逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
47 / 731
第四章 ロゼリア10歳

第45話 照明実験

しおりを挟む
 魔石にインクの魔法を施し終わったロゼリアは、チェリシアとペシエラ姉妹と合流するために装飾工房へと移動していた。万年筆の加工も行っているので、どのみち向かう予定ではあった。
 ところが、装飾工房に着いたロゼリアは、予想もしていなかった光景を目の当たりにする。
「ほほう、こいつは凄い。これだけ離れても明かりを点けられるぞ」
 職人ゴルドがやたらとはしゃいでいた。その横ではチェリシアが一緒になって喜んでいるではないか。
「……チェリシア? ゴルドさん? 何をしているのかしら」
 声ならぬ声で、ロゼリアが問い掛ける。
「ああ、ロゼリア……様。ゴルドさんと魔石の新しい可能性について話をしていたの」
「魔石の可能性?」
 チェリシアの言い分に、ロゼリアが思いっきり首を傾げた。
「はい。魔力を込めて複数の魔石の間に魔力道……、魔力の繋がりを持たせるんです。そうする事で、離れた位置にある魔石に魔力を伝えられるのです。見ていて下さい」
 そう言って、チェリシアは並んだテーブルの最も離れた位置に魔石を置いた。そして、それぞれに同じ魔法を掛ける。
「今掛けたのは、片方に魔力を通す事でもう一方に光を灯す魔法です。……いきますよ」
 ごくりと息を飲む。
 片方の魔石にチェリシアが魔力を通す。すると、少し時間差があったが、隣のテーブルの一番遠い位置にある魔石が淡く光り始めた。明るさは不十分ではあるが、離れた位置の魔石に魔力が届いたのである。
「なんとか成功しましたね。ロゼリア様も試されますか?」
 灯した時と同じ要領で魔石の明かりを消したチェリシアは、ロゼリアへと話を振る。照明設備としてはある程度の距離を伝播させられる事はもちろん、誰が使っても大丈夫という条件が求められた。それゆえの、ロゼリアへの指名である。
「ええ、こっちの魔石に魔力を流せばいいのね」
「はい。あちらの魔石が光るように思い浮かべながらお願いします」
 チェリシアに促されて、一つ向こうのテーブルの対角に置かれた魔石が光るように思いながら、ロゼリアは手前のテーブルの魔石に魔力を流す。すると、対角に置かれた魔石が光り出した。
「おお……っ!」
「さすがロゼリア様」
 チェリシアの時と比べて、魔力を流してからのタイムラグは短く、光る明るさも桁違いに明るかった。
 次の瞬間、ロゼリアは同様に消えるように思いながら魔力を流し、魔石の光を消した。
「素晴らしい。さすがロゼリア様だ」
 ゴルドも満足げだった。そして、
「どれ、ワシもひとつ……」
 魔石に光を灯そうと魔石に手を置いた。
 チェリシア、ロゼリアの時と同様に、ゴルドがやっても対角の魔石は光を放った。
「いやはや、素晴らしいですぞ。これがあれば曇りや夜のような暗い時でも、晴れ並みの明るさを確保できますぞ」
 魔石が光っぱなしだったので、試しにチェリシアが消えるように思いながら魔力を流す。すると、魔石の光が消えた。他にも光らせていた方の魔石から逆の事をしたり、手を置いた魔石を光らせたり、いろいろ試してみた。
 結果はすべて成功。誰が点けても消しても、どちらを点けても消しても、ちゃんと動作していた。
「いや、これは驚きましたな。万年筆のインクもそうでしたが、明かりとして使うにもこのような事ができるとは。職人として努力と発想が足りなかったと、痛恨の極みでございますぞ」
 ゴルドがとても悔しがっていた。
「いえいえ。ゴルドさんが入れ物を作って下さらなかったら、この発想には至らなかったと思います。お手柄です」
 チェリシアが慌ててフォローを入れる。
「私が万年筆の魔石に魔法込めてる間に、こんな事になってるなんてね。でも、これはこれでなかなか面白いわね」
 見た目十歳のロゼリアは、遠隔操作の照明に興味津々だった。
「でも、私とチェリシア以外の人に、この魔法が使えるかどうかが問題ね。万年筆の方もまだ代わりにできる人が見つからないから、量産体制にはできていないし、この件は試験的に商会ここで使ってみるくらいかしら」
 ロゼリアは照明用魔石を入れた容器をまじまじと見ている。
「ペシエラが万年筆に施した装飾、この照明の容器にも使えるんじゃないかしら。チェリシア、ペシエラはどこに居るのかしら」
「多分、あっちの装飾工さんたちの所じゃないかと。さっき連れて行かれるのを見ましたので」
 ロゼリアの質問に、チェリシアは答える。
「ありがとう。ちょっと相談に行ってくるわ」
「はい」
「その照明の件は、また後でじっくり詰めましょう」
「はい、ゴルドさんとしばらく相談しています」
 チェリシアは言葉を交わしたロゼリアは、チェリシアの居る装飾工たちの所へと足早に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

処理中です...