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第九章 大いなる秘密
第267話 それぞれの思惑
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豆腐の話で脱線したが、モスグリネ王国での話は大筋で話し終えた。ペシエラが世の理から外れた状態になっていた事で消滅危機の危険性にあった事は、プラウスにはとても衝撃的だったようだ。
「おお、ペシエラ。私の可愛い娘よ、無事でよかった」
「お、お父様。痛いです、放して下さい」
抱き締められて、本気で嫌がっているペシエラ。その様子を見ていたチェリシアは、
「ほらほら、お父様。そんな事をしていると、ペシエラに嫌われちゃいますよ」
と、引き離しにかかった。
「おお、嫌われるのは勘弁だ」
プラウスは慌ててペシエラから離れた。
「精霊王オリジンか……。ぜひともお会いしてみたいものだな」
国王が真剣な表情をしている。これに対して、ロゼリアたちは必死に笑いを堪えていた。
それというのも、サンフレア学園の一教師であるガレンがその精霊王である事を伝えていないからだ。ガレンがそれを望まないと考えたからこそ、誰もその事を話さなかったのだ。
(国内に精霊王が居るなんて知れたら、大騒ぎだものね。黙っているのが吉だわ)
ロゼリアたち全員の気持ちが一致していた。
「はっはっはっ。精霊王様は気に入った人間の前にしか姿を見せませんからね。お会いするのは困難ですぞ」
ケットシーもにやけながら言っている。これは事情を知っているクチのようだ。しかし、このケットシーの発言に、「そうか……」と国王が残念がっていた。
「とまぁ、こんなところですかな。モスグリネの商業組合としては、マゼンダ商会の進出は歓迎致しますし、今後ともアイヴォリーとは良いお付き合いをさせて頂きたいものですな」
報告をすべて終えたところで、ケットシーは高らかに笑っていた。
「せっかくこっちに来たわけですし、マゼンダ商会以外の商会とも面談させて頂こうとは考えております。ボクめはどちらで泊まればよろしいですかな?」
ケットシーはまだ攻勢の手を緩めない。最後に宿泊場所を国王たちに尋ねたのである。城に泊まる気満々な様子が見て取れる。
「ああ、そうだ、ライ」
「なんでしょうか」
ケットシーが、ロゼリアの後ろに立つライに声を掛ける。
「ボクがこっちに居る間、君に身の回りの世話をしてもらえないかい?」
「いくら友人の頼みだからといっても、今はペシエラ様たちの許可なしに勝手な事はできませんよーだ」
ケットシーの頼みを、ライはあっかんべーをした後、ぷいっと顔を背けて断った。王族の居る前でそんな行動ができるあたり、さすがは元妖精といったところだろうか。だが、これには目の前に座るロゼリアたちが内心穏やかではなかった。
「ははは、これは手厳しい」
一方で当のケットシー自体は、あまり気にしていないようである。
とまぁ、いろいろありはしたものの、無事に報告会は終わる事ができた。ケットシーは王宮の一室に泊まってもらい、その間の世話には男性の使用人があたる事になった。報告会の最後に、
「ケットシー殿、年末のパーティーは明後日から三日間の予定だ。それまではご自由に過ごすとよいぞ」
国王からこう声を掛けられると、
「そうですな。では、ドール商会とオーカー商会にもご挨拶に伺っておきましょう」
ケットシーは、なぜかライを見ながらこう言った。
(うわぁ、これは私に案内させる気だわ)
昔なじみの直感か、ライはケットシーの意図をすぐにくみ取った。だが、どのみちその二商会には向かう予定だったので、こればかりはライも我慢するしかなさそうだ。
ロゼリアたちが退室した部屋には、王族たちとその側近だけが残された。
「いやはや、幻獣ケットシーとは驚かされる」
「ええ、あの者たちが居ると驚きの連続ですわね」
国王と女王の二人は、言葉とは裏腹に笑っていた。驚きよりも今後の楽しみの方が勝っているようだった。
「しかし、あの年にもなって婚約者が居ないというのも、ちょっと不憫ではないかな」
「ええ。あれほどの有能な人物、捨ておくのはもったいない。ヴァミリオ、プラウス、お前たちはどう考える?」
国王と女王から話を振られるヴァミリオとプラウス。
「私としましては、あの子の望む相手がいいとは思っておりますが、それよりも息子のカーマイルの相手を見つける方を急いでおります」
「なんだ、カーマイルもまだ相手がおらぬのか」
「はい。なにぶんロゼリアたちがいろいろ無理難題を持ち込んでくるおかげで、探す余裕が無いのです」
まずはヴァミリオが事情を説明していた。確かに、あれだけいろいろ開発をしたり事件に巻き込まれたりがあっては、事後処理に時間を割かれ過ぎて余裕が無い事は理解できる。そこで、女王が一計を案じる。
「では、カーマイルの相手は、チェリシアがよいのではないか?」
「チェリシア嬢、ですか?」
唐突な提案に、ヴァミリオは面食らった。
「おぬしはどうだ、プラウスよ」
「はっ、それがよろしいかと思います」
チェリシアの嫁ぎ先の問題があっさり解決されるとあって、プラウスは悩む事なく女王の案に乗っかった。
ここで困惑するのは、当然カーマイルだ。だが、そのカーマイルもチェリシアなら悪くはないと考えていた事もあって、すぐに落ち着きを取り戻していた。
