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最終章 乙女ゲーム後
第335話 極寒の極楽2
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シルヴァノとブラウニルによる開業前の視察は、温水畑の方へと移っていた。周りを土の建物で囲われているとはいえ、建物の中はとても暖かい。少なくても春先くらいの温度はありそうだった。
建物の中には整地された畑が広がり、そこでは植物が確かに実っている。
「驚いた。これが雪が降っている場所の中にあるというのは、実に驚きですね」
シルヴァノは正直な感想を述べている。
「ここはお姉様肝いりの畑ですもの。雪深いこの村でも年中作物が採れますのよ」
案内役のペシエラが説明をしている。
「おや、これは?」
「これは苺ですわね。一部は加工してジャムになりますわ」
シルヴァノが尋ねればペシエラが答える。周りは誰も言葉を発しない。何という二人の空間。これが恋人同士が醸し出す摩訶不思議空間なのであろう。
「本当に不思議ですね。今は真冬だというのに春先の物が採れるだなんて」
「そうですわね。殿下、よろしければ召し上がられますか?」
「いいのですか?」
「ええ、構いませんわ。あそこに隠れてますが、お姉様がさっき食べてましたので問題ありませんわ」
ペシエラの指摘に、物陰に隠れていたチェリシアがぴくりと反応する。なんでバレているのだろうか。
……居場所をばらされてしまえば、出ていかざるを得ない。チェリシアは物陰から立ち上がって姿を見せた。
「こほん、ペシエラ、いつから気が付いていたの?」
「最初からですわよ、お姉様。私たちが入ってきたのに気が付いて、慌てて隠れましたでしょう? 見てましたもの」
この妹、しっかりチェリシアの行動を目撃していたらしい。油断ならないものである。
「まったくばれてしまっては仕方ないわ。一応私の主導でこの畑は整備しましたから、ここからは私が説明致します」
開き直ったチェリシアは、仕方なく温水畑の説明をするためにペシエラたちと合流する。
「ここの畑は外の大通り同様に、地下に温泉や生活用水に使っている熱水を通しております。理由は人が使いやすい温度に下がるまで冷ますためですが、その時に奪われる熱で地面を温めているのです」
チェリシアによるうんちくが始まる。ペシエラは一度聞いていた説明なので理解できる。だが、シルヴァノたちの中でどれくらいの人間が理解できるのか、まったくもって未知数で難解な説明である。
チェリシアによる畑の説明はまだ続く。今案内している畑は、苺の他に小麦を育てている。この実験を踏まえた上で、他にも種類を増やす予定だという事を説明していた。まったく、平和な野望には余念がないものである。
ただ、この冷やし方ができるのは雪の降る冬場のみで、それ以外は別の方法を取っているらしい。そこは企業秘密という事で、今回はお披露目されなかった。
表立った行動は控えていたチェリシアだったが、実は裏ではめちゃくちゃに動いていた。畑に近くには、雪や冷凍魔法を利用した保存庫が備えられており、これを見たシルヴァノやブラウニルが腰を抜かしそうになったそうだ。
これだけの事をこっそり行えたのにも理由はある。チェリシアだけが使用できる瞬間移動魔法である。ペシエラが女王教育で席を外している間に移動して様子を見て、そして戻ってくるといった事を繰り返していたらしい。
短時間ではあるが事がすんなり進んだのは理由がある。マゼンダ侯爵邸の執事であるトムが居た事である。チェリシアが用意した案の説明書を持ち込めば、トムがしっかり理解して実行してくれたのだ。その上、トムは執事で手先が器用。幻獣であるのでテレポートも使える。こうやってあっさり事は進んでいったので、チェリシアはそれをチェックするだけで済んだのだった。
「ふむ、ここは温泉で慰労ができるし、鉱山に加えて畑までできた。一大生産拠点になりそうですな」
ブラウニルはあごを触りながら、スノールビーをそう評した。
実際、寒冷な事自体を活かした産業もできるだろうし、温泉を利用した産業もまだ未知数だ。チェリシアが全力で投入したかいがあるというものである。ブラウニルの評価を聞いて満足げなチェリシアを、ペシエラがジト目で睨んでいた。
「今日のところはこれで終わりです。お疲れになったでしょうから、温泉に浸かってお寛ぎ下さい」
チェリシアはこう言って、シルヴァノたちを宿へと案内した。
「温泉の湯舟ですが、しっかり体を洗って汚れも石けんの泡も落としてからお浸かり下さい。通常のお風呂と違い、他の方も利用されますのでそれがルールとなります」
チェリシアは温泉の使い方を説明する。シルヴァノたちはそれを一生懸命聞いていた。温泉に入っている間は、男湯の方から満足げに声を上げるブラウニルの声が響いていた。やはり宰相はかなり疲れる職業のようである。
夕食はモスグリネから仕入れた大豆を使った料理が並ぶ。湯葉や温泉豆腐だけではなく、大豆の煮豆まであった。パンと豆腐という組み合わせは、前世日本人のチェリシアからしたら違和感はあったが、ペシエラも満足してくれたようなのでよしとした。
