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第三章 ロゼリア9歳
第28話 商会の立ち上げは順調
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数日後……。
「いや、本当に実行されるとは思ってなかったわ」
「私も」
「私もよ」
王都の貴族街にほど近い場所に、新しい建物の建設が始まっていた。
マゼンダ侯爵とコーラル子爵の共同出資で作られる商会の本部である。
「娘が考案したんだ。立派な建物を建てようじゃないか」
ヴァミリオは、そう言って号令を掛けたらしい。ロゼリアが、「いや、お父様ってこんなに親バカでしたっけ?」と呟いたのは内緒だ。
王家との交渉はほぼヴァミリオが行った。コーラル子爵では発言が弱いからだ。扱う商品も、コーラル子爵領の分は塩と魚の干物だけだし、弱くなってしまうのも仕方がない。
しかし、商品アイディア自体はコーラル子爵の長女チェリシアの発案だ。ヴァミリオは、その発案自体は価値があると評価している。実際に、そのアイディアで領地の産物を有効活用できているのだ。
建設中の商会の前に、ヴァミリオたちマゼンダ侯爵家の人間とプラウスたちコーラル子爵家の人間が一堂に会している。
「いやはや、建て始めたばかりだというのに、これからが楽しみですな、ヴァミリオ様」
「うむ、チェリシア嬢のアイディアはとても面白い。いい娘を持ちましたな、プラウス殿」
「はははっ、娘を褒められたからといっても譲歩は致しませんぞ。爵位差はあるとはいえど、商売には関係ありませんからな」
父親同士が楽しそうに会話をしている。
「時に、商会の名前はいかが致しますかな?」
「プラウス殿には悪いが、うちの方の名前を前面に出したものにしようと考えている。ただ、商会の紋は、両家をイメージしたものにするつもりだ」
「なるほど。確かに我が領地はそれほど良いイメージは無い。こればかりは仕方ないですな」
「もちろん、これだけのアイディアを提供してもらっているのだ。それ相応の見返りは用意する」
表情は和やかなのだが、会話の内容は交渉めいている。気を抜けばいいように持っていかれそうだ。
「それはそうとプラウス殿。領地の改革はいかがですかな?」
ヴァミリオが不意に問い掛ける。
「相変わらず酷いもので、塩害と熱波ばかりはどうにもなっておりませぬ。塩作りを始めたシェリアの辺りは、どうにか農地として使える程度ですな」
「そうか」
プラウスの返答に、ヴァミリオは黙り込んだ。
そう、相変わらず、コーラル子爵領は塩害と熱波に悩まされていた。チェリシアが防風林を提案したのだが、木が育つのは時間がかかる事と、土地の塩分が濃くて植物が育たないというコンボで、うまくいっていないのだ。土壌や上空を抜ける風から魔法で塩を抜くという考えもあるが、この世界の人間ではイメージがしにくい。唯一想像できるだろうチェリシアは、まだ魔法に目覚める前。現状は塩を精製した後の水を撒いて、気休め程度の土壌改善を図るしかなかった。
「やはり、慢性的な潮風で、土壌が侵されてしまっているのが問題か……。塩が抜けた後でも、風が熱を持ったままの状態で内陸まで届く。難しい土地だな……」
ヴァミリオは、頭を抱える。
「よくプラウス殿は耐えてこれたな。なかなかできる事ではないぞ」
「生まれ故郷ですからね。捨てるという考えができないのでございます」
忍耐強いというのか愛着が強いというのか、コーラル子爵もとんでもない人物である。
金銭面の話が終わったヴァミリオたちは、商会で働く人員の選定に入り始める。大事なお金や商品を扱う人員なので、それはとても慎重にならざるを得ない。話し合いが夕方までかかった結果、自分たちの使用人から数人ずつを出し、残りを募集するという事で落ち着いたのだった。
父親たちの話し合いの結果は、ロゼリアたちも伝えられた。これを聞いたロゼリアたちは、ひとまず安心したようだ。
「私たちの懸念はとりあえず回避されそうね」
「お父様たちがケンカしなくてよかったです」
「いや、すごい駆け引きしてたわよ。譲らないところは譲らない感じが滲み出てたわ」
ホッとしているロゼリアとチェリシアを尻目に、ペシエラだけが違う感想を漏らした。逆行前の経験からなのだろう。
「お互いの家の利益もあるから、そういう駆け引きもあるのでしょうね。細かい経営に関してはお父様たちに任せて、私たちは次の手を打ちましょう」
「そうね。私も領地の為に、早く魔法を使えるようにならないと」
ロゼリアが紅茶を飲みながら提案すれば、ペシエラも強く決意する。