「うむ、特に反対は無いようだな。その方向で話を進めよう。というわけだ、引き続きロゼリアの相手を探すようにな」
「はっ、最善を尽くします」
というわけで、国王たちによるサプライズがロゼリアたちに伏せられたまま、動き始めてしまったのだった。
「おお、ペシエラ。私の可愛い娘よ、無事でよかった」
「お、お父様。痛いです、放して下さい」
抱き締められて、本気で嫌がっているペシエラ。その様子を見ていたチェリシアは、
「ほらほら、お父様。そんな事をしていると、ペシエラに嫌われちゃいますよ」
と、引き離しにかかった。
「おお、嫌われるのは勘弁だ」
プラウスは慌ててペシエラから離れた。
「精霊王オリジンか……。ぜひともお会いしてみたいものだな」
国王が真剣な表情をしている。これに対して、ロゼリアたちは必死に笑いを堪えていた。
それというのも、サンフレア学園の一教師であるガレンがその精霊王である事を伝えていないからだ。ガレンがそれを望まないと考えたからこそ、誰もその事を話さなかったのだ。
(国内に精霊王が居るなんて知れたら、大騒ぎだものね。黙っているのが吉だわ)
ロゼリアたち全員の気持ちが一致していた。
「はっはっはっ。精霊王様は気に入った人間の前にしか姿を見せませんからね。お会いするのは困難ですぞ」
ケットシーもにやけながら言っている。これは事情を知っているクチのようだ。しかし、このケットシーの発言に、「そうか……」と国王が残念がっていた。
「とまぁ、こんなところですかな。モスグリネの商業組合としては、マゼンダ商会の進出は歓迎致しますし、今後ともアイヴォリーとは良いお付き合いをさせて頂きたいものですな」
報告をすべて終えたところで、ケットシーは高らかに笑っていた。
「せっかくこっちに来たわけですし、マゼンダ商会以外の商会とも面談させて頂こうとは考えております。ボクめはどちらで泊まればよろしいですかな?」
ケットシーはまだ攻勢の手を緩めない。最後に宿泊場所を国王たちに尋ねたのである。城に泊まる気満々な様子が見て取れる。
「ああ、そうだ、ライ」
「なんでしょうか」
ケットシーが、ロゼリアの後ろに立つライに声を掛ける。
「ボクがこっちに居る間、君に身の回りの世話をしてもらえないかい?」
「いくら友人の頼みだからといっても、今はペシエラ様たちの許可なしに勝手な事はできませんよーだ」
ケットシーの頼みを、ライはあっかんべーをした後、ぷいっと顔を背けて断った。王族の居る前でそんな行動ができるあたり、さすがは元妖精といったところだろうか。だが、これには目の前に座るロゼリアたちが内心穏やかではなかった。
「ははは、これは手厳しい」
一方で当のケットシー自体は、あまり気にしていないようである。
とまぁ、いろいろありはしたものの、無事に報告会は終わる事ができた。ケットシーは王宮の一室に泊まってもらい、その間の世話には男性の使用人があたる事になった。報告会の最後に、
「ケットシー殿、年末のパーティーは明後日から三日間の予定だ。それまではご自由に過ごすとよいぞ」
国王からこう声を掛けられると、
「そうですな。では、ドール商会とオーカー商会にもご挨拶に伺っておきましょう」
ケットシーは、なぜかライを見ながらこう言った。
(うわぁ、これは私に案内させる気だわ)
昔なじみの直感か、ライはケットシーの意図をすぐにくみ取った。だが、どのみちその二商会には向かう予定だったので、こればかりはライも我慢するしかなさそうだ。
ロゼリアたちが退室した部屋には、王族たちとその側近だけが残された。
「いやはや、幻獣ケットシーとは驚かされる」
「ええ、あの者たちが居ると驚きの連続ですわね」
国王と女王の二人は、言葉とは裏腹に笑っていた。驚きよりも今後の楽しみの方が勝っているようだった。
「しかし、あの年にもなって婚約者が居ないというのも、ちょっと不憫ではないかな」
「ええ。あれほどの有能な人物、捨ておくのはもったいない。ヴァミリオ、プラウス、お前たちはどう考える?」
国王と女王から話を振られるヴァミリオとプラウス。
「私としましては、あの子の望む相手がいいとは思っておりますが、それよりも息子のカーマイルの相手を見つける方を急いでおります」
「なんだ、カーマイルもまだ相手がおらぬのか」
「はい。なにぶんロゼリアたちがいろいろ無理難題を持ち込んでくるおかげで、探す余裕が無いのです」
まずはヴァミリオが事情を説明していた。確かに、あれだけいろいろ開発をしたり事件に巻き込まれたりがあっては、事後処理に時間を割かれ過ぎて余裕が無い事は理解できる。そこで、女王が一計を案じる。
「では、カーマイルの相手は、チェリシアがよいのではないか?」
「チェリシア嬢、ですか?」
唐突な提案に、ヴァミリオは面食らった。
「おぬしはどうだ、プラウスよ」
「はっ、それがよろしいかと思います」
チェリシアの嫁ぎ先の問題があっさり解決されるとあって、プラウスは悩む事なく女王の案に乗っかった。
ここで困惑するのは、当然カーマイルだ。だが、そのカーマイルもチェリシアなら悪くはないと考えていた事もあって、すぐに落ち着きを取り戻していた。
「うむ、特に反対は無いようだな。その方向で話を進めよう。というわけだ、引き続きロゼリアの相手を探すようにな」
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