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第九章 大いなる秘密
第253話 なぜか料理を作る羽目になった
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翌日、モスグリネの国王に精霊の森での出来事を報告する。立ち会っていた王宮魔術師からも同じ証言を得られた事で、あっさりと国王は信用したようである。
だが、精霊王オリジンがアイヴォリーのサンフレア学園で教師をしている事は伏せておいた。何かといろいろ面倒な事になる予感しかなかったからだ。
ペイルが土の精霊から認められて指輪を受け取ったという報告をすれば、国王は泣いて喜んでいたし、だったら余計な事は言わない方がいいのだ。
ただ、せっかくモスグリネの国王に謁見しているのだからと、ロゼリアたちはマゼンダ商会の売り込みをしっかり忘れずにしていた。
中でも、万年筆と小型調理窯改め魔石オーブンはイチ押しと言わんばかりに売り込んだ。インクなしですらすらと書ける万年筆は、アイヴォリーではもはや一般的なものとなっていた。だからこそ、隣国モスグリネに売り込むのである。
一方の魔石レンジは火を使わずに調理ができる優れものだ。燃料として薪を使わずに済む。魔法銀とアルタンを使った魔石オーブンは、値段は張るが軽く、その気になれば一人で持ち運びができる。これに加えて魔石オーブンも売り込んだ。
国王は唸っていたが、魔石オーブンとコンロの実演をして昼食を作れという命令を下してきた。つまり、満足できる料理ができれば取引成立という事だろう。
昼食の材料は、チェリシアが収納魔法に放り込んできた材料とモスグリネの王城にあった食材である。国王たちが厨房にお邪魔しているという異様な光景の中で、チェリシアはロゼリアとペシエラの二人を助手として料理を始める。チェリシアに付き合わされて料理をしているので、二人もそれなりに料理スキルを備えているので、その点はまったく問題ない。
基本的な食材はアイヴォリーと変わらないが、調味料の一つを見たチェリシアは感激していた。
(醤油! 醤油があるわっ!)
黒っぽい液体を見つけたチェリシアは、手の平に一滴垂らして味見してみたのだ。なじみのある味に、チェリシアは震えた。
そんなわけで、料理の方向性が決まった。
取り出したのはフォレストバードの肉。コーラル領の西端の未開の森で手に入る魔物の肉だ。今まではケチャップとかソースとかの濃い味付けをしてきたが、今回は塩や醤油の軽めの味付けで調理を行う。魔石コンロで肉を炒め、魔石オーブンではフォレストバードの肉とチーズを使ったグラタンやパンを焼いていく。あとは生野菜とドレッシングを用意しておいた。
こうして、フォレストバードの肉を主体とした昼食が完成した。
「王族の食事を作るのは久しぶりだけど、まずまずといったところかしら」
チェリシアは額の汗を拭いていた。
後ろでは調理の様子を国王がずっと見ていたのだが、途中からその存在を忘れるくらいに調理に集中していた。
「あいかわらず、お姉様の調理法は独特ですわね。まだ真似できませんわ」
「令嬢は普通料理しないものね。したとしてもお菓子くらいよ」
チェリシアが作り上げた料理を見ながら、ロゼリアとペシエラはため息を漏らしていた。モスグリネ王城の料理人たちも、三人を驚いたように見ている。なにせ温かい湯気が立ち上っているのに、三人は一切火元に近付いていないからだ。火や熱の魔法を使った形跡もないので、料理人たちは首を傾げている。
「火も使わずに温かい料理を作り上げるとはな。ここでは料理人たちのじゃまになるから、すぐに食堂に持って参れ」
国王はそう言って厨房から出ていく。
「あっ、国王陛下居たんだっけか……」
「そういうところがお姉様ね……」
さらっと失言するチェリシアに、さくっとツッコミを入れるペシエラ。この二人の関係もすっかり元に戻ったようだった。
「二人とも、とにかくほかの料理人の邪魔だからさっさと運ぶ支度をしなさい。このままじゃ城で働く人たちの食事に影響が出るわよ」
「あっ、そうね」
「ならワゴンも自分たちで準備した方がいいですわね。収納魔法もいいけど、それはそれで味気ないですし」
ペシエラは風魔法を使って風のワゴンを作り出した。エアリアルボードの応用である。
「すっかり問題なく魔法が使えるようね、ペシエラ」
「ええ、皆さんのおかげですわ」
「それでは皆さん、お邪魔致しました」
