さを爆発させていた。
「と、とりあえず分かったわ。で、要件をまず聞きましょう」
ロゼリアは落ち着いて、両腕を組んでチェリシアを見る。チェリシアもまた、とても落ち着いてロゼリアを見ている。そして、一回息を飲むと、要件を話し始めた。
「……海水から塩を作る、ね。それは、どうやって作るのかしら」
ロゼリアは意地悪く尋ねる。でも、チェリシアは引かない。
「海水から砂などの不純物を濾して、水分を蒸発させるんです。そうすると、海水に溶け込んでいた成分が、結晶となって現れるのです」
「蒸発ってどうさせるの?」
「鍋でお湯を沸かすのと同じ方法です。もしくは、天日に晒して自然蒸発させる方法ですね」
チェリシアの説明した方法に、ロゼリアは感心する。そして、
「それは、あなたの前世の知識かしら」
そう尋ねる。すると、チェリシアは黙って頷いた。
「なるほど。しかし、それには多くの時間と労力を伴いそうね」
「はい。ですので、せっかく魔法もあるので、海水から塩の成分だけを魔法で取り出せないかと考えているのです」
チェリシアの発想に、ロゼリアは目を丸くした。
確かにこの世界には魔法がある。しかし、その多くは日常生活とはかけ離れた使い方しかない。その理由は、魔物が存在するからだ。一般的な動物とはかけ離れた体躯と能力を持ち、一個体だけでも大きな被害をもたらす存在、それが魔物である。それゆえに、魔法は魔物対策の中心として発展してきたのだった。
その魔法を、対魔物以外の場で活用する。これは死に戻り前のロゼリアも思いつかなかった使用方法だった。
「なるほど。しかし、使えたとしても海に使えるわけではないのよ。どれだけ大きいと思っているの」
ロゼリアの反応は織り込み済みだった。チェリシアはすぐに方法を説明する。
「桶に汲み取って、一杯ずつ施すのです。すると、塩を取り除いた水はただの水となって、生活用水などに活用できるわけです」
チェリシアの説明に、ロゼリアは感心した。
「それ以外にもあります。コーラル領では、海からの風にも多くの塩分を含みます。その風からも塩を除く事ができれば、領地の塩害も減らせるはずなんです」
チェリシアの顔は真剣だった。その上、まだ話は終わらない。
「問題なのは、コーラル領には魔法使いがまったく居ない事です。いずれ私が覚醒する事が分かっているとは言っても、コーラル領の惨状はとても猶予があるとは言えません」
チェリシアは胸の前で手を強く握る。
「そこで、ロゼリアの方から魔法使いを融通させてもらえませんか? もちろん、そのための費用は払います。塩が売れれば、塩害が解消されれば……。元々コーラル領の土壌は肥沃ですから、作物が育てられるようになるはずなんです」
チェリシアは必死だった。その様子は、ロゼリアにも十分伝わっている。だが、ロゼリアの顔は悩ましげだった。
「チェリシアの言いたい事は分かりました。ですが、こればかりは私の一存では決められません。お互いのお父様を交えて話をしませんと」
ロゼリアが渋ったのはそういう事だ。さすがに領地の問題ともなれば、統治者である領主の判断を仰がねばならない。
「まずは私のお父様とお話ししましょう。それからコーラル子爵に話を致しましょう。それでよろしいですね?」
ロゼリアが持ちかける。チェリシアはすぐに納得して頷く。
「ですが、あなたからも父親であるコーラル子爵に話をしておいて下さい。その方があなたからの話をどう捉えたとしても、その後の話を通しやすくなります」
「分かりました。頼る事になって申し訳ありません」
チェリシアはまごまごとしていたが、ロゼリアは笑ってみせた。
「……前回も早めに交流していれば、あそこまで恨まれずに済んだかも知れないわね」
ロゼリアは、チェリシアに聞こえないくらいの声で、ボソリと呟いたのだった。
玄関で淑女挨拶をするチェリシア。家庭教師による教育の成果が出ているようで、その所作は整っていた。
「連絡が来てからほんの数十分。お早いですわね、チェリシア嬢」
ロゼリアは、格下相手の態度で応対する。二人きりの時は対等の対応をするが、ここはマゼンダ侯爵邸の玄関先。なので、相応の対応で出迎えたわけである。
すぐさまロゼリアの部屋に移動する。
中に入れば、お互い椅子に座って力を抜く。
