逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第五章 学園編

第83話 試験 その5

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 モスグリネ王国のペイル王子とコーラル伯爵家第二女ペシエラの対決は、黒山の人集りとなった。
 一応、武術試験をひと通り終わらせた後でという条件で二人にはひとまず引いてもらい、先に武術試験を済ませた。
 ちなみにロゼリアは、グレイアと剣術同士の対決をして、グレイアに惜敗した。チェリシアは前世で少しだけ嗜んだ体術を使用。相手は少年だったが、見事に一本背負いが決まり、勝利を収めた。他にはオフライトとシルヴァノ王子も居たが、こちらも順当に勝利していた。
 さて、ペシエラとペイル王子の対決に話は戻る。二人とも使うのは剣だ。ただ、種類が違う。ペシエラが使うのは逆行前で使い慣れたサーベルなのに対し、ペイル王子はブロードソードだ。長さの差はないが、ブロードソードの方が当たり判定が少し広い。
 構えにも差がある。ペシエラは体躯と年齢の関係で、サーベルを両手持ちしているのに対し、ペイル王子はもちろん片手持ちだ。
 会場が息を飲んで見守る中、教官の号令がかかる。
「始めっ!」
 ところが、両者はまったく動かない。お互いに出方を見ているようだ。
 しばらくの沈黙があったが、不意にその空気は破られる。
 ペシエラが動いた。素早く飛び込み、横薙ぎの一撃を放つ。
 ガキィィィィンッ!!
 金属音が響き渡る。
 ペイル王子が、ペシエラの一撃を受け止めたのだ。誰の目にも捉えられなかった動きを、ペイル王子はしっかりと捉えたのだ。
「真っ直ぐ突っ込んでくるとは、よほど自信があったのだな」
「これを止めるなんて、やっぱり一筋縄じゃいかないですわね」
 ペイル王子が、攻撃を弾いてカウンターを入れる。しかし、ペシエラはそれを後方退避で躱す。アレンジ制服のひらひらした服装に、かかとの高いブーツでこの動きをするペシエラに対して、会場からどよめきが上がる。
 しかも、普通の少女の腕力なら、剣がぶつかった衝撃で腕が痺れそうなものである。それなのに、ペシエラの剣を持つ手に痺れた様子は無かった。
 さて、後方退避からすぐさまステップを入れるペシエラ。踏み込んで左側から攻撃を入れようとする。ペイル王子は迎撃体勢に入る。
 ところが、ペシエラがフェイントを入れた。すぐさま反対側にステップを入れ、右側に着地してから低い体勢で剣を振り上げる。
 さすがにペイル王子も、この攻撃には反応が遅れる。そして、ペシエラは剣を持つペイル王子の右手に当たる前に、剣を寸止めしてみせた。
「勝負あり、ですかしら?」
「ああ、そうだな。俺の負けだ」
 ペイル王子が負けを認めた。
 衝撃的な展開に、会場はしばらく静まり返る。
 ペシエラとペイル王子が立ち上がって握手をすると、会場は一気に歓声と驚嘆の声に包まれた。
 学園に特別入学してきた十歳の少女が、隣国の王子に勝ってしまったのだ。
 普通なら国際問題にもなりそうなものだが、仕掛けてきたのはペイル王子の方だ。しかも証人もたくさん居る。
 チェリシアは気が気でない様子だったが、ペシエラが勝ってホッとしたようだった。そして、忘れないうちに、二人が握手している光景を写真魔法に収めた。どこまでも姉馬鹿である。
「十歳という若さであの身のこなし、ぜひとも私の伴侶にしたいものだな」
 王族であるので、シルヴァノ王子はオフライトと共に少し離れた場所から観戦されていた。
「なんでも、魔法の才も素晴らしいようです。妹のシェイディアが目撃しておりますので、間違いないでしょう」
「そうかい? 今日の事は父上、母上に報告しておくとしよう。在学中、いやなるべく早いうちに婚約者を決めておかねばならないからね」
 シルヴァノ王子はその場を去ろうとする。しかし、
「殿下。一応二人にお声を掛けて差し上げた方がよろしいかと」
 オフライトが進言する。
「ん? ああそうだね。そうするとしよう」
 シルヴァノ王子は、進言に従ってペシエラとペイル王子のところへと歩み寄る。
「二人とも、実に素晴らしい試合だった。私も負けていられないね」
「シルヴァノ殿下。ぜひとも今度手合わせを願いたい」
「そうだね。でも、私も鍛えないと負けてしまいそうだ」
 ペイル王子の脳筋な発言に、シルヴァノ王子は苦笑いで応じる。
「さて、ペシエラ嬢」
 ペイル王子との会話を終わらせたシルヴァノ王子が、ペシエラに視線を移す。
「どこでどう鍛えたのか知らないが、実に素晴らしい動きだった。まさかペイル王子を負かしてしまうとはね」
「……ありがたきお言葉でございますわ」
 どう反応を示そうか迷ったペシエラだったが、武術試験の最中なので、手を握って胸の前に合わせる騎士の挨拶で反応する。
「しかも君はまだ十歳だ。これからが楽しみだね」
 シルヴァノ王子が笑顔を見せた。
 このシルヴァノ王子の笑顔を見たチェリシアが呟く。
「あっこれ、シルヴァノ王子のスチルイベントだわ」
 どうやら、ゲームのイベントを形は違えど完了できたようだった。
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