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最終章 乙女ゲーム後
第334話 極寒の極楽
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五年次の冬、いよいよスノールビーに温泉宿泊施設が開業する。温水を張り巡らせた暖房設備の事を考えると、冬にお披露目するのが一番だったからだ。
ただ、村に到着するまでが大変である。街道も整備されたが、なにぶん雪深い地域である。それこそ小まめに除雪しないと道が消えてしまうのだ。
だが、これもチェリシアが力業で解決していた。空気の壁を利用したスノーシェードを魔道具化して設置したのである。いつの間にこんな事をしていたのだろうか。本当にめちゃくちゃな異世界転生者である。
ちなみにこのスノーシェード、外からの攻撃を凌いでしまう。しかも距離があるので、その間は安全に移動できるという代物である。うーん、規格外。
魔道具に使っている魔石はフォレストバードのもの。これだけの防御を持ちながらも、使っているのは実に簡単な魔法なので、交換なしで一年間は平気で保つ。しかも魔石を外してもしばらく持続するという安全機能付き。一個あたりのカバー範囲も広いので、管理も簡単だった。
それにしても、チェリシアはいつの間にこんなものを仕込んでいたのだろうか。さすがはヒロイン、どうとでもしてしまうのだった。
マゼンダ商会の案内の下、お城からはシルヴァノとブラウニル宰相の二人が参加している。
例のスノーシェードは、見るからに不思議な光景を作り出していた。
「すごい、まるで雪の門だ……」
こう感動しているのはシルヴァノである。語彙力と突っ込みたいところだが、この世界にはトンネルも洞門も言葉として存在しない。つまり、目の前の景色を正確に表現できる言葉がないのだ。なので、シルヴァノの表現はこの世界における精一杯のものなのである。
さて、到着した村の様子は閑散としている。さすが雪深い季節な事はある。商会を通して触れて回ってはいたのだが、氷山エリアの一画とあっては人は足を運びづらい。仕方のない事なのである。
村の中は街道と違ってスノーシェードは存在しない。その代わり温水と側溝によって雪が積もらないようにされていた。温かい地面に触れた雪は融け、それが側溝から村の外へと流れて行く。そして、外でため池に溜まって生活用水となる。よく考え出されたシステムである。とはいえ、火山と温泉という組み合わせがあってこそ構築できるシステムである。一般に使えるわけではなかった。
シルヴァノとブラウニルは、一番客として宿に入る。
「いらっしゃいませ!」
商業ギルドから指導を受けた従業員がシルヴァノたちを迎える。数人混ざっている村人は緊張のあまりに震えている。王族の相手をするのだから無理もない。平民にとって王族は雲の上の存在なのだ。
「ようこそおいで下さいましたわ、殿下」
「お待ちしておりました、シルヴァノ殿下」
宿で対応に当たっていたペシエラとチェリシアが姿を現した。今回の事でいろいろと事前チェックをしに来ていたのである。マゼンダ領内だというのに、コーラル伯爵令嬢姉妹が居るというのはなんとも不思議な光景だが、マゼンダ商会の経営者なのだから問題ない。
「ここからは私たちがご案内致しますわ」
「一応館内は土足厳禁でございますので、そちらで上履きに履き替えて頂きますようお願い申し上げます」
ペシエラとチェリシアの案内で、下駄箱で上履きに履き替えるシルヴァノたち。服装からするとスリッパは似合わないのだが、ここで笑ってはいけない。チェリシアが必死に堪えている様子に、ペシエラが脇腹に肘を一発叩き込んでいた。
「ん? チェリシアはどうしたんだい?」
「いえ、気になさらないで下さいませ。ここからは私一人でご案内致しますわ」
首を傾げているシルヴァノに、ペシエラは無表情で答えていた。ちなみにチェリシアは、ペシエラの隣で脇腹を押さえてうずくまっていた。心配そうに付き添いの人たちが見ていたが、ペシエラはさっさと無視して案内を始めた。
しばらくして復活したチェリシアは、ペシエラに案内を任せて温泉や温水畑の方へと向かった。この後説明のために回るからだ。
この村はマゼンダ領のためのテコ入れの仕上げともいえる場所だ。それゆえに今回のシルヴァノとブラウニルによる視察は成功させたいものである。チェリシアの気合いは最高潮に達していた。
「お湯の温度はいい感じね。これなら問題ないわ」
温泉のチェックを済ませたチェリシアは、すぐさま温水畑の方へと移動する。
温水畑とは、温泉のお湯を地面の下に通して温めた上に作られた畑である。ついでに言うと、温泉用のお湯を冷ますための経路上に作られている。実に無駄のない設計になっているのだ。
その畑はというと無事に作物を実らせている。さすが二年間のテストの結果である。去年はさすがに失敗があったが、その失敗の反省を踏まえた成果が出ていたのだ。このまま軌道に乗れば、村の食糧問題は解決しそうである。
