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第六章 一年次・夏
第98話 サファイア湖に到着
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予想外の魔物の襲撃の後は、特に何も起こる事なくサファイア湖のほとりにたどり着いた。襲撃者はペシエラの規格外の魔法に恐れをなして、慎重になったのだろう。
この日から一週間、サファイア湖の周りで合宿本体が行われる。宿泊に使う屋敷はアクアマリン子爵が使う別荘を借りている。そのため、高額な装飾品などは一応避難させてある。なんでも、貸し出すようになった最初の頃に、よく壊されたかららしい。
「それではお嬢様、私は実家におりますので、ご研鑽を」
「ええ、シアンこそ家族水入らずでね」
別荘に着いたところで、ロゼリアはシアンと別れる。なにせマゼンダ侯爵家に侍女として出向いてから、二十年近くは帰っていないのだ。家族に会うくらい、許さなくてどうするというのだ。
ロゼリアはシアンを見送ったところで、宿となる別荘に荷物を運び込んだ。
合宿本体の内容は、座学と体力作りである。魔法使い志望だろうと体力は必要だ。
早朝には別荘と湖の間のランニングが毎日行われる。このスケジュールを聞いて、一部の生徒が崩れ落ちた。よっぽど運動嫌いなのだろう。
魔物の襲撃のせいで到着が遅れたものの、日暮れまでは時間があるようだ。夕食の調理を担当する者以外は自由時間。そんなわけで、ロゼリアはエアリアルボードを展開して、湖の様子を見に行く事にした。
サファイア湖は名前の通り、とても青い水を湛える湖だ。だが、その一方で透明度もあり、青い割にかなりの水深まで中を見る事ができる。それでも底が見えないくらいには深い。
ロゼリアは地水風の三属性が扱えるので、その三属性で感知魔法を展開する。チェリシアやペシエラほどの魔力量はないので、感知できる範囲は狭いものの、特に魔物が潜んでいるような感じはなかった。
ひとまず安心したロゼリアは、ふと周りの景色を眺める。夕暮れ時の綺麗な空が広がり、湖には夕陽が反射して、湖面がキラキラと輝いている。とても神秘的な景色で、ロゼリアは思わず息を飲んだ。
「綺麗な景色……。逆行前には見る事のできなかった風景ね」
感想を漏らすロゼリア。
それもそうだろう。逆行前には飛行魔法なんてものは存在しなかったし、考えつきもしなかったのだから。転生者であるチェリシアに出会って覚えたこの魔法は、文字通り見た事のない世界を見せてくれている。
と、いつまでも感傷に浸ってもいられない。そろそろ夕食の時間である。エアリアルボードを操作して、別荘に戻ろうとした時だった。
ーーぞわっ……。
悍ましい気配を感じて後ろを振り返るロゼリア。しかし、そこには何も居ない。
気にはなるものの、これ以上遅くなるわけにもいかず、ロゼリアは別荘へと戻っていった。
別荘に戻ったロゼリアを出迎えたのは、厨房で料理に勤しむチェリシアとペシエラの姿だった。使用人たちが止めるのも聞かず、二人で六十人分の料理を作ってしまったらしい。
コーラル領で貧しい生活をしてきた二人にとって、節約料理はなんのその。使える食材の量を聞いて、自分たちの持ってきた調味料と合わせて、あっという間に拵えてしまったらしい。これでは使用人たちの立場がないものである。
とはいえ、二人が作り出した節約料理に、使用人や護衛たちはとても驚いていた。調味料も本当に気持ち程度しか使っていないし、メインの食材もそんなに量は多くない。それなのに、試食で食べたその料理は、普段の食事並みに美味しかったのである。
チェリシア曰く、「素材の持ち味を引き出しただけ」との事。
それにしても、二人の規格外は止まる所を知らない。チェリシアは武術が苦手ではあるけれど、それ以外は魔法の技術も手先の器用さも頭の良さも平均を遥かに凌ぐ。ペシエラは三つも年下なのに、チェリシアとレベルが変わらない上に武術も得意である。