未来の自分たちの運命を切り開くべく、三人は改めて話し合いを始めるのだった。
「いや、本当に実行されるとは思ってなかったわ」
「私も」
「私もよ」
王都の貴族街にほど近い場所に、新しい建物の建設が始まっていた。
マゼンダ侯爵とコーラル子爵の共同出資で作られる商会の本部である。
「娘が考案したんだ。立派な建物を建てようじゃないか」
ヴァミリオは、そう言って号令を掛けたらしい。ロゼリアが、「いや、お父様ってこんなに親バカでしたっけ?」と呟いたのは内緒だ。
王家との交渉はほぼヴァミリオが行った。コーラル子爵では発言が弱いからだ。扱う商品も、コーラル子爵領の分は塩と魚の干物だけだし、弱くなってしまうのも仕方がない。
しかし、商品アイディア自体はコーラル子爵の長女チェリシアの発案だ。ヴァミリオは、その発案自体は価値があると評価している。実際に、そのアイディアで領地の産物を有効活用できているのだ。
建設中の商会の前に、ヴァミリオたちマゼンダ侯爵家の人間とプラウスたちコーラル子爵家の人間が一堂に会している。
「いやはや、建て始めたばかりだというのに、これからが楽しみですな、ヴァミリオ様」
「うむ、チェリシア嬢のアイディアはとても面白い。いい娘を持ちましたな、プラウス殿」
「はははっ、娘を褒められたからといっても譲歩は致しませんぞ。爵位差はあるとはいえど、商売には関係ありませんからな」
父親同士が楽しそうに会話をしている。
「時に、商会の名前はいかが致しますかな?」
「プラウス殿には悪いが、うちの方の名前を前面に出したものにしようと考えている。ただ、商会の紋は、両家をイメージしたものにするつもりだ」
「なるほど。確かに我が領地はそれほど良いイメージは無い。こればかりは仕方ないですな」
「もちろん、これだけのアイディアを提供してもらっているのだ。それ相応の見返りは用意する」
表情は和やかなのだが、会話の内容は交渉めいている。気を抜けばいいように持っていかれそうだ。
「それはそうとプラウス殿。領地の改革はいかがですかな?」
ヴァミリオが不意に問い掛ける。
「相変わらず酷いもので、塩害と熱波ばかりはどうにもなっておりませぬ。塩作りを始めたシェリアの辺りは、どうにか農地として使える程度ですな」
「そうか」
プラウスの返答に、ヴァミリオは黙り込んだ。
そう、相変わらず、コーラル子爵領は塩害と熱波に悩まされていた。チェリシアが防風林を提案したのだが、木が育つのは時間がかかる事と、土地の塩分が濃くて植物が育たないというコンボで、うまくいっていないのだ。土壌や上空を抜ける風から魔法で塩を抜くという考えもあるが、この世界の人間ではイメージがしにくい。唯一想像できるだろうチェリシアは、まだ魔法に目覚める前。現状は塩を精製した後の水を撒いて、気休め程度の土壌改善を図るしかなかった。
「やはり、慢性的な潮風で、土壌が侵されてしまっているのが問題か……。塩が抜けた後でも、風が熱を持ったままの状態で内陸まで届く。難しい土地だな……」
ヴァミリオは、頭を抱える。
「よくプラウス殿は耐えてこれたな。なかなかできる事ではないぞ」
「生まれ故郷ですからね。捨てるという考えができないのでございます」
忍耐強いというのか愛着が強いというのか、コーラル子爵もとんでもない人物である。
金銭面の話が終わったヴァミリオたちは、商会で働く人員の選定に入り始める。大事なお金や商品を扱う人員なので、それはとても慎重にならざるを得ない。話し合いが夕方までかかった結果、自分たちの使用人から数人ずつを出し、残りを募集するという事で落ち着いたのだった。
父親たちの話し合いの結果は、ロゼリアたちも伝えられた。これを聞いたロゼリアたちは、ひとまず安心したようだ。
「私たちの懸念はとりあえず回避されそうね」
「お父様たちがケンカしなくてよかったです」
「いや、すごい駆け引きしてたわよ。譲らないところは譲らない感じが滲み出てたわ」
ホッとしているロゼリアとチェリシアを尻目に、ペシエラだけが違う感想を漏らした。逆行前の経験からなのだろう。
「お互いの家の利益もあるから、そういう駆け引きもあるのでしょうね。細かい経営に関してはお父様たちに任せて、私たちは次の手を打ちましょう」
「そうね。私も領地の為に、早く魔法を使えるようにならないと」
ロゼリアが紅茶を飲みながら提案すれば、ペシエラも強く決意する。
未来の自分たちの運命を切り開くべく、三人は改めて話し合いを始めるのだった。
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