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第十章 乙女ゲーム最終年
第300話 令嬢対決
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お互いに初めての武術大会であるロゼリアとシェイディア。よく思えば武術では初顔合わせであるので、出方を見ようと動けなかった。
「おっと、ロゼリア選手とシェイディア選手、ともに牽制し合って動きがありません!」
実況にそう言われる始末である。
ロゼリアには逆行前のアドバンテージがあるものの、実戦そのものは対魔物ばかりで、対人戦はほぼ皆無である。
一方のシェイディアは騎士団の練習に出て対人戦を行った経験はあるが、未知の相手だとどうしても受けに回ってしまう癖があった。それがこの膠着状態の理由である。
(対人戦は私の方が経験あるはずです。ここはひとつ……)
「おっと、シェイディア選手が先に仕掛けた!」
自分に分があると踏んだシェイディアが仕掛ける。
それにしても今年の実況はずいぶんと喋るものだ。王子二人が入学してきたとあって固くなっていたのが、三年目となって解れたのだろうか。まあこれだけ喋ってくれれば盛り上がるだろう。
さて試合の方は、シェイディアの突進からの斬りが放たれる。様子見の単純な攻撃である。さすがにこれはロゼリアも反応して……、ってなぜか剣で受けた。普通は躱して反撃を入れるところだろう。
「……読まれましたか」
「危ないわね。躱していたらそこから切り返しが飛んできてたわね」
そう、シェイディアは振り下ろしを止めて、薙ぎ払いへの連携を狙っていたのだ。振り下ろしの速度の遅さを、ロゼリアは見抜いたのである。これはフェイントだと。わざと軽い攻撃を放って、本命はその後に放つ。余裕で躱せるとみると大抵は左右のどちらかに躱す。それを見込んだ攻撃だったのだ。
ロゼリアは剣を弾いて軽く後退する。シェイディアも弾かれた衝撃を利用して後方に下がった。武術大会初出場とは思えない動きだ。
ロゼリアは呼吸を整え、打って変わって自分から攻撃を仕掛ける。しかし、そこは対人戦はずぶの素人の攻撃だ。シェイディアには到底当たらなかった。しかもフェイントを掛ける余裕もない。躱されれば無防備な姿をさらした。
だが、忘れてはならない。これは剣術大会ではない。武術大会なのだ。剣術以外にも、体術や魔法の使用だって可能なのだ。
風魔法を使って攻撃を躱すロゼリア。これにはシェイディアは驚かされた。
「さすがは三属性の使い手。反撃を食らうと分かっているから、とっさにでも発動できるわけね」
ロゼリアの風魔法はかなり精度が高い。ロゼリアのエアリアルボードは、チェリシアやペシエラに劣らない性能を持つのだから当然の話だ。
この風魔法を見せられては、シェイディアも黙ってはいなかった。シェイディアの周りに黒い剣のようなものがいくつも現れる。
「闇魔法?」
「ええ、そうよ。私の家系は闇属性の使い手。当然ながら私だって使えますわ」
そう言うと、シェイディアはロゼリア目がけて闇の剣を投げつける。武台にざくざくと刺さっていく闇の剣。ロゼリアは風魔法を使ってそれを回避していく。ロゼリアの身体能力では回避が間に合わないと見たからだ。
実際その見立ては当たっている。ここまででシェイディアは、ロゼリアのおおよその身体能力を見破っていた。回避がぎりぎり間に合わない位置と速度を割り出して、ロゼリアへと闇の剣を放っているのである。ノワール家の戦闘センスの高さが窺える戦い方だ。
こうなってくると、シェイディアからの一方的な戦いになっていく。ロゼリアの能力は高いが、それは魔法の話。体力は徐々に削られて、動きが鈍ってきた。しかし、このままでは終われない。そう思ったロゼリアは土の壁を発動させる。
「くっ、疲れてきてるのに魔法がまだ使えるの?」
シェイディアは焦る。ロゼリアの使った土の壁は、シェイディアの闇の剣を確実に防いでいく。驚いたせいで一瞬状況の把握が遅れたが、それは着実に近付いてきていた。
「そこっ!」
気配を感じたシェイディアが、背後へと剣を振り抜く。ところが、ざばあっと音がしただけだった。
「?!」
シェイディアが斬ったのは、なんと人の姿をした水だった。驚いたシェイディアの首筋に、ロゼリアの剣がぴたりと当てられていた。
「はぁはぁ、私の、勝ちですかね」
「……最後のデコイはなかなかでした」
シェイディアは攻撃態勢にはすぐに移れない状態で立っている。
「あそこから逆転されるとは思いませんでした。……私の負けですね」
ロゼリアの逆転勝ちであった。剣術よりも魔法でのごり押し感はあるものの、これは武術大会なので全然問題ないのである。
「し、勝者ロゼリア・マゼンダ! 剣術も魔法も見応えのある戦いでしたが、最後は思わぬどんでん返しで決着しました!」
実況も興奮気味に喋っている。
「さて、穴だらけにしてしまったので直しておきませんとね」
武台を降りる前に、ロゼリアは土魔法を使って二人で穴だらけにした跡を直していった。
まだ武術大会は予選が始まったばかりである。しかも、二人ともまだその初戦である。残り二試合あるのだ。
