逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第三章 ロゼリア9歳

第41話 次なる一手

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 翌日、注文が入った数は三十本だった。しかし、献上する日の時点で、既に王宮向けは五十本ほど作られており、納期の前日に注文された三十本は無事納入された。
 しかし、王宮が抱える文官の人数を考えると、いささか少ない気がした。とりあえずは、文官の担当部署に置いて、みんなで使い回すという事なのだろう。
 ちなみに、万年筆に使用した魔石に含まれる魔力量は、一日フルに使ったとしても一年は使い通せるほど含まれているらしい。
 そして、王宮へ納入が終わった翌日から、マゼンダ商会での取扱が始まった。ここで売られる万年筆は雇い入れた細工師が装飾の加工を行なっている。
 また、同時に魔石の引取も始めた。万年筆を作るのには魔石が必要となるからだ。魔物のランクと大きさで、取引価格が変化する。こうなると、商会に冒険者が殺到するのは予想できる。
 ロゼリアとチェリシアの二人は、それを最初から予測しており、商会の土地の横に引取用の建物を、新たに建てるように父親たちに進言していた。これは、万年筆を作り始めた時からで、大層驚かれたらしい。
 万年筆の事だけでも、魔石のポテンシャルの高さは目を見張るものがあった。こうなれば、学園に入る兄にもう一つくらい魔石を使った道具を持たせたいところだ。そうロゼリアは考えた。
「ロゼリアがそう言うだろうと思って、実は万年筆と同時に作っていた物があるのよ」
 相談を持ち掛けられたチェリシアは、明るい表情で話す。
「それって何なの?」
「これ、『修正筆しゅうせいふで』っていうのよ」
 差し出されたのは、万年筆と似ていたが、色は極めて白に近い色のペンだった。
「これは、万年筆で書いた文字を消せる物なの。書き損じなど消して、書き直す事ができるのよ。紙だってもったいないからね。万年筆のお披露目と同時にできなかったのは残念だけど」
 チェリシアは明るい顔で話してくる。しかし、ロゼリアには懸念が過ぎる。
「それって、不正し放題なのでは?」
 これにはペシエラが答えてきた。
「ロゼリアはそう言うだろうとって事で、お姉様と相談して、書いた本人の微量な魔力に反応して文字を消せるようにしたわ。つまり、書いた本人にしか、文字は消せないの」
「それは凄いわね」
 大した機能だ。ところが、これには疑問が浮かぶ。魔石に魔法を作用させなければ、魔石に特殊な機能は持たせられないのだ。となると、ロゼリアにはとある結論が浮かぶ。
「……ちょっと待って? となると、あなたたち、魔法が使えるようになったのね」
 ロゼリアが睨めば、二人揃って体を震わせた。その反応を見て、ロゼリアは察した。
じゃなくて、なのね。まったく、いつの間に使えるようになったのかしら」
「ほ、ほんのちょっと前です。ねっ、ペシエラ」
「そ、そうですわ。ここ一ヶ月くらいの事ですわ」
 ロゼリアの問い詰めに、チェリシアもペシエラも明らかに動揺している。しかし、ロゼリアは無理に聞き出すのはやめる。
「チェリシアは私と同い年なのでいいですが、問題はペシエラです。まだ六歳なので、魔法が使える事が知れ渡ったら大騒ぎです」
「うっ……」
 ロゼリアはそう言って、ペシエラに顔を近づける。すると、ペシエラは身を引いて縮こまる。
「それに、小さい頃から魔法を使っていると、将来どういう影響が出るか分かりません。使うにしても、私たちだけの時にして下さる?」
「わ、分かったわよ」
 ロゼリアが言い聞かせれば、ペシエラはおとなしくそれに従った。前回の時間軸の事を思えば、大した進歩である。
「はぁ。チェリシアは乙女ゲーの主人公ですし、ペシエラも私と同じ時戻り体験者ですものね。私が魔法を使えるように、二人も使えても不思議はないわよね」
 ロゼリアはペシエラの態度に感心しつつも、頭を抱えた。
「……とりあえず、次の一手を考えましょう。商会の事業の方は、相談されたら知恵を貸すくらいにして、次の課題は交友関係ってところかしら」
 すぐに気持ちを切り替えるロゼリア。
「それなら、王族とは確実に繋がっておきたいわね。これは前回でも言える事でしょ?」
 ペシエラがすぐさま反応する。
「そうね。あの時は私は王族とは希薄だったから、騙されたシルヴァノ殿下にあっさり断罪されたのよね。やはり、有力どころとの縁は持っておくべきだわ」
 ペシエラの言葉にぶつぶつとロゼリアが考え込む。
 その時だった。
 三人の居る商会の一室の扉が、不意にコツコツと音を立てた。
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