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第八章 二年次
第186話 ドール商会の鍛冶職人
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王からの通達もあり、その後の手続きはすんなり終わった。ロゼリアたちがドール商会から去ると、オーロは早速ルゼを連れてグレイアの家へと向かった。
なぜグレイアの家かと言うと、その前のやり取りの結果である。
金属のエキスパートと言うので、オーロは会談の後、商会で扱う武具などの金属加工品をルゼに見せていたのだ。その中でルゼが気に入った物の加工をしていたのが、グレイアの家の工房だったというわけである。
「うん、金属たちが満足の声を上げてる。この職人さんはいい仕事してるね。……他のは悲鳴上げてるのもあるくらいに酷い。これじゃ金属の持ち味をほとんど発揮できてないよ」
その時のルゼの言い分がこれである。
金属の声が聞こえるというのは、ある種妄言のようにも聞こえるが、優れた職人は金属と対話もするというので、あながち軽視できない言葉なのである。
こういうやり取りがあった後にやって来たグレイアの家。オーロは扉を叩いて、
「リード、居るか?」
中へと呼び掛けた。
「なんだ、オーロか。何の用だ」
不機嫌そうなガッチリ系のおっさんが出てきた。彼がグレイアの父のリードだ。火を扱うので髭は全くない。鈍色の髪も短く刈りそろえられている。
「なに、君の工房を見学したいという者が居るので案内したまで。それがこの子だ」
オーロの後ろからルゼが姿を現す。その姿を見たグレイアが反応する。
「あっ、確か合宿で会ったメタルゼリーの子じゃないの。うちの見学なの?」
「なんだ、知り合いか」
グレイアの言葉に真っ先に反応したのはリードだった。
「うん、今年の合宿中に会った子なんだ。メタルゼリーって魔物なんだそうだよ」
「へえ、このひょろそうなのが魔物ねぇ。お前と同い年くらいのガキにしか見えねぇな」
「それはそうよ。主人様を真似て姿を考えましたから。これでも六百年は生きてるのよ?」
グレイアとリード親娘の会話に挟まり込むルゼ。疑われたら弁明はしたくなるものである。
「まあリード、見た目で判断するな。この子の見る目は確かだ。お前さんのこさえた物が一番良いと答えていたからな。これは私どもの意見とも一致する」
「へぇ、ガキにしちゃやるな」
オーロが説明しても、完全に舐めてるリード。職人気質の人間に割りかしある傾向かも知れない。
「まあちょうどいい。今から剣を一本こさえるんだが、見て行くか?」
リードがルゼにそう尋ねると、
「もちろん。あれだけ金属たちが満足してるんだから、仕事ぶりが見たくなる」
当たり前だという返答をする。
ルゼ自体はただのスライムだったが、金属を食べ続けているうちに、もはや金属の精霊状態になっていた。なので、この反応は当然と言える。
「よし、ちょうど腹ごしらえを終えたとこだ。注文のあった剣を打つから見て行け」
リードはそう言って、工房へと消えていった。
「オーロ様、私はこのまま見学をするので、戻られて大丈夫です。夜には戻れると思いますが、もしもの時はこちらに泊めて頂きます」
「ああ、分かった。性格はあんなんだが、鍛冶の腕は確かなのでね。グレイアくん、ルゼくんを頼んだよ」
「了解です」
ルゼの申し出を、オーロは了承する。そして、面識のあるグレイアにあとの事は任せ、オーロは商会へと戻っていった。
工房では、リードが炉の確認を行った後、剣を鍛錬するのに使う道具や金属の確認をしていた。ルゼはその様子を黙って見ている。
(ふーん、あれは純度の高い鉄の塊だね。天然では存在しないし、魔法で精製したのかな?)