だというのに、初戦から意地がぶつかり合った結果、いきなりの消耗となってしまったのだ。
控室に戻ると、試合を見に来ていたペシエラから褒められると同時に怒られていた。なんとも苦い対人戦デビューとなったロゼリアなのであった。
「おっと、ロゼリア選手とシェイディア選手、ともに牽制し合って動きがありません!」
実況にそう言われる始末である。
ロゼリアには逆行前のアドバンテージがあるものの、実戦そのものは対魔物ばかりで、対人戦はほぼ皆無である。
一方のシェイディアは騎士団の練習に出て対人戦を行った経験はあるが、未知の相手だとどうしても受けに回ってしまう癖があった。それがこの膠着状態の理由である。
(対人戦は私の方が経験あるはずです。ここはひとつ……)
「おっと、シェイディア選手が先に仕掛けた!」
自分に分があると踏んだシェイディアが仕掛ける。
それにしても今年の実況はずいぶんと喋るものだ。王子二人が入学してきたとあって固くなっていたのが、三年目となって解れたのだろうか。まあこれだけ喋ってくれれば盛り上がるだろう。
さて試合の方は、シェイディアの突進からの斬りが放たれる。様子見の単純な攻撃である。さすがにこれはロゼリアも反応して……、ってなぜか剣で受けた。普通は躱して反撃を入れるところだろう。
「……読まれましたか」
「危ないわね。躱していたらそこから切り返しが飛んできてたわね」
そう、シェイディアは振り下ろしを止めて、薙ぎ払いへの連携を狙っていたのだ。振り下ろしの速度の遅さを、ロゼリアは見抜いたのである。これはフェイントだと。わざと軽い攻撃を放って、本命はその後に放つ。余裕で躱せるとみると大抵は左右のどちらかに躱す。それを見込んだ攻撃だったのだ。
ロゼリアは剣を弾いて軽く後退する。シェイディアも弾かれた衝撃を利用して後方に下がった。武術大会初出場とは思えない動きだ。
ロゼリアは呼吸を整え、打って変わって自分から攻撃を仕掛ける。しかし、そこは対人戦はずぶの素人の攻撃だ。シェイディアには到底当たらなかった。しかもフェイントを掛ける余裕もない。躱されれば無防備な姿をさらした。
だが、忘れてはならない。これは剣術大会ではない。武術大会なのだ。剣術以外にも、体術や魔法の使用だって可能なのだ。
風魔法を使って攻撃を躱すロゼリア。これにはシェイディアは驚かされた。
「さすがは三属性の使い手。反撃を食らうと分かっているから、とっさにでも発動できるわけね」
ロゼリアの風魔法はかなり精度が高い。ロゼリアのエアリアルボードは、チェリシアやペシエラに劣らない性能を持つのだから当然の話だ。
この風魔法を見せられては、シェイディアも黙ってはいなかった。シェイディアの周りに黒い剣のようなものがいくつも現れる。
「闇魔法?」
「ええ、そうよ。私の家系は闇属性の使い手。当然ながら私だって使えますわ」
そう言うと、シェイディアはロゼリア目がけて闇の剣を投げつける。武台にざくざくと刺さっていく闇の剣。ロゼリアは風魔法を使ってそれを回避していく。ロゼリアの身体能力では回避が間に合わないと見たからだ。
実際その見立ては当たっている。ここまででシェイディアは、ロゼリアのおおよその身体能力を見破っていた。回避がぎりぎり間に合わない位置と速度を割り出して、ロゼリアへと闇の剣を放っているのである。ノワール家の戦闘センスの高さが窺える戦い方だ。
こうなってくると、シェイディアからの一方的な戦いになっていく。ロゼリアの能力は高いが、それは魔法の話。体力は徐々に削られて、動きが鈍ってきた。しかし、このままでは終われない。そう思ったロゼリアは土の壁を発動させる。
「くっ、疲れてきてるのに魔法がまだ使えるの?」
シェイディアは焦る。ロゼリアの使った土の壁は、シェイディアの闇の剣を確実に防いでいく。驚いたせいで一瞬状況の把握が遅れたが、それは着実に近付いてきていた。
「そこっ!」
気配を感じたシェイディアが、背後へと剣を振り抜く。ところが、ざばあっと音がしただけだった。
「?!」
シェイディアが斬ったのは、なんと人の姿をした水だった。驚いたシェイディアの首筋に、ロゼリアの剣がぴたりと当てられていた。
「はぁはぁ、私の、勝ちですかね」
「……最後のデコイはなかなかでした」
シェイディアは攻撃態勢にはすぐに移れない状態で立っている。
「あそこから逆転されるとは思いませんでした。……私の負けですね」
ロゼリアの逆転勝ちであった。剣術よりも魔法でのごり押し感はあるものの、これは武術大会なので全然問題ないのである。
「し、勝者ロゼリア・マゼンダ! 剣術も魔法も見応えのある戦いでしたが、最後は思わぬどんでん返しで決着しました!」
実況も興奮気味に喋っている。
「さて、穴だらけにしてしまったので直しておきませんとね」
武台を降りる前に、ロゼリアは土魔法を使って二人で穴だらけにした跡を直していった。
まだ武術大会は予選が始まったばかりである。しかも、二人ともまだその初戦である。残り二試合あるのだ。
だというのに、初戦から意地がぶつかり合った結果、いきなりの消耗となってしまったのだ。
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