チェリシアは実っている作物を、農作業をする人に許可を取った上で一つ食べる。うん、おいしい。
確かな手応えを掴んだチェリシアは、ペシエラたちが畑にやって来るのを今か今かと待ったのだった。
ただ、村に到着するまでが大変である。街道も整備されたが、なにぶん雪深い地域である。それこそ小まめに除雪しないと道が消えてしまうのだ。
だが、これもチェリシアが力業で解決していた。空気の壁を利用したスノーシェードを魔道具化して設置したのである。いつの間にこんな事をしていたのだろうか。本当にめちゃくちゃな異世界転生者である。
ちなみにこのスノーシェード、外からの攻撃を凌いでしまう。しかも距離があるので、その間は安全に移動できるという代物である。うーん、規格外。
魔道具に使っている魔石はフォレストバードのもの。これだけの防御を持ちながらも、使っているのは実に簡単な魔法なので、交換なしで一年間は平気で保つ。しかも魔石を外してもしばらく持続するという安全機能付き。一個あたりのカバー範囲も広いので、管理も簡単だった。
それにしても、チェリシアはいつの間にこんなものを仕込んでいたのだろうか。さすがはヒロイン、どうとでもしてしまうのだった。
マゼンダ商会の案内の下、お城からはシルヴァノとブラウニル宰相の二人が参加している。
例のスノーシェードは、見るからに不思議な光景を作り出していた。
「すごい、まるで雪の門だ……」
こう感動しているのはシルヴァノである。語彙力と突っ込みたいところだが、この世界にはトンネルも洞門も言葉として存在しない。つまり、目の前の景色を正確に表現できる言葉がないのだ。なので、シルヴァノの表現はこの世界における精一杯のものなのである。
さて、到着した村の様子は閑散としている。さすが雪深い季節な事はある。商会を通して触れて回ってはいたのだが、氷山エリアの一画とあっては人は足を運びづらい。仕方のない事なのである。
村の中は街道と違ってスノーシェードは存在しない。その代わり温水と側溝によって雪が積もらないようにされていた。温かい地面に触れた雪は融け、それが側溝から村の外へと流れて行く。そして、外でため池に溜まって生活用水となる。よく考え出されたシステムである。とはいえ、火山と温泉という組み合わせがあってこそ構築できるシステムである。一般に使えるわけではなかった。
シルヴァノとブラウニルは、一番客として宿に入る。
「いらっしゃいませ!」
商業ギルドから指導を受けた従業員がシルヴァノたちを迎える。数人混ざっている村人は緊張のあまりに震えている。王族の相手をするのだから無理もない。平民にとって王族は雲の上の存在なのだ。
「ようこそおいで下さいましたわ、殿下」
「お待ちしておりました、シルヴァノ殿下」
宿で対応に当たっていたペシエラとチェリシアが姿を現した。今回の事でいろいろと事前チェックをしに来ていたのである。マゼンダ領内だというのに、コーラル伯爵令嬢姉妹が居るというのはなんとも不思議な光景だが、マゼンダ商会の経営者なのだから問題ない。
「ここからは私たちがご案内致しますわ」
「一応館内は土足厳禁でございますので、そちらで上履きに履き替えて頂きますようお願い申し上げます」
ペシエラとチェリシアの案内で、下駄箱で上履きに履き替えるシルヴァノたち。服装からするとスリッパは似合わないのだが、ここで笑ってはいけない。チェリシアが必死に堪えている様子に、ペシエラが脇腹に肘を一発叩き込んでいた。
「ん? チェリシアはどうしたんだい?」
「いえ、気になさらないで下さいませ。ここからは私一人でご案内致しますわ」
首を傾げているシルヴァノに、ペシエラは無表情で答えていた。ちなみにチェリシアは、ペシエラの隣で脇腹を押さえてうずくまっていた。心配そうに付き添いの人たちが見ていたが、ペシエラはさっさと無視して案内を始めた。
しばらくして復活したチェリシアは、ペシエラに案内を任せて温泉や温水畑の方へと向かった。この後説明のために回るからだ。
この村はマゼンダ領のためのテコ入れの仕上げともいえる場所だ。それゆえに今回のシルヴァノとブラウニルによる視察は成功させたいものである。チェリシアの気合いは最高潮に達していた。
「お湯の温度はいい感じね。これなら問題ないわ」
温泉のチェックを済ませたチェリシアは、すぐさま温水畑の方へと移動する。
温水畑とは、温泉のお湯を地面の下に通して温めた上に作られた畑である。ついでに言うと、温泉用のお湯を冷ますための経路上に作られている。実に無駄のない設計になっているのだ。
その畑はというと無事に作物を実らせている。さすが二年間のテストの結果である。去年はさすがに失敗があったが、その失敗の反省を踏まえた成果が出ていたのだ。このまま軌道に乗れば、村の食糧問題は解決しそうである。
チェリシアは実っている作物を、農作業をする人に許可を取った上で一つ食べる。うん、おいしい。
確かな手応えを掴んだチェリシアは、ペシエラたちが畑にやって来るのを今か今かと待ったのだった。
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