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第八章 二年次
第179話 因縁の証
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ミノタウロスのネームド『タウロ』。マゼンダ領内氷山エリアの火山に住んでいたミノタウロスの変異個体。インフェルノによれば、ペシエラと対峙するミノタウロスはそういった存在なのだそうだ。
「まだ生きていたとはな。火口から落ちたと聞いて、死んだとばかり思っていたぞ」
「ふはははっ、笑止! あの程度の熱、涼しくてちょうどよかったぞ」
「ふっ、さすがは俺の兄弟分として育っただけの事はあるな」
高らかに笑うタウロに、やけに嬉しそうに笑うインフェルノ。この二体の間の空気が、ペシエラたちには理解できなかった。
「主人よ、タウロは俺に任せてくれ。どれくらい腕を上げたか、試してみたくてたまらんのだ」
「えっ、あっ、はい。お、お任せします」
インフェルノの言葉に、アイリスはすぐに理解できずに返答に詰まりかけた。
「というわけだ。タウロ、お前の相手は俺だ」
「ふっ、いいだろう。本気でやり合うとしようか」
「ああ、そうだな」
二匹が言葉を交わせば、一気に場が灼熱に覆われる。慌ててペシエラが防壁を展開したので、森が火事になる事は避けられた。
「ふう、神獣たちの世界もいろいろありますのね。……さて」
インフェルノとタウロが戦い始めたのを見て、ペシエラは残った魔物へと目を向ける。
「こちらも片付けませんとね」
ペシエラは身構えた。
目の前で繰り広げられる戦いに、プラティナはただ呆然と見守る事しかできなかった。
ペシエラが使った魔法は、もう王国の誰もが敵わない強大なものであったからだ。
それだけではない。流暢に言葉を喋るミノタウロス、全身が燃え盛る狼。もうプラティナの脳の処理能力を遥かに超えた情報の波である。
正直言うと、プラティナはペシエラたちの事を『田舎の成り上がり貴族の娘』程度にしか思っていなかった。しかし、入学当初から見せつけられた規格外の力に度肝を抜かれた。そして今、その最たる状況を目の当たりにして、愕然としているのだ。
突如として現れた千体以上の魔物。その魔物たちをあっという間に壊滅させたペシエラの魔法。更には、強力な魔物の出現に、それ以上の力を持った炎の狼の出現。夢でも見ているのだろうか、それがプラティナの今の気持ちである。
だが、プラティナの意識はすぐに現実へと引き戻される。
「さっ、プラティナ様。ここはペシエラ様とインフェルノに任せて、プラティナ様は安全なところへ」
去年、小規模な魔物氾濫を起こした反逆者であるアイリス・パープリア。今はチェリシアとペシエラの侍女となった彼女に、プラティナは肩に手を置かれた状態で声を掛けられていた。
だが、プラティナは、この場から逃げる選択肢を取らなかった。将来国を導くであろう少女を一人残して逃げる事など、公爵家の娘として取れる選択肢ではなかったのだ。
「わたくしは逃げません。公爵家の者として生まれた以上、国を守る剣や盾として生きる使命があります。……わたくしは、プラティナ・スノーフィールド。王家の血を引く者なのです!」
何を言ってるのだとアイリスは思ったが、その瞳からは強い意志を感じた。プラティナの決意を感じ取ったアイリスは、すっと目を閉じて少し微笑んだ。
「畏まりました。不肖アイリス、ペシエラ様に仕える者として、プラティナ様の援護を致します」
アイリスはそう言って、太ももに据えられた短剣を素早く取り出して両手に構えた。
「アイリスさん、その剣は?」
「パープリアは暗殺術を得意とする家系です。あちこちに暗器を隠し持っているのですよ」
アイリスはにこやかに答える。
「さて、ペシエラ様を援護しましょう」
アイリスがそう言って駆け出そうとした時、
「待って!」
プラティナが突然声を出す。
「どうされたのですか?」
アイリスが出鼻を挫かれて、顔を歪めながら尋ねる。そこでアイリスが見たプラティナは、地面のある一点を見て青ざめていた。
アイリスもその視線の先に目を遣る。するとそこには、召喚陣らしきものがあり、何かが地面に落ちているのが見えた。
「物が落ちている? いえ、これは埋まっていると言った方がいいですかね」
よく見ると、綺麗な模様が刻まれた宝石のような物が地面にめり込んでいる。埋まり具合からすると、戦闘中に踏みつけたというより、人為的に埋めたような感じだった。
「この模様……、プラティナ様の家紋によく似ていますね」
アイリスが制服からカメラを取り出して模様を写す。撮影できるとか、この状況でよく落ち着いていられるものだ。
「それ、わたくしと同じ、王家の血筋の家の家紋です。スノーフィールド家と似ていて当然です」