逆行前のペシエラも大概だったが、今回はそれが二人に増えた。ロゼリアも地味に頭が痛かった。
少し先行きに不安を覚えながら、夏の合宿の本体が始まったのであった。
この日から一週間、サファイア湖の周りで合宿本体が行われる。宿泊に使う屋敷はアクアマリン子爵が使う別荘を借りている。そのため、高額な装飾品などは一応避難させてある。なんでも、貸し出すようになった最初の頃に、よく壊されたかららしい。
「それではお嬢様、私は実家におりますので、ご研鑽を」
「ええ、シアンこそ家族水入らずでね」
別荘に着いたところで、ロゼリアはシアンと別れる。なにせマゼンダ侯爵家に侍女として出向いてから、二十年近くは帰っていないのだ。家族に会うくらい、許さなくてどうするというのだ。
ロゼリアはシアンを見送ったところで、宿となる別荘に荷物を運び込んだ。
合宿本体の内容は、座学と体力作りである。魔法使い志望だろうと体力は必要だ。
早朝には別荘と湖の間のランニングが毎日行われる。このスケジュールを聞いて、一部の生徒が崩れ落ちた。よっぽど運動嫌いなのだろう。
魔物の襲撃のせいで到着が遅れたものの、日暮れまでは時間があるようだ。夕食の調理を担当する者以外は自由時間。そんなわけで、ロゼリアはエアリアルボードを展開して、湖の様子を見に行く事にした。
サファイア湖は名前の通り、とても青い水を湛える湖だ。だが、その一方で透明度もあり、青い割にかなりの水深まで中を見る事ができる。それでも底が見えないくらいには深い。
ロゼリアは地水風の三属性が扱えるので、その三属性で感知魔法を展開する。チェリシアやペシエラほどの魔力量はないので、感知できる範囲は狭いものの、特に魔物が潜んでいるような感じはなかった。
ひとまず安心したロゼリアは、ふと周りの景色を眺める。夕暮れ時の綺麗な空が広がり、湖には夕陽が反射して、湖面がキラキラと輝いている。とても神秘的な景色で、ロゼリアは思わず息を飲んだ。
「綺麗な景色……。逆行前には見る事のできなかった風景ね」
感想を漏らすロゼリア。
それもそうだろう。逆行前には飛行魔法なんてものは存在しなかったし、考えつきもしなかったのだから。転生者であるチェリシアに出会って覚えたこの魔法は、文字通り見た事のない世界を見せてくれている。
と、いつまでも感傷に浸ってもいられない。そろそろ夕食の時間である。エアリアルボードを操作して、別荘に戻ろうとした時だった。
ーーぞわっ……。
悍ましい気配を感じて後ろを振り返るロゼリア。しかし、そこには何も居ない。
気にはなるものの、これ以上遅くなるわけにもいかず、ロゼリアは別荘へと戻っていった。
別荘に戻ったロゼリアを出迎えたのは、厨房で料理に勤しむチェリシアとペシエラの姿だった。使用人たちが止めるのも聞かず、二人で六十人分の料理を作ってしまったらしい。
コーラル領で貧しい生活をしてきた二人にとって、節約料理はなんのその。使える食材の量を聞いて、自分たちの持ってきた調味料と合わせて、あっという間に拵えてしまったらしい。これでは使用人たちの立場がないものである。
とはいえ、二人が作り出した節約料理に、使用人や護衛たちはとても驚いていた。調味料も本当に気持ち程度しか使っていないし、メインの食材もそんなに量は多くない。それなのに、試食で食べたその料理は、普段の食事並みに美味しかったのである。
チェリシア曰く、「素材の持ち味を引き出しただけ」との事。
それにしても、二人の規格外は止まる所を知らない。チェリシアは武術が苦手ではあるけれど、それ以外は魔法の技術も手先の器用さも頭の良さも平均を遥かに凌ぐ。ペシエラは三つも年下なのに、チェリシアとレベルが変わらない上に武術も得意である。
逆行前のペシエラも大概だったが、今回はそれが二人に増えた。ロゼリアも地味に頭が痛かった。
少し先行きに不安を覚えながら、夏の合宿の本体が始まったのであった。
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