全員分の食事を風のワゴンに乗せ終わると、最後にチェリシアが頭を下げて厨房を出て行った。その場に残された料理人たちは、ぽかーんとした表情でしばらく固まっていたのだった。
だが、精霊王オリジンがアイヴォリーのサンフレア学園で教師をしている事は伏せておいた。何かといろいろ面倒な事になる予感しかなかったからだ。
ペイルが土の精霊から認められて指輪を受け取ったという報告をすれば、国王は泣いて喜んでいたし、だったら余計な事は言わない方がいいのだ。
ただ、せっかくモスグリネの国王に謁見しているのだからと、ロゼリアたちはマゼンダ商会の売り込みをしっかり忘れずにしていた。
中でも、万年筆と小型調理窯改め魔石オーブンはイチ押しと言わんばかりに売り込んだ。インクなしですらすらと書ける万年筆は、アイヴォリーではもはや一般的なものとなっていた。だからこそ、隣国モスグリネに売り込むのである。
一方の魔石レンジは火を使わずに調理ができる優れものだ。燃料として薪を使わずに済む。魔法銀とアルタンを使った魔石オーブンは、値段は張るが軽く、その気になれば一人で持ち運びができる。これに加えて魔石オーブンも売り込んだ。
国王は唸っていたが、魔石オーブンとコンロの実演をして昼食を作れという命令を下してきた。つまり、満足できる料理ができれば取引成立という事だろう。
昼食の材料は、チェリシアが収納魔法に放り込んできた材料とモスグリネの王城にあった食材である。国王たちが厨房にお邪魔しているという異様な光景の中で、チェリシアはロゼリアとペシエラの二人を助手として料理を始める。チェリシアに付き合わされて料理をしているので、二人もそれなりに料理スキルを備えているので、その点はまったく問題ない。
基本的な食材はアイヴォリーと変わらないが、調味料の一つを見たチェリシアは感激していた。
(醤油! 醤油があるわっ!)
黒っぽい液体を見つけたチェリシアは、手の平に一滴垂らして味見してみたのだ。なじみのある味に、チェリシアは震えた。
そんなわけで、料理の方向性が決まった。
取り出したのはフォレストバードの肉。コーラル領の西端の未開の森で手に入る魔物の肉だ。今まではケチャップとかソースとかの濃い味付けをしてきたが、今回は塩や醤油の軽めの味付けで調理を行う。魔石コンロで肉を炒め、魔石オーブンではフォレストバードの肉とチーズを使ったグラタンやパンを焼いていく。あとは生野菜とドレッシングを用意しておいた。
こうして、フォレストバードの肉を主体とした昼食が完成した。
「王族の食事を作るのは久しぶりだけど、まずまずといったところかしら」
チェリシアは額の汗を拭いていた。
後ろでは調理の様子を国王がずっと見ていたのだが、途中からその存在を忘れるくらいに調理に集中していた。
「あいかわらず、お姉様の調理法は独特ですわね。まだ真似できませんわ」
「令嬢は普通料理しないものね。したとしてもお菓子くらいよ」
チェリシアが作り上げた料理を見ながら、ロゼリアとペシエラはため息を漏らしていた。モスグリネ王城の料理人たちも、三人を驚いたように見ている。なにせ温かい湯気が立ち上っているのに、三人は一切火元に近付いていないからだ。火や熱の魔法を使った形跡もないので、料理人たちは首を傾げている。
「火も使わずに温かい料理を作り上げるとはな。ここでは料理人たちのじゃまになるから、すぐに食堂に持って参れ」
国王はそう言って厨房から出ていく。
「あっ、国王陛下居たんだっけか……」
「そういうところがお姉様ね……」
さらっと失言するチェリシアに、さくっとツッコミを入れるペシエラ。この二人の関係もすっかり元に戻ったようだった。
「二人とも、とにかくほかの料理人の邪魔だからさっさと運ぶ支度をしなさい。このままじゃ城で働く人たちの食事に影響が出るわよ」
「あっ、そうね」
「ならワゴンも自分たちで準備した方がいいですわね。収納魔法もいいけど、それはそれで味気ないですし」
ペシエラは風魔法を使って風のワゴンを作り出した。エアリアルボードの応用である。
「すっかり問題なく魔法が使えるようね、ペシエラ」
「ええ、皆さんのおかげですわ」
「それでは皆さん、お邪魔致しました」
全員分の食事を風のワゴンに乗せ終わると、最後にチェリシアが頭を下げて厨房を出て行った。その場に残された料理人たちは、ぽかーんとした表情でしばらく固まっていたのだった。
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