プラティナが震えている。それくらいには、この模様が指し示す事実が衝撃的だったという事だろう。
アイリスは直感した。この人為的な魔物氾濫は、どうやら思っていた以上に根深い事情から引き起こされたものだと……。
「まだ生きていたとはな。火口から落ちたと聞いて、死んだとばかり思っていたぞ」
「ふはははっ、笑止! あの程度の熱、涼しくてちょうどよかったぞ」
「ふっ、さすがは俺の兄弟分として育っただけの事はあるな」
高らかに笑うタウロに、やけに嬉しそうに笑うインフェルノ。この二体の間の空気が、ペシエラたちには理解できなかった。
「主人よ、タウロは俺に任せてくれ。どれくらい腕を上げたか、試してみたくてたまらんのだ」
「えっ、あっ、はい。お、お任せします」
インフェルノの言葉に、アイリスはすぐに理解できずに返答に詰まりかけた。
「というわけだ。タウロ、お前の相手は俺だ」
「ふっ、いいだろう。本気でやり合うとしようか」
「ああ、そうだな」
二匹が言葉を交わせば、一気に場が灼熱に覆われる。慌ててペシエラが防壁を展開したので、森が火事になる事は避けられた。
「ふう、神獣たちの世界もいろいろありますのね。……さて」
インフェルノとタウロが戦い始めたのを見て、ペシエラは残った魔物へと目を向ける。
「こちらも片付けませんとね」
ペシエラは身構えた。
目の前で繰り広げられる戦いに、プラティナはただ呆然と見守る事しかできなかった。
ペシエラが使った魔法は、もう王国の誰もが敵わない強大なものであったからだ。
それだけではない。流暢に言葉を喋るミノタウロス、全身が燃え盛る狼。もうプラティナの脳の処理能力を遥かに超えた情報の波である。
正直言うと、プラティナはペシエラたちの事を『田舎の成り上がり貴族の娘』程度にしか思っていなかった。しかし、入学当初から見せつけられた規格外の力に度肝を抜かれた。そして今、その最たる状況を目の当たりにして、愕然としているのだ。
突如として現れた千体以上の魔物。その魔物たちをあっという間に壊滅させたペシエラの魔法。更には、強力な魔物の出現に、それ以上の力を持った炎の狼の出現。夢でも見ているのだろうか、それがプラティナの今の気持ちである。
だが、プラティナの意識はすぐに現実へと引き戻される。
「さっ、プラティナ様。ここはペシエラ様とインフェルノに任せて、プラティナ様は安全なところへ」
去年、小規模な魔物氾濫を起こした反逆者であるアイリス・パープリア。今はチェリシアとペシエラの侍女となった彼女に、プラティナは肩に手を置かれた状態で声を掛けられていた。
だが、プラティナは、この場から逃げる選択肢を取らなかった。将来国を導くであろう少女を一人残して逃げる事など、公爵家の娘として取れる選択肢ではなかったのだ。
「わたくしは逃げません。公爵家の者として生まれた以上、国を守る剣や盾として生きる使命があります。……わたくしは、プラティナ・スノーフィールド。王家の血を引く者なのです!」
何を言ってるのだとアイリスは思ったが、その瞳からは強い意志を感じた。プラティナの決意を感じ取ったアイリスは、すっと目を閉じて少し微笑んだ。
「畏まりました。不肖アイリス、ペシエラ様に仕える者として、プラティナ様の援護を致します」
アイリスはそう言って、太ももに据えられた短剣を素早く取り出して両手に構えた。
「アイリスさん、その剣は?」
「パープリアは暗殺術を得意とする家系です。あちこちに暗器を隠し持っているのですよ」
アイリスはにこやかに答える。
「さて、ペシエラ様を援護しましょう」
アイリスがそう言って駆け出そうとした時、
「待って!」
プラティナが突然声を出す。
「どうされたのですか?」
アイリスが出鼻を挫かれて、顔を歪めながら尋ねる。そこでアイリスが見たプラティナは、地面のある一点を見て青ざめていた。
アイリスもその視線の先に目を遣る。するとそこには、召喚陣らしきものがあり、何かが地面に落ちているのが見えた。
「物が落ちている? いえ、これは埋まっていると言った方がいいですかね」
よく見ると、綺麗な模様が刻まれた宝石のような物が地面にめり込んでいる。埋まり具合からすると、戦闘中に踏みつけたというより、人為的に埋めたような感じだった。
「この模様……、プラティナ様の家紋によく似ていますね」
アイリスが制服からカメラを取り出して模様を写す。撮影できるとか、この状況でよく落ち着いていられるものだ。
「それ、わたくしと同じ、王家の血筋の家の家紋です。スノーフィールド家と似ていて当然です」
プラティナが震えている。それくらいには、この模様が指し示す事実が衝撃的だったという事だろう。
アイリスは直感した。この人為的な魔物氾濫は、どうやら思っていた以上に根深い事情から引き起こされたものだと……。
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