「チェリシア、どうしたの。まだ交流の日ではないわよ」
「ごめんなさい。ただ、領地の事を考えると、すぐに行動した方がいいと思って……。先触れは出しましたよ?」
チェリシアは謝罪しながら、上目遣いでロゼリアを見る。あまりの健気さに、未来で自分を計略に嵌めた人物と同一人物とは到底思えない可愛さを爆発させていた。
「と、とりあえず分かったわ。で、要件をまず聞きましょう」
ロゼリアは落ち着いて、両腕を組んでチェリシアを見る。チェリシアもまた、とても落ち着いてロゼリアを見ている。そして、一回息を飲むと、要件を話し始めた。
「……海水から塩を作る、ね。それは、どうやって作るのかしら」
ロゼリアは意地悪く尋ねる。でも、チェリシアは引かない。
「海水から砂などの不純物を濾して、水分を蒸発させるんです。そうすると、海水に溶け込んでいた成分が、結晶となって現れるのです」
「蒸発ってどうさせるの?」
「鍋でお湯を沸かすのと同じ方法です。もしくは、天日に晒して自然蒸発させる方法ですね」
チェリシアの説明した方法に、ロゼリアは感心する。そして、
「それは、あなたの前世の知識かしら」
そう尋ねる。すると、チェリシアは黙って頷いた。
「なるほど。しかし、それには多くの時間と労力を伴いそうね」
「はい。ですので、せっかく魔法もあるので、海水から塩の成分だけを魔法で取り出せないかと考えているのです」
チェリシアの発想に、ロゼリアは目を丸くした。
確かにこの世界には魔法がある。しかし、その多くは日常生活とはかけ離れた使い方しかない。その理由は、魔物が存在するからだ。一般的な動物とはかけ離れた体躯と能力を持ち、一個体だけでも大きな被害をもたらす存在、それが魔物である。それゆえに、魔法は魔物対策の中心として発展してきたのだった。
その魔法を、対魔物以外の場で活用する。これは死に戻り前のロゼリアも思いつかなかった使用方法だった。
「なるほど。しかし、使えたとしても海に使えるわけではないのよ。どれだけ大きいと思っているの」
ロゼリアの反応は織り込み済みだった。チェリシアはすぐに方法を説明する。
「桶に汲み取って、一杯ずつ施すのです。すると、塩を取り除いた水はただの水となって、生活用水などに活用できるわけです」
チェリシアの説明に、ロゼリアは感心した。
「それ以外にもあります。コーラル領では、海からの風にも多くの塩分を含みます。その風からも塩を除く事ができれば、領地の塩害も減らせるはずなんです」
チェリシアの顔は真剣だった。その上、まだ話は終わらない。
「問題なのは、コーラル領には魔法使いがまったく居ない事です。いずれ私が覚醒する事が分かっているとは言っても、コーラル領の惨状はとても猶予があるとは言えません」
チェリシアは胸の前で手を強く握る。
「そこで、ロゼリアの方から魔法使いを融通させてもらえませんか? もちろん、そのための費用は払います。塩が売れれば、塩害が解消されれば……。元々コーラル領の土壌は肥沃ですから、作物が育てられるようになるはずなんです」
チェリシアは必死だった。その様子は、ロゼリアにも十分伝わっている。だが、ロゼリアの顔は悩ましげだった。
「チェリシアの言いたい事は分かりました。ですが、こればかりは私の一存では決められません。お互いのお父様を交えて話をしませんと」
ロゼリアが渋ったのはそういう事だ。さすがに領地の問題ともなれば、統治者である領主の判断を仰がねばならない。
「まずは私のお父様とお話ししましょう。それからコーラル子爵に話を致しましょう。それでよろしいですね?」
ロゼリアが持ちかける。チェリシアはすぐに納得して頷く。
「ですが、あなたからも父親であるコーラル子爵に話をしておいて下さい。その方があなたからの話をどう捉えたとしても、その後の話を通しやすくなります」
「分かりました。頼る事になって申し訳ありません」
チェリシアはまごまごとしていたが、ロゼリアは笑ってみせた。
「……前回も早めに交流していれば、あそこまで恨まれずに済んだかも知れないわね」
ロゼリアは、チェリシアに聞こえないくらいの声で、ボソリと呟いたのだった。
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