ブラウニルから従業員の対応含めて好評の声を聞いた事で、スノールビーの温泉宿は正式に開業を迎えたのであった。ペシエラはひと安心したように胸を撫で下ろし、チェリシアは両手を握って飛び跳ねて喜んだ。
建物の中には整地された畑が広がり、そこでは植物が確かに実っている。
「驚いた。これが雪が降っている場所の中にあるというのは、実に驚きですね」
シルヴァノは正直な感想を述べている。
「ここはお姉様肝いりの畑ですもの。雪深いこの村でも年中作物が採れますのよ」
案内役のペシエラが説明をしている。
「おや、これは?」
「これは苺ですわね。一部は加工してジャムになりますわ」
シルヴァノが尋ねればペシエラが答える。周りは誰も言葉を発しない。何という二人の空間。これが恋人同士が醸し出す摩訶不思議空間なのであろう。
「本当に不思議ですね。今は真冬だというのに春先の物が採れるだなんて」
「そうですわね。殿下、よろしければ召し上がられますか?」
「いいのですか?」
「ええ、構いませんわ。あそこに隠れてますが、お姉様がさっき食べてましたので問題ありませんわ」
ペシエラの指摘に、物陰に隠れていたチェリシアがぴくりと反応する。なんでバレているのだろうか。
……居場所をばらされてしまえば、出ていかざるを得ない。チェリシアは物陰から立ち上がって姿を見せた。
「こほん、ペシエラ、いつから気が付いていたの?」
「最初からですわよ、お姉様。私たちが入ってきたのに気が付いて、慌てて隠れましたでしょう? 見てましたもの」
この妹、しっかりチェリシアの行動を目撃していたらしい。油断ならないものである。
「まったくばれてしまっては仕方ないわ。一応私の主導でこの畑は整備しましたから、ここからは私が説明致します」
開き直ったチェリシアは、仕方なく温水畑の説明をするためにペシエラたちと合流する。
「ここの畑は外の大通り同様に、地下に温泉や生活用水に使っている熱水を通しております。理由は人が使いやすい温度に下がるまで冷ますためですが、その時に奪われる熱で地面を温めているのです」
チェリシアによるうんちくが始まる。ペシエラは一度聞いていた説明なので理解できる。だが、シルヴァノたちの中でどれくらいの人間が理解できるのか、まったくもって未知数で難解な説明である。
チェリシアによる畑の説明はまだ続く。今案内している畑は、苺の他に小麦を育てている。この実験を踏まえた上で、他にも種類を増やす予定だという事を説明していた。まったく、平和な野望には余念がないものである。
ただ、この冷やし方ができるのは雪の降る冬場のみで、それ以外は別の方法を取っているらしい。そこは企業秘密という事で、今回はお披露目されなかった。
表立った行動は控えていたチェリシアだったが、実は裏ではめちゃくちゃに動いていた。畑に近くには、雪や冷凍魔法を利用した保存庫が備えられており、これを見たシルヴァノやブラウニルが腰を抜かしそうになったそうだ。
これだけの事をこっそり行えたのにも理由はある。チェリシアだけが使用できる瞬間移動魔法である。ペシエラが女王教育で席を外している間に移動して様子を見て、そして戻ってくるといった事を繰り返していたらしい。
短時間ではあるが事がすんなり進んだのは理由がある。マゼンダ侯爵邸の執事であるトムが居た事である。チェリシアが用意した案の説明書を持ち込めば、トムがしっかり理解して実行してくれたのだ。その上、トムは執事で手先が器用。幻獣であるのでテレポートも使える。こうやってあっさり事は進んでいったので、チェリシアはそれをチェックするだけで済んだのだった。
「ふむ、ここは温泉で慰労ができるし、鉱山に加えて畑までできた。一大生産拠点になりそうですな」
ブラウニルはあごを触りながら、スノールビーをそう評した。
実際、寒冷な事自体を活かした産業もできるだろうし、温泉を利用した産業もまだ未知数だ。チェリシアが全力で投入したかいがあるというものである。ブラウニルの評価を聞いて満足げなチェリシアを、ペシエラがジト目で睨んでいた。
「今日のところはこれで終わりです。お疲れになったでしょうから、温泉に浸かってお寛ぎ下さい」
チェリシアはこう言って、シルヴァノたちを宿へと案内した。
「温泉の湯舟ですが、しっかり体を洗って汚れも石けんの泡も落としてからお浸かり下さい。通常のお風呂と違い、他の方も利用されますのでそれがルールとなります」
チェリシアは温泉の使い方を説明する。シルヴァノたちはそれを一生懸命聞いていた。温泉に入っている間は、男湯の方から満足げに声を上げるブラウニルの声が響いていた。やはり宰相はかなり疲れる職業のようである。
夕食はモスグリネから仕入れた大豆を使った料理が並ぶ。湯葉や温泉豆腐だけではなく、大豆の煮豆まであった。パンと豆腐という組み合わせは、前世日本人のチェリシアからしたら違和感はあったが、ペシエラも満足してくれたようなのでよしとした。
ブラウニルから従業員の対応含めて好評の声を聞いた事で、スノールビーの温泉宿は正式に開業を迎えたのであった。ペシエラはひと安心したように胸を撫で下ろし、チェリシアは両手を握って飛び跳ねて喜んだ。
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