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第九章 大いなる秘密
第249話 赤面ペシエラ
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精霊の森から帰るエアリアルボードの上で、ペシエラは自分の体の感触を確かめていた。魂が仮初めの体を作っていたとはいっても、今もまったく以前と変わりが無いからだ。本当に実体を得たのかどうか、ペシエラ本人ですら疑わしい状態なのだ。
これまでのペシエラもちゃんと食事はするし、運動すれば普通に疲れるし、人間の生理現象もちゃんと起きていたし、普通の人間だという事を疑っていなかった。なので、今さら実体が無いと言われても信じられなかった。
しかし、自分の身の変化を実感する事は意外に早かった。
王都に戻るまでに一回野営したのだが、その時にペシエラは眠れないついでに、天幕を出て試しに魔法を使ってみたのだ。
「……、痛くない?」
無事に何事もなく火を灯す魔法を使う事ができた。
学園祭の事件以来、簡単な魔法ですら使うと激痛が走っていたのだが、それが無くなっていたのだ。痛みもなく魔法が使えるようになったペシエラは、嬉しくてその場で泣き崩れた。それに気が付いたチェリシアが慌てて駆けつけたのだが、ペシエラは泣きじゃくっていてまったくそれに気付かなかった。結局、落ち着くまでチェリシアに抱き締められている事に気が付かなかった。
「失礼致しましたわ、お姉様」
気が付いたペシエラは少し固まっていたが、なんとか冷静に反応する。
「うん、ペシエラがそこまで取り乱すのは珍しいわ」
ところが、チェリシアにこう言われてしまえば、ペシエラは改めて恥ずかしくなったのか顔を赤くして肩を強張らせた。
「三十路まで生きたとはいえ、やっぱり姿にある程度引っ張られるのかしらね」
泣きじゃくったり恥ずかしがったりするペシエラに、チェリシアはちょっと新鮮な姿を見た気になった。
「まったくお恥ずかしい限りですわ」
チェリシアがあまりに自分を見てにやけているので、ペシエラは咳払い一つしてようやく冷静になった。
「いいのよ、ペシエラ。ずっと気を張ってたみたいだから、たまには素直に感情を爆発させてもいいのよ。ロゼリアの前じゃ恥ずかしいだろうけどね」
チェリシアがペシエラから視線を外す。その動きに気が付いたペシエラがチェリシアの後ろを見ると、そこにはロゼリアが立っていた。
「なっ、ロゼリア!」
「あれだけ大声で泣かれたら、気が付かないわけないでしょ」
ロゼリアにこう言われて、ペシエラは顔を赤くして手で押さえている。これだけうろたえるペシエラは本当に珍しい。
「まったく、逆行前の事があるとはいえ、あなたは一人で気負い過ぎなのよ。激痛が走るようになったら誰にも相談しないし、解決したと思ったら一人でこっそり確認しようとするし、友人なんだから相談ぐらいして欲しいわね」
腕を組んで呆れるようにペシエラを見るロゼリア。
「シルヴァノ殿下とペイル殿下も心配して見にきてるわよ。本当に、あなたは愛されヒロインね」
その姿勢のまま、天幕の隙間から覗く二人の王子を指差している。
「~~~っ!」
その姿を確認したペシエラは、声ならぬ声を上げている。ちなみに別の天幕ではアイリスたちもちゃっかり覗いていた。
「やれやれ、ああいうところはやっぱり子どもだな」
「ああいうギャップは可愛くて歓迎よ」
キャノルとライがそれぞれに反応する横で、アイリスは一人嬉し涙を流していた。ペシエラが居なければ今の自分が居なかったわけだから、ペシエラが助かった事をさも自分の事のように喜んでいるのである。アイリスがあまりに泣きじゃくるものだから、ライとキャノルの二人はアイリスを宥めながら先に眠る事にしたのだった。
「まぁ、正式な確認はヴィフレアに戻ってからにしましょう。夜更かしは美容の大敵なのよ?」
チェリシアは唇に人差し指を当てながら、ウィンクをしてドヤ顔を決めて言う。それを見たロゼリアとペシエラは、大笑いをする。
「ちょっ、何がそんなにおかしいのよ」
「いや、調味料や魔道具開発でしょっちゅう夜更かししているお姉様に言われても、説得力が無いなと思いまして」
「ええ、まったくもって同意だわ」
