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第十章 乙女ゲーム最終年
第312話 最終局面
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学園祭も終わって、ついに三年次の冬の時期を迎えた。
乙女ゲームでは最終ターンであり、キャラクターによっては重大な戦闘が起きたりするのだが、その対象となる魔物はすでにアイリスの配下となっている。
敵対する人物は居ない、これといったやましい事案も起こしていない。このままいけばハッピーエンドを迎えるはずである。
だが、油断大敵、塞翁が馬、一寸先は闇。いい事も悪い事もいつ起きるか分からないものなのである。去年だって、ペシエラの消滅危機があったのだ。ロゼリアたちは最後まで気を抜かないのである。
その一方で、チェリシアの開発したものはあれこれ実用化に向けて動いている。
まずは豆腐とおから。絞ったり砕いたりという工程がいろいろとネックなのである。魔法でするとしても、それだけの魔法を使える人材は居ないし、道具を使うとしても力の要る作業である。とてもではないが量産化の実現には程遠い。もう半年以上完全人力生産のままのために、近くの飲食店に卸す程度しか作れなかった。
これは紙の方にしてそうだった。こっちも樹皮や草を水に浸して柔らかくした後、粉々に砕く。これも現状の技術では難しい。マゼンダ商会だけではなくドール商会にも協力してもらっているが、何かと難しいようである。
「魔法って何かと便利だけど、人力でするとなると確かに大変よね」
チェリシアもすっかり困っていた。
とりあえず、現状自分で作れる紙は作るだけ作っておく。年末のパーティーで記念撮影をするつもりでいるからだ。写真魔法はチェリシアかペシエラにしか使えないので、王命で量産化が禁止されたカメラの出番となる。というわけで、誰が使うかで王族と相談する必要がありそうだった。ペシエラたちの女王教育の際にでも相談してみようとチェリシアは考えた。
とまぁ、なんだかんだ言いつつも、普段通りの生活を送っているのである。
学園生活も実に平和である。
シルヴァノとペイルの婚約者があっさり決まってしまっているし、どうあがいても他の令嬢たちには勝ち目のない相手なので、そういった醜い争いもまったく起きない。むしろ逆に取り入ろうとして近付いてくる始末である。そんな行動はまったくの無意味だというのに、まぁ必死なものだった。
「そんな事で私が簡単に落とせると思いまして? 私は実力を見ますから、取り入る努力をするくらいなら、自分磨きでもしていてはいかがですの?」
蔑むような視線で学生たちを見るペシエラ。とても十二歳とは思えない迫力である。だが、かえってそれが受けていて、猛烈にアタックを仕掛けてくる学生もいるんだとか。どえむですか。
ペシエラの場合は、学園祭で行われた武術大会で優勝した事が大きく影響しており、学園での人気は王子たちに匹敵するという状況だ。この状況を利用してブロマイドでも売ろうかとチェリシアは考えたが、ペシエラに知れたら確実に雷(物理)を落とされるので思いとどまったという。
その一方で、アイリスの身の回りも変化してきていた。コーラル家の養女として迎えられてその立場が安定してきた上に、今回のペシエラの株の急上昇である。コーラル家を狙って婚姻を申し込む貴族が増えたとかで、プラウスは嘆いていた。ペシエラのあの強さは逆行チートも合わさってのものなので、素の実力とは言い難いのだが。
何はともあれ、辺境の田舎貴族から大きく立場が躍進したものである。ペシエラとサルモアは感慨深かった。
隣国モスグリネとの関係も良好である。ペシエラ消滅危機の際には直に訪問をして、なおかつ王族に認められた上でマゼンダ商会の支部を王都に作ってしまった。
更には商業組合の長であるケットシーにも気に入られているようだし、経済摩擦も起きるとは考えにくい。ただ、そのケットシーが読めない相手なので油断はできない。
「そうやって思えば、本当に予想外の事が起きない限り、この辺りは安泰でしょうね」
「ええ、アイヴォリーやモスグリネ以外の国が絡むとかそれくらいですか」
「他国の情報も王族の伝手やアイリスの能力で集めてるところですわ。特にアイリスの能力の及ぶ範囲は、別にこの辺りに限ったものではありませんもの」
「はい、特に精霊や妖精は世界中に居ますから。ただ、気まぐれですけれどね」
さすがはペシエラ、抜かりはなかった。このペシエラが女王に即位すれば、それこそアイヴォリー王国は安泰の時期を迎えそうである。
このペシエラ、逆行前はロゼリアに対して一方的に恨みを募らせていたただの田舎娘だったのに、本当にいろいろ経験して変わったものである。最初こそ逆行前のイメージで嫌われていたものの、間にチェリシアが入って誤解が解ければ、それはそれは頼もしい味方となった。今ではお互い認め合っている。
しかしだ、それだけでは飽き足らず、もうあいつ一人でいいんじゃねと言わせんばかりの無双ぶり。魔法はさらに強力に、剣術の腕も上がって、まさに強くてニューゲームの状態だった。
それでも、単独ではここまでできなかっただろう。頼れるところは頼ったし、協力し合ってこそここまで来れたのだ。ペシエラは謙虚を学んでいたのだ。シルヴァノの婚約者の立場も、正当な手段で手に入れたのである。
