逆行令嬢と転生ヒロイン

未羊

文字の大きさ
190 / 731
第八章 二年次

第187話 金属と職人

しおりを挟む
 鉄を炉で熱して、熱いうちに叩いて延ばし、それを水につけて急激に冷やす。
 その工程を繰り返しているうちに、どんどんと高純度鉄が細長く、そして薄くなっていき、次第に剣の姿を見せ始めた。
 何度となく席を外したグレイアと違い、ルゼはずっとその様子を見ていた。リードのその動き一つ一つを食い入るように。
 外がすっかり暗くなった頃、ようやく納得がいったのか、リードが手を置いた。六時間はぶっ通しで剣を打っていた事になる。ルゼは輝くような目で、その打たれた剣を見ている。
「ガキ、まだ居たのか……」
「ええ。おじさんの仕事を瞬きもなく最初から。うん、金属がすごく満足してる。真剣に会話してたのが、よく分かる」
 ルゼは笑顔である。
(この熱い工房の中で汗一つかいていない。紛れもなくコイツは魔物なんだな)
 ようやく、ルゼが魔物であると納得したリードだったが、まだ剣は完成していないので作業の手は止めない。それに、剣身が剥き出しのままなのだ。これに柄を付けなければ完成しない。
 結局、剣が完成したのは、それから更に二時間も後の事だった。
「……ふう、完成だ。……ほれ、見てみるか?」
 リードは後ろにルゼが居るのを確認して、完成したばかりの剣を見せる。
「うん、見る」
 ルゼは剣を手に取ってまじまじと見ている。そして、突然、自分の左手を切り落とした。
「お、おいっ、何してるんだ!」
 リードが慌てて叫ぶが、ルゼはまったく気にしていない。
「平気よ。私はスライムの上位種だから」
 切り落とされた左手がみるみるゲル化して、左手首に吸い寄せられていく。そして、あっという間に元通りになってしまった。
「……、いきなり手を切り落とすのはやめてくれ。今のあんたはどう見ても人間だからな、心臓に悪い」
「……そうなのね。分かった」
 リードが頭を掻きながらボヤくと、ルゼはきょとんと不思議そうな顔をしながら答えた。
「うん、打ちたてだけど、何の問題もない。これだけ見事に流動の金属を斬れるなら、大抵の魔物に通用するわ」
 剣に見惚れるような顔で、ルゼは感想を漏らした。
「凄いわね。ずっと見てたけど、ここまで丹念に鍛えられた剣は見た事がないわ」
 ルゼは剣を持って、そのすべてをじっくり見ている。厚さ、強度など、状態を確かめている。
「決めたわ。主人様とペシエラ様の剣もここで作ってもらうわ」
「ほう、ペシエラって事は、マゼンダ商会のとこのか、あんたは」
 リードが睨むようにして言うと、
「そうよ。私は金属に詳しいからって、ドール商会に入ったの」
 底抜けの笑顔でルゼは答えていた。
「そうか。だが、剣を作るとしてお金はどうする気だ? こっちも商売だからな、金は取るぞ?」
 リードは金銭の話をする。だが、ルゼは鼻で笑った。
「私は金属の塊よ。お金と言うなら……、これでどうかな?」
 ルゼは指先から搾り取るように、金属の塊を生み出した。それを見たリードは、とてつもない顔で驚いていた。
「こいつぁ、紛れもなく魔法銀じゃねえか。とんでもねえ、これだけあればさっき打った剣数本分にはなるぞ」
 目の前の親指一本分の魔法銀を見て、リードは唸った。
「そっか。じゃ、ペシエラ様のサーベルを一本、主人様の短剣二本と投擲用の短剣数本を作ってもらえるかな? 材質はさっきのでいいわ」
「ああ、分かった。馬鹿にして悪かったな。その詫びも入れてやらせてもらうぞ」
 商談が成立した。
「そっか。リードといったかしら。あなたとは長い付き合いになりそうで楽しみだわ」
 ルゼはそう言って、非常に悪い顔をしている。だが、リードはやる気満々である。
 リードたちをご飯に呼びに来たグレイアも、工房の外から見た父親の顔に、非常に喜びを感じていた。
 ルゼは、リードやグレイアたちと、金属と加工についてご飯を食べながら盛り上がっていた。
 ……結局泊まりになってしまったがために、翌日、マゼンダ、ドールの両商会からこっ酷く怒られたのは、言うまでもない話である。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...