「ちょっと、二人とも?!」
お腹を抱えて笑うという淑女らしからぬ状態の二人の笑い声に、チェリシアの困惑した声が野営の夜空にこだました。
心配事が無くなった後の平和な夜は、こうやって更けていった。
これまでのペシエラもちゃんと食事はするし、運動すれば普通に疲れるし、人間の生理現象もちゃんと起きていたし、普通の人間だという事を疑っていなかった。なので、今さら実体が無いと言われても信じられなかった。
しかし、自分の身の変化を実感する事は意外に早かった。
王都に戻るまでに一回野営したのだが、その時にペシエラは眠れないついでに、天幕を出て試しに魔法を使ってみたのだ。
「……、痛くない?」
無事に何事もなく火を灯す魔法を使う事ができた。
学園祭の事件以来、簡単な魔法ですら使うと激痛が走っていたのだが、それが無くなっていたのだ。痛みもなく魔法が使えるようになったペシエラは、嬉しくてその場で泣き崩れた。それに気が付いたチェリシアが慌てて駆けつけたのだが、ペシエラは泣きじゃくっていてまったくそれに気付かなかった。結局、落ち着くまでチェリシアに抱き締められている事に気が付かなかった。
「失礼致しましたわ、お姉様」
気が付いたペシエラは少し固まっていたが、なんとか冷静に反応する。
「うん、ペシエラがそこまで取り乱すのは珍しいわ」
ところが、チェリシアにこう言われてしまえば、ペシエラは改めて恥ずかしくなったのか顔を赤くして肩を強張らせた。
「三十路まで生きたとはいえ、やっぱり姿にある程度引っ張られるのかしらね」
泣きじゃくったり恥ずかしがったりするペシエラに、チェリシアはちょっと新鮮な姿を見た気になった。
「まったくお恥ずかしい限りですわ」
チェリシアがあまりに自分を見てにやけているので、ペシエラは咳払い一つしてようやく冷静になった。
「いいのよ、ペシエラ。ずっと気を張ってたみたいだから、たまには素直に感情を爆発させてもいいのよ。ロゼリアの前じゃ恥ずかしいだろうけどね」
チェリシアがペシエラから視線を外す。その動きに気が付いたペシエラがチェリシアの後ろを見ると、そこにはロゼリアが立っていた。
「なっ、ロゼリア!」
「あれだけ大声で泣かれたら、気が付かないわけないでしょ」
ロゼリアにこう言われて、ペシエラは顔を赤くして手で押さえている。これだけうろたえるペシエラは本当に珍しい。
「まったく、逆行前の事があるとはいえ、あなたは一人で気負い過ぎなのよ。激痛が走るようになったら誰にも相談しないし、解決したと思ったら一人でこっそり確認しようとするし、友人なんだから相談ぐらいして欲しいわね」
腕を組んで呆れるようにペシエラを見るロゼリア。
「シルヴァノ殿下とペイル殿下も心配して見にきてるわよ。本当に、あなたは愛されヒロインね」
その姿勢のまま、天幕の隙間から覗く二人の王子を指差している。
「~~~っ!」
その姿を確認したペシエラは、声ならぬ声を上げている。ちなみに別の天幕ではアイリスたちもちゃっかり覗いていた。
「やれやれ、ああいうところはやっぱり子どもだな」
「ああいうギャップは可愛くて歓迎よ」
キャノルとライがそれぞれに反応する横で、アイリスは一人嬉し涙を流していた。ペシエラが居なければ今の自分が居なかったわけだから、ペシエラが助かった事をさも自分の事のように喜んでいるのである。アイリスがあまりに泣きじゃくるものだから、ライとキャノルの二人はアイリスを宥めながら先に眠る事にしたのだった。
「まぁ、正式な確認はヴィフレアに戻ってからにしましょう。夜更かしは美容の大敵なのよ?」
チェリシアは唇に人差し指を当てながら、ウィンクをしてドヤ顔を決めて言う。それを見たロゼリアとペシエラは、大笑いをする。
「ちょっ、何がそんなにおかしいのよ」
「いや、調味料や魔道具開発でしょっちゅう夜更かししているお姉様に言われても、説得力が無いなと思いまして」
「ええ、まったくもって同意だわ」
「ちょっと、二人とも?!」
お腹を抱えて笑うという淑女らしからぬ状態の二人の笑い声に、チェリシアの困惑した声が野営の夜空にこだました。
心配事が無くなった後の平和な夜は、こうやって更けていった。
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