とにもかくにも、この冬は最後の正念場である。全員無事に年を越す。それが当面の目標となったのだった。
乙女ゲームでは最終ターンであり、キャラクターによっては重大な戦闘が起きたりするのだが、その対象となる魔物はすでにアイリスの配下となっている。
敵対する人物は居ない、これといったやましい事案も起こしていない。このままいけばハッピーエンドを迎えるはずである。
だが、油断大敵、塞翁が馬、一寸先は闇。いい事も悪い事もいつ起きるか分からないものなのである。去年だって、ペシエラの消滅危機があったのだ。ロゼリアたちは最後まで気を抜かないのである。
その一方で、チェリシアの開発したものはあれこれ実用化に向けて動いている。
まずは豆腐とおから。絞ったり砕いたりという工程がいろいろとネックなのである。魔法でするとしても、それだけの魔法を使える人材は居ないし、道具を使うとしても力の要る作業である。とてもではないが量産化の実現には程遠い。もう半年以上完全人力生産のままのために、近くの飲食店に卸す程度しか作れなかった。
これは紙の方にしてそうだった。こっちも樹皮や草を水に浸して柔らかくした後、粉々に砕く。これも現状の技術では難しい。マゼンダ商会だけではなくドール商会にも協力してもらっているが、何かと難しいようである。
「魔法って何かと便利だけど、人力でするとなると確かに大変よね」
チェリシアもすっかり困っていた。
とりあえず、現状自分で作れる紙は作るだけ作っておく。年末のパーティーで記念撮影をするつもりでいるからだ。写真魔法はチェリシアかペシエラにしか使えないので、王命で量産化が禁止されたカメラの出番となる。というわけで、誰が使うかで王族と相談する必要がありそうだった。ペシエラたちの女王教育の際にでも相談してみようとチェリシアは考えた。
とまぁ、なんだかんだ言いつつも、普段通りの生活を送っているのである。
学園生活も実に平和である。
シルヴァノとペイルの婚約者があっさり決まってしまっているし、どうあがいても他の令嬢たちには勝ち目のない相手なので、そういった醜い争いもまったく起きない。むしろ逆に取り入ろうとして近付いてくる始末である。そんな行動はまったくの無意味だというのに、まぁ必死なものだった。
「そんな事で私が簡単に落とせると思いまして? 私は実力を見ますから、取り入る努力をするくらいなら、自分磨きでもしていてはいかがですの?」
蔑むような視線で学生たちを見るペシエラ。とても十二歳とは思えない迫力である。だが、かえってそれが受けていて、猛烈にアタックを仕掛けてくる学生もいるんだとか。どえむですか。
ペシエラの場合は、学園祭で行われた武術大会で優勝した事が大きく影響しており、学園での人気は王子たちに匹敵するという状況だ。この状況を利用してブロマイドでも売ろうかとチェリシアは考えたが、ペシエラに知れたら確実に雷(物理)を落とされるので思いとどまったという。
その一方で、アイリスの身の回りも変化してきていた。コーラル家の養女として迎えられてその立場が安定してきた上に、今回のペシエラの株の急上昇である。コーラル家を狙って婚姻を申し込む貴族が増えたとかで、プラウスは嘆いていた。ペシエラのあの強さは逆行チートも合わさってのものなので、素の実力とは言い難いのだが。
何はともあれ、辺境の田舎貴族から大きく立場が躍進したものである。ペシエラとサルモアは感慨深かった。
隣国モスグリネとの関係も良好である。ペシエラ消滅危機の際には直に訪問をして、なおかつ王族に認められた上でマゼンダ商会の支部を王都に作ってしまった。
更には商業組合の長であるケットシーにも気に入られているようだし、経済摩擦も起きるとは考えにくい。ただ、そのケットシーが読めない相手なので油断はできない。
「そうやって思えば、本当に予想外の事が起きない限り、この辺りは安泰でしょうね」
「ええ、アイヴォリーやモスグリネ以外の国が絡むとかそれくらいですか」
「他国の情報も王族の伝手やアイリスの能力で集めてるところですわ。特にアイリスの能力の及ぶ範囲は、別にこの辺りに限ったものではありませんもの」
「はい、特に精霊や妖精は世界中に居ますから。ただ、気まぐれですけれどね」
さすがはペシエラ、抜かりはなかった。このペシエラが女王に即位すれば、それこそアイヴォリー王国は安泰の時期を迎えそうである。
このペシエラ、逆行前はロゼリアに対して一方的に恨みを募らせていたただの田舎娘だったのに、本当にいろいろ経験して変わったものである。最初こそ逆行前のイメージで嫌われていたものの、間にチェリシアが入って誤解が解ければ、それはそれは頼もしい味方となった。今ではお互い認め合っている。
しかしだ、それだけでは飽き足らず、もうあいつ一人でいいんじゃねと言わせんばかりの無双ぶり。魔法はさらに強力に、剣術の腕も上がって、まさに強くてニューゲームの状態だった。
それでも、単独ではここまでできなかっただろう。頼れるところは頼ったし、協力し合ってこそここまで来れたのだ。ペシエラは謙虚を学んでいたのだ。シルヴァノの婚約者の立場も、正当な手段で手に入れたのである。
とにもかくにも、この冬は最後の正念場である。全員無事に年を越す。それが当面の目標となったのだった。
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