逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

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第六章 一年次・夏

第108話 男性陣の会話

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 帰路最初の野営。
 アイリスはペシエラを伴って、シルヴァノとペイルの元を訪れた。そこでは、今回の二回の魔物の襲撃のうち、サファイア湖での一件について、父親から言われた事をすべて告白した。
 しかし、往路の襲撃についてはまったく関与していなかったようで、こちらについての情報はまったく得られなかった。
 ペシエラが感じた不穏な魔力は、ガレンに制圧された二人の教官とも異なっており、往路の襲撃はサファイア湖の一件の三人とは別の実行犯だったと考えられる。
「それにしても、ペシエラ嬢は懐が広い方のようですね」
 攻略対象五人は、野営でもしっかり固まっている。
「あぁ、殿下たちを狙った三人に対して極刑を求めないどころか、自分の側に引き込もうとしているらしい。普通は考えられん話だな」
 チークウッドとオフライトは、ペシエラの考え方を理解しきれないまでも、評価はしているようである。
「パープリア男爵は食えない方だと、父から伺っております。三人ともうまく丸め込まれたのではないのかという事ですよね?」
「ペシエラ嬢の考えでは、そういう事なのでしょうね」
 ロイエールの見解に、シルヴァノはそう相槌を入れる。
「だが、自国の王子のみならぬ、隣国の俺まで巻き込んだんだ。そのパープリアとかいう男爵をどうにかできぬのなら、最悪戦争という選択肢になるぞ?」
「それはそうですね。ペイル王子、誠に申し訳ありませんでした」
 ペイルに対して、シルヴァノが謝罪する。自国の者が他国の王族を害しようとしたのだ。謝罪は当然であろう。
「まぁ、俺もそこまで心は狭くない。一応今回の事は親父に報告させてもらうが、という事にはしておく」
 ペイルはそう言って、大きくため息をついた。
「しかし、ペシエラとは何者なのだろうな。十歳という魔法の使える最低年齢で大規模魔法は使うし、剣術の腕前も相当なものだ。俺もかなり努力をしたが、あの程度は本当に説明がつかん」
 自分より若くて、自分の努力の更に上を行くペシエラの存在は、羨ましくて憎たらしくて、そして眩しかった。それは、他の面々も同じだった。
「そのペシエラ様とその姉チェリシア様、友人ロゼリア様は仲が良いですし、マゼンダ商会の要はあの三人だと、父をはじめとしてドール商会は認識しております」
「ああ、ロゼリア嬢は侯爵家の娘とあって交友関係が広いし、自身も努力家だ。チェリシア嬢は体力こそ無いが、発想自体は柔軟だし奇抜でもある。しかし、やはり頭一つ以上飛び抜けているな、ペシエラ嬢は」
 オフライトも、三人の事をよく見ている。
「しかし、婚約者が居る身として、他の令嬢にうつつを抜かすのはどうかと思いますよ、オフライト」
「誰が浮気なんぞするものか。ただ、あの三人は誰もが注目する存在だ。シルヴァノ、誰を選ぶんだ?」
「わ、私ですか?!」
 オフライトが話を振れば、シルヴァノは慌てたように反応する。
 だが、オフライトの言い分は分からなくもない。
 シルヴァノは現状国王夫妻の唯一の子である。そして、先ほど挙げた三人を婚約者候補としており、この中から誰を伴侶として選ぶのかが、貴族たちの間では賭けにまで発展している状態なのである。
「隣国の婚約者の話には深入りしないが、それよりもそのパープリアとかいう男爵の方をどうにかした方がいい。ペシエラに近付いたアイリスとかいう娘も、直前まで殺意を悟らせなかったらしいし、秘密裏に足元を掬われかねんぞ」
「そうですね。早馬として王都に向かわせた護衛も、パープリア男爵の息がかかっていないとは言い切れませんし、これは調査が難航しそうですね」
 ペイルの言葉に、シルヴァノは相槌を打つ。
「確かに、父上もパープリア男爵には苦労しているようですからね。聞けば陛下の下知すらも、理由を付けて断る事もあるらしいです。その度に調整を掛ける父上の心労は察せます」
 チークウッドは額に手を当てて、首を左右に振る。
「何にしても、その食わせ者のパープリアを、処罰できないものか……。今回の襲撃は利用できそうだ」
「日数がありましたし、失敗はもう伝わっている可能性はありますけれどね」
「それでも、せっかくの機会です。実の娘を囮にした下種に、制裁を下してくれましょう」
 シルヴァノのたちは、自分たちの命を狙ったならず者を成敗しようと、決意を固めるのだった。
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