高純度鉄は、不純物をほとんど含まない鉄で、自然に生成されるものではない。メタルゼリーであるルゼはそれをよく知っている。リードはそのルゼの視線に気が付いた。
「この鉄か。オーロの妻のカナリーが魔法で作ったんだ。元貴族であんたみたいに金属に興味がある、変わった奴だ」
「お知り合いなので?」
「ああ、俺と俺の妻、それにオーロとカナリーの四人は幼馴染みだ。今でも仕事ではあるが、さっきみたいにちょくちょく顔を合わせる。腐れ縁みたいなもんだ」
「ふーん、人間って面白いものね」
従魔化したルゼは、淡白な反応を示しながらも興味津々だった。しかし、リードはいつまでも話している気は無いようで、
「剣作りに入る。見てるのは構わんが、邪魔はするなよ?」
そう言って、高純度鉄の加工に取り掛かるのだった。
なぜグレイアの家かと言うと、その前のやり取りの結果である。
金属のエキスパートと言うので、オーロは会談の後、商会で扱う武具などの金属加工品をルゼに見せていたのだ。その中でルゼが気に入った物の加工をしていたのが、グレイアの家の工房だったというわけである。
「うん、金属たちが満足の声を上げてる。この職人さんはいい仕事してるね。……他のは悲鳴上げてるのもあるくらいに酷い。これじゃ金属の持ち味をほとんど発揮できてないよ」
その時のルゼの言い分がこれである。
金属の声が聞こえるというのは、ある種妄言のようにも聞こえるが、優れた職人は金属と対話もするというので、あながち軽視できない言葉なのである。
こういうやり取りがあった後にやって来たグレイアの家。オーロは扉を叩いて、
「リード、居るか?」
中へと呼び掛けた。
「なんだ、オーロか。何の用だ」
不機嫌そうなガッチリ系のおっさんが出てきた。彼がグレイアの父のリードだ。火を扱うので髭は全くない。鈍色の髪も短く刈りそろえられている。
「なに、君の工房を見学したいという者が居るので案内したまで。それがこの子だ」
オーロの後ろからルゼが姿を現す。その姿を見たグレイアが反応する。
「あっ、確か合宿で会ったメタルゼリーの子じゃないの。うちの見学なの?」
「なんだ、知り合いか」
グレイアの言葉に真っ先に反応したのはリードだった。
「うん、今年の合宿中に会った子なんだ。メタルゼリーって魔物なんだそうだよ」
「へえ、このひょろそうなのが魔物ねぇ。お前と同い年くらいのガキにしか見えねぇな」
「それはそうよ。主人様を真似て姿を考えましたから。これでも六百年は生きてるのよ?」
グレイアとリード親娘の会話に挟まり込むルゼ。疑われたら弁明はしたくなるものである。
「まあリード、見た目で判断するな。この子の見る目は確かだ。お前さんのこさえた物が一番良いと答えていたからな。これは私どもの意見とも一致する」
「へぇ、ガキにしちゃやるな」
オーロが説明しても、完全に舐めてるリード。職人気質の人間に割りかしある傾向かも知れない。
「まあちょうどいい。今から剣を一本こさえるんだが、見て行くか?」
リードがルゼにそう尋ねると、
「もちろん。あれだけ金属たちが満足してるんだから、仕事ぶりが見たくなる」
当たり前だという返答をする。
ルゼ自体はただのスライムだったが、金属を食べ続けているうちに、もはや金属の精霊状態になっていた。なので、この反応は当然と言える。
「よし、ちょうど腹ごしらえを終えたとこだ。注文のあった剣を打つから見て行け」
リードはそう言って、工房へと消えていった。
「オーロ様、私はこのまま見学をするので、戻られて大丈夫です。夜には戻れると思いますが、もしもの時はこちらに泊めて頂きます」
「ああ、分かった。性格はあんなんだが、鍛冶の腕は確かなのでね。グレイアくん、ルゼくんを頼んだよ」
「了解です」
ルゼの申し出を、オーロは了承する。そして、面識のあるグレイアにあとの事は任せ、オーロは商会へと戻っていった。
工房では、リードが炉の確認を行った後、剣を鍛錬するのに使う道具や金属の確認をしていた。ルゼはその様子を黙って見ている。
(ふーん、あれは純度の高い鉄の塊だね。天然では存在しないし、魔法で精製したのかな?)
高純度鉄は、不純物をほとんど含まない鉄で、自然に生成されるものではない。メタルゼリーであるルゼはそれをよく知っている。リードはそのルゼの視線に気が付いた。
「この鉄か。オーロの妻のカナリーが魔法で作ったんだ。元貴族であんたみたいに金属に興味がある、変わった奴だ」
「お知り合いなので?」
「ああ、俺と俺の妻、それにオーロとカナリーの四人は幼馴染みだ。今でも仕事ではあるが、さっきみたいにちょくちょく顔を合わせる。腐れ縁みたいなもんだ」
「ふーん、人間って面白いものね」
従魔化したルゼは、淡白な反応を示しながらも興味津々だった。しかし、リードはいつまでも話している気は無いようで、
「剣作りに入る。見てるのは構わんが、邪魔はするなよ?」
そう言って、高純度鉄の加工に取り掛